メイドさんと僕の誕生日
今日は僕にとって記念すべき日。今日で僕は十三歳になる。
学校では、友達に祝いの言葉を言われたが、別にそれほど嬉しくも何とも無い。プレゼントを殆ど僕と財政状況の似て金欠な中学生の友達にねだっても出てくる訳も無く、だからと言って、邪険に扱う訳にもいかず何だか気まずくありがとうとだけ返す、どうって事の無い日だ。
僕はもう中学二年。誕生日ぐらいではしゃぐのは、小学生まで。僕も少しは大人に近付いているんだ。
その大人心を察してくれないメイドさん。夕食の席に並ぶフライドチキンに、手巻き寿司、僕の大好物認定のハンバーグに、ワンホールの手作りバースデーケーキ。明日の夕飯に今日の残り物が出ること間違い無しの量。
「さて、坊っちゃんのバースデーパーティーを始めましょう!」
祝われる僕よりも、メイドさんがはしゃいでる。ここまでやって貰った親切を僕がつまらなそう顔をして無下にするわけにはいかないから、大人の配慮として仕方なく、このささやかな祝いの宴を楽しむとしよう。それに大人になっても誕生日を祝われるのは、まぁ、嬉しいもの何だろう。
「すいません。本来ならロウソクを吹き消して貰うところ何ですが、買い忘れちゃって。でも、坊っちゃんも、もうロウソクを吹き消して喜ぶ御歳では無いですよね」
笑いながら、ケーキを切り分けるメイドさん。
うん、別にロウソクの火を消して何が楽しいんだって思う年頃です。
「あっ、旦那様は今日もお仕事で遅くなるそうですが、バースデーカードを頂いてますよ。読み上げましょうか?」
エプロンのポケットの中から出てきた一枚の四角い洋風便箋。
チキンに食らいついていた僕は、絶対に読まれたら恥ずかしい内容だろう中身の読み上げはお断りして、一応父さんからのバースデーカードを受け取って置く。
父さんは結構こういうイベントには律儀で良い父親であろうとする。別に息子の誕生日祝いに出れなく、メッセージすらも贈らなかったからと言って、僕は嫌いになったり、グレたりはしないのだが。貴方の息子は、父さんが僕の為に汗水垂らして夜遅くまで働いてくれている事をしっかり理解している良き息子なのです。
「それで!こっちは私からのプレゼントです」
貰った包みの中から出てきたのは、真新しいヘアブラシにヘアクリームにヘアワックス。
「そろそろ坊っちゃんも身だしなみに気を使い出す時期かと思いまして」
含み笑うメイドさん。これは、僕が毎朝こっそりと父さんの整髪剤をくすねてるのを知ってるな。有り難く受け取ってあげるから、そのしたり顔をおやめなさい。
満更、悪くなかったメイドさんプレゼンツの誕生会を終えて、自室に戻った僕。父さんからの手紙を開く。入っていたのは二枚の紙。
冒頭部分は去年と殆ど同じ文。
『遼太。誕生日おめでとう。プレゼントを用意したかったが、父さん、お前が何が欲しいか分からないからこれで好きな物を買いなさい』
メッセージと同封されていたもう一枚の紙。日本人に大人気な福沢諭吉さんの描かれている月収三千円という僕にはレアな紙切れ。現金な僕としては変な物を贈られるより、よっぽど嬉しいです。お父様、有り難うございます。
『父さんは仕事が忙しくて誕生日を一緒に祝ってあげられない。ごめんな。母さんが居なくなってから、仕事ばっかりでお前を一人残して全く構ってやれずに寂しい想いをしていると思う。本当にすまん』
息子の事を想う良い父親ですね?
でも、心配ご無用です。胸を張って寂しく無いと言うのは母さんに申し訳ないと思うけど、そこまで寂しい訳では無いよ。僕はもう中学生だしね。あっ、某お笑い芸人じゃないよ。
第一、僕は一人で家に残されてはいない。素敵なオバ、お姉さんがいらっしゃいます。
『夏休みは、父さんも仕事を休むから、二人でキャンプしに行こう。PS.家政婦の田中さんにあまり迷惑を掛けないように。数学で赤点を取らないよう勉強を頑張りなさい』
父さんめ、余計な追伸を。メイドさんに読み上げさせなくて良かった。
それにしても、夏休みに父さんと二人でキャンプか。どうせ、仲の良い父と息子が、都会には無い大自然の中で、絆を深めるという父さんの夢のようなイベント計画だろうけど。そんな珍しい事をしたら、普段以上に何を話せば良いか分からなくなって、寡黙でぎこちないキャンプになりそうだ。ここはその暗いムードを払拭するために、是が非でもメイドさんにもついて来て貰おう。
「坊っちゃん!早くお風呂にお入り下さい!」
一階からメイドさんの声が聞こえる。
僕は、適当に返事を返してパジャマとメイドさんに貰ったプレゼントを持って部屋を出た。
何となく頭に残った父さんのメッセージの中の母さんの事を考えながら。