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メイドさんと僕の恋

これは僕の普通な中学校生活の話。今日も特にいつもとなんだ変わりは無かった。僕がちょっいと勇気を出して、それが徒労に終わったそれだけのいつもと変わらない日の話。


だから、いつもと違ったのは、放課後寄り道もせずに家に帰っただけ。僕はいつも通りメイドさんの声のお出迎えに元気に挨拶して部屋に隠り、全然手の進まない問題集を広げて、いつも通りメイドさんの料理を食べて、いつもより早めにベッドに潜った。そして、そんな何の変化も無い日常に涙する。


普段、僕に何気に気軽に話掛けてくるあの娘。彼女は少なからず僕に気がある。多分、イケるだろうと楽観視してた。体育館裏と言うベタで最高なシュチエーションを選んだつもりだった。僕は頑張った。それはこの日までに、幾晩も寝ずに考えた末に生まれたベタな決めゼリフを少し咬んだけど、それはご愛嬌だ。


僕に何が足りなかったのだろう。僕の何が悪かったのだろう。何もかもが足りなかったのだろう。何もかもが悪かったのだろう。僕の何もかもが否定された、そんな感じ。生きててごめんなさい。


「坊っちゃん、失礼しますよ」


返事も聞かずに失礼しないで欲しい。男の涙は見せてはいけないのだ。


「坊っちゃん、学校で何かありましたか?」


廊下から射し込む電灯の光とメイドさんの妙に優しい声。


何も無かったと言うことにしておきませんか?


「学校で苛められたとか?」


僕の否定を信じる訳もなく、僕の眠る後頭部の近くに腰掛ける不届き者。主人のベッドを不法占拠するメイドさんなんか、僕の赤くなっている眼など見せたく無いから、確認はしない。語る必要も無い。


「もしかして、フラれちゃいましたか?今日の髪のセット、気合い入ってましたものね?」


本当に言葉を交わす必要なく察しやがった。そのたまに見せる勘の良さで、僕の意気消沈を察して、今日はそっとしておいてくれないですか?


「そうですか。坊っちゃんも恋する歳になったんですねぇ」


嬉しそうな声で、僕の頭を擦り出すメイドさん。拗ねたまま、やり過ごそうと思っていた僕。思わず身体を起こす。恥ずかしいから止めなさい。

僕がやっと顔を上げてほくそ笑むメイドさん。何がそんなに面白いのですか?ええ、そうですよ、僕は勇気と無謀を取り違えて暴走した愚かな男ですよ!


「坊っちゃん、失恋なんて誰もが経験するものですよ」


三十七歳独身な貴女でもですか?ええ、これは皮肉です。


「坊っちゃん、前にもお話したと思いますが、私はこう見えても、いえ、見た目通り引く手あまたなモテモテだったんですよ?」


その話は、僕の脳内裁判で陪審員の過半数の判決で嘘と可決しました。判決の決め手は、その歳でお嫁さんになれず、家政婦やってる事です。


「生意気な事を。とにかくモテモテだったんです。そういう事にしておいて下さい」


そういうことにしておいてあげます。ところで、そろそろ僕は寝たいんだけど。メイドさんの自慢また今度、気分の良いときに聞いてあげますよ。


「そんな周囲の男達の高嶺の花だった私。ラブレターやプロポーズなんて腐るほど貰った訳です」


ハハハ、そうですか。大層モテたんですね。それはそうといい加減に…。


「でも、全部断りました。私、好きな人が居たんです。とても素敵な人でした。でも、その好きな人からはいくら待てども、何も無かったんです。その人にも好きな人が居ましたから。それは、私の横に居た友達でした」


メイドさんが寂しそうな眼で笑いながら、僕の顔を見ている。そんなメイドさんの顔を見ているとこの話が即興の作り話だと思えなくなってしまう。


「ねぇ、坊っちゃん。人は誰を好きになってもいいんです。それはこの世界の誰もが与えられた権利ですよ」


その好きな気持ちを伝えた結果が今日の惨劇なんだけど?


「坊っちゃん、そのお相手も誰を好きになっても良いんです。坊っちゃんだけが自由に恋をして言い訳じゃないですよ」


つまり、お相手は僕の事が好きじゃなかったという結論に再びたどり着く訳ですね。遠回りしてまた、僕に屈辱を味あわせてくれてありがとう。


「違いますよ。坊っちゃんが誰を好きになるのも自由、お相手が誰を好きになるのも自由。だから、坊っちゃんが好きだと言うのは、自由なのです。それが通じ無かったとしても、坊っちゃんがそれを恥じる必要は全く無いのです。それよりもその人を好きになれた事を誇りなさい。それは大変素晴らしい事なのですから!」


何が素晴らしいのかは全然分からない。でも、胸を張って言うメイドさんに、フラれたぐらいで不貞腐れていた僕が恥ずかしくなって来る。そう、ただ僕は自由に彼女を好きになっただけ、それだけの事じゃないか?


「大丈夫。そのうち、坊っちゃんも素敵な人に好かれますよ。素敵な女性代表の私が言うのですから、間違いありません」


かなり当てにならない予言だね。嫁ぎ遅れた女性代表じゃあね。


「心配ありませんよ。後、十年経って、坊っちゃんがイケメンになっても、素敵な人が出来なかったら、私がなってあげますから」


ワォ、嬉しいね。でも、僕の自由に恋する権利をフル活用させて貰いたい。四十越えたおばさんは、僕のストライクゾーンを大幅に外れた大暴投。今から、十年若返って、モテモテになってから出直して来なさい。そうしたら、デートぐらいしてあげるよ。


「口の悪い餓鬼ですねぇ」


口の悪いメイドは、そう言って僕の頭を軽くもみくちゃにした後、お休みなさいの一言と共に去っていく。


メイドさんが僕の恋人ねぇ。

有り得ねぇ!


似合わな過ぎるので、そんな馬鹿な想像は消し去って、さっさと寝てしまおう。

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