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近衛騎士団の夜勤には何かある

作者:
掲載日:2026/08/02

夏のホラー2026 参加しています。

今日は夜勤だ。


「あれ、アンちゃん夜勤?」


「はい、また当たっちゃいました」


私は子爵家の次女。侯爵家のガヴァネスを務めていたけれど、子供達がアカデミーへ進学したため、侯爵様のお口添えで近衛騎士団の事務兼治癒職に就くことになった。


今日も夜勤。

でも少しだけ嬉しい。


副団長のアーサー様も夜勤。

ウィンダム侯爵様の弟君、アーサー・ウィンダム卿。

ご令嬢たち断トツ人気の独身男性。


ガヴァネス時代から変わらず優しい、ずっと憧れのお方。


◇ ◇


「アン嬢、今夜の夜食は美味かった」


「アーサー副団長様にお褒めいただき光栄です」


「そんなに畏まらなくて構わない」


「でも」

アーサー様は侯爵家の方、立場が違う。


「同じ釜の飯を食っているのだ、気にするな、それに貴方には世話になってばかりだ」


「いえ、そんな」


アーサー様のお怪我は、私の治癒力が早く効いて治るといつも呼ばれているから。


夜更けの騎士団は静かだ。


騎士様達の夜食の片付けを済ませ、蛇口をきつく閉めてから食堂を出ようとした。


サーーー


ん?お水?

振り返ると、閉めたはずの給水ポンプから水が流れ出している。


「あれ……?」

もう一度、しっかり閉める。


よしこれで大丈夫、食堂を出ようとした時だった。


サーーー〜ーーッ


振り返ると、また洗い場の給水ポンプから水が出ている。


小さく息を飲み込む。

もう一度、しっかり栓を留め、今度こそ足早に食堂を出ようとしたら、


サーーーザザーー〜ザ〜〜〜〜〜〜


振り向くことができない。

副団長室まで走る。



コンコン。


「誰だ」


「あの、遅くに申し訳ございません、アンです」

息が上がってる。


ガチャ、すぐに副団長室の扉が開く。

騎士服を脱いだシャツ姿のアーサー様にドキッと。

今はそれどころじゃない。


「アン嬢どうした」


「あの、食堂のポンプのお水が、止めてもすぐに出てきて、お昼は大丈夫だったのです」


「漏れ出るのはそこだけか」


「はい、食堂だけです、三回も、栓は閉めたのですが」


「他の者は見回りに出ている、私が見てくる。アン嬢は先に部屋に戻って」


「はい、よろしくお願いします」


剣を手に駆けて行くアーサー様の後ろ姿に、少し安心した。



女子の仮眠室で軽く湯を浴び、湯を止める。


カラン。

しっかり栓を閉めて、浴室を出ようとした瞬間。


サーーーー〜


「えっ?」振り返ったら。


ザ〜〜〜〜〜〜〜ザザッザッ〜!


湯口から激しく水が噴き上がり、透明な何かが、こちらを見た。


「ひっ、きゃああああっ!」


腰が抜けて尻餅をついた。

足に力が入らない。

逃げられない。

アーサーさまっ。



ドンドンドンドン!ドンドンドンドン!



「アンっ、無事かっ」


「アーサーさまっ、た、助けて!」



バアンッ!


ドアが蹴破られアーサー様が飛び込んできた。


「!! アン、伏せろっ」


アーサーの氷槍が一直線に飛ぶ。


ビシュッ!


凍てつく氷の剣が水しぶきを裂き、何かは、霧のように散った。


流れ続けていた水も、ぴたりと止まる。


「もう大丈夫だ」


私は何も言えず動けず、涙が溢れるばかり。

アーサー様が一瞬、瞠目なさったけど。


けれどすぐに、その場にあった大きなリネンで私を包み、抱き上げて副団長室へ運んでくださった。


その夜は、アーサー様が寝ずの番で、ずっと側にいてくださった。




翌朝。

私は子爵家へ帰れず、アーサー様にウィンダム侯爵家へ連れて行かれた。


久しぶりに侯爵様とお会いすると。


「今朝未明に弟から連絡があり、即座に子爵家へ正式な婚約の申し入れをしている」


「え……?」


侯爵様とアーサー様を見る。侯爵様は笑顔。


アーサー様はまっすぐ私を見つめて仰った。


「昨夜、私はあなたを守るためとはいえ、あなたのその……大切な姿を見てしまった」


「…あ」

私は一糸纏わぬ姿で助けていただいたのだった。

思い出して真っ赤になる。


「責任を取らせていただきたい」


アーサー様が私の前に跪き、手をそっととられた。

「アン嬢、私の妻になって共に生きてほしい」


その横で、兄である侯爵様が静かにうなずいた。


「以前から弟は、君のことを大切に思っていた。先程、子爵家から承諾書が届いた。昨夜は、ただ最後の理由ができただけだ」


恥ずかしくてアーサー様のお顔が見られないけれど頷いた。


「つつしんでお受けいたします」





あの水中でうごめいていたものの正体も分からないまま。


後日、騎士団長と古参の騎士が話していた。


「団長、良かったですな」


「これでアーサーもようやく腹をくくった。さすがウィンダム侯爵殿、怪物と呼ばれる所以だ」


「しかし……」


「どうした」


「食堂の給水ポンプには、小さな水スライムを一匹入れただけのはず」


団長は眉をひそめた。


「……それだけか」


「女子仮眠室の浴場には、何も入れておりません」


しばらく沈黙が流れた。


サーーー


団長室の奥から、水の流れる音が聞こえた。


二人はゆっくりと顔を見合わせる。


サ〜〜〜〜〜〜〜〜〜


最後まで読んでいただいてありがとうございます。


みなさまからの、評価、リアクション、ブクマ、嬉しく思います。





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