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彼女は静かに笑んだ

掲載日:2026/01/29

 街外れにある墓地は静謐な空気に満ちていた。

 死者を弔う慈悲の心を大して持ち合わせていない自分はここに足を踏み入れる資格はないのではないか。毎回そう思いながらも、マクシミリアンは目的の墓の前へと向かう。

 

 そこにはひとりの女がいた。

 真新しい墓の前で立ちすくむその姿は、今にも消えそうなほど儚い。

 

「ここにいたんだな、ダリア」

「騎士様。今日も来てくださったんですね」

 

 笑みを見せた彼女の顔はやつれている。薄茶色の髪はパサつき、灰色の瞳にはうっすらと涙が滲んでいる。

 

 彼女はつい先日、ここら一体を荒らしている盗賊団に家族を殺された。家族と共に参加した夜ミサで襲撃に遭ったのだ。


 盗賊団は自らを『真の正義』と名乗り、天罰だとのたまって数々の悪行を繰り返している。

 乞食や傭兵くずれが集って出来た集団だと言われており、非常に危機察知能力が高く、騎士団が根城を把握し突撃した際には既に逃げおおせているため、捕まえることが難しかった。


 これまでは富裕層の屋敷を狙っていたので、庶民にとっては対岸の火事だった。

 だが、今回教会が襲われたことで一気に街は緊張感に包まれた。

 

 事件当時教会にいた者たちは大半が死亡した。助かったのは、咄嗟に物陰に隠れることができた少数の者たちだけだった。

 

 ダリアはその中のひとりだ。

 盗賊団の襲撃を聞きつけ、騎士団はすぐさま教会に駆けつけた。その頃には既に盗賊団は撤退しており、辺りには死に絶えた人々が転がり、夥しい量の血で染まっていた。

 

 夜番だったマクシミリアンも教会に駆けつけ、その凄惨な現場を目の当たりにした。盗賊に投げられたのか、乱雑に積み重なった長椅子の下からダリアを見つけ出したのはマクシミリアンだ。

 血に塗れ、魂が抜けたように呆然とした彼女の姿をよく覚えている。灰色の瞳は声をかけたマクシミリアンを捉えているのに、何も映していないように見えた。

 

 危ういと、マクシミリアンは直感で思った。

 だからか、こうして柄にもなくちょくちょく彼女の様子を見に来ている。

 

「体調はどうだ?」

「問題ありません。元々大した怪我ではありませんでしたから……」

 

 あの時ダリアに付着していた血液は、彼女を庇った両親のものだったらしい。

 

 神聖なミサを冒涜するような盗賊団の襲撃。目の前で両親を殺された体験は、彼女にどれほどの苦痛をもたらしたのだろうか。


 ミサへの襲撃で生き残った人間は様々な反応を示した。大切な人を失った悲しみから後を追おうとする者、心痛に耐えきれず事件のことから目を背けて一刻も早く日常へ戻ろうとする者、神を嘲るためだけに罪のない人々を襲った盗賊団に強い憎しみを示す者。


 ダリアは悲しみを抱いてはいるが、両親の後を追うつもりはないようだ。こうして頻繁に両親の墓を見舞うのは事件と向き合い続けていると言えるだろう。そして、彼女は盗賊団への憎しみらしき憎しみの言葉を漏らしたことがない。

 

 ふと、マクシミリアンは気になった。他の被害者は大なり小なり盗賊団への怒りを見せた。事件から目を背けた者でさえも、なぜこんな事をと嘆いた。誰もが必ず怒りの感情をあらわにした。

 けれど、ダリアは一度たりともそのようなことはなかった。

 

「あんたは、殺したくならないのか?」

「……盗賊団を、ですか?」

「ああ」

 

 無神経な質問をしたにも関わらず、彼女は大して気にしていないように微笑んだ。

 

「そう仰っている方がいるのは存じています。あんなことがあったんですもの、犯人を憎んで当然です。……私も、盗賊団が憎いですよ。恨んでいます。でも」

 

 灰色の瞳がマクシミリアンを見上げる。ガラスのように澄んだ瞳に自分が写っているのがよく見えた。

 

「憎むのはつらいことですから。たとえ親の仇であったとしても……私は憎しみを抱き続けることには耐えられないのです」

 

 彼女の胸元でロザリオのペンダントが光る。夜ミサに参加するほど熱心な信徒。『人を憎むより、許し愛を与えよ』という教えを頑なに守ろうとしているのだろうか。

 

「そうか。……変なことを聞いて悪かった」

「いいえ。みなさん、私を気遣ってこうした話題をしたことありませんでしたから、むしろ自分の気持ちの整理にもなって良かったです。騎士様、落ち着かれた雰囲気が牧師様に似ていて……懺悔室にいるみたいになんでも話せてしまうんです」


 それは威厳を持つべき騎士への褒め言葉なのだろうかとマクシミリアンが考えていると、ダリアは用事があるからと一礼して墓地を後にした。フラフラと頼りない足取りを見て、家まで送ろうか迷うが、以前も同じ申し出をして断られたことがあったことを思い出す。

 

 マクシミリアンは、ただ黙って小さな背中が見えなくなるまで見送った。まるで、一瞬でも目を離したら途端に消えてしまうとでもいうように。





「マクシミリアン。お前、最近彼女ができたんだって?」

 

 出勤してすぐ同僚のケビンからかけられた言葉に、マクシミリアンは眉を顰める。

 

「妄想癖でもあるのか、お前は」

「え、違うのか? だって、あの『仕事を問題なくこなすこと以外関心がない鉄面皮』が、かわいい子と楽しそうに話してる姿を見たって噂になってたぞ」

 

 ダリアのことだと、マクシミリアンは察した。

 彼女と会うのは主にひと気のないあの墓地だが、たまに街で見かけた時も声をかけていた。それを目撃されたのだろう。

 

「ただの知り合いだ。……例の夜ミサ襲撃事件の被害者だよ。調子が悪そうだったから、時々声をかけてただけだ。彼女は両親が殺されてひとりきりになったからな」

「ふーん……じゃあ、お前の片思いってわけ?」

「なんでそうなる」

「だって、お前が誰かを気遣うことなんて珍しいだろ? 今まで襲撃事件の被害者を気にかけてたことなんてあったか? その子だけ気にかかるのは、お前にとって特別な存在ってことじゃん」

 

 咄嗟に反論しようと口を開いたが、ケビンの推測はあながちはずれてはいないのではないかと気がついた。

 これまでも盗賊団の被害にあった者たちを救助したことがある。その中にはダリアのように若く、大切な者を失い憔悴した哀れな女もいた。

 

 だが、マクシミリアンはその女を労ったことも街で声をかけたこともない。顔すら覚えてはいなかった。騎士としての仕事を果たせたら、どうでもよかったからだ。

 

 マクシミリアンはそれくらい薄情な人間だ。なのに、どうしてダリアにはこんなに関心を寄せてしまうのか。


 あの弱々しい姿が庇護欲をくすぐるのだろうか? 今にも儚くなりそうだから、不安で姿を確認したくなるのか。

 いいや、とマクシミリアンは思い直す。

 きっとあの灰色の瞳のせいだ。生きた人間の目なのに、どこか無機質な冷たさを感じさせるあの瞳が、マクシミリアンを惹きつけるのだ。

 

「あれ……急に黙ってどうした? 図星だったか?」

 

 常にないマクシミリアンの反応に、人懐こいケビンは楽しそうに目を輝かせた。

 この男は好奇心旺盛で、噂話や楽しそうなことには首を突っ込まずにはいられない性格をしている。疎まれそうにも思われるが、彼は人に好かれやすい性質なのか、団長たちにも可愛がられていた。

 本人曰く、幼い頃に親に捨てられたために人の感情に聡く、取り入る術に長けているそうだ。

 

「お前、初恋だろ? 初恋だよな? なら、どうやって彼女と距離を縮めればいいのかわかんないよな。……よし! 俺が教えてやるよ! まずーー」

「いらん。……それに、お前が思っているようなもんじゃない」

 

 ケビンは人の感情を見抜くのが得意だが、今回ばかりは外れていた。

 マクシミリアンは恋などしたことがないが、これは恋などという感情ではないだろう。ダリアを見て胸がときめいたことなどもないし、触れたいと思ったこともない。ただ、気にかかる。それだけの話だ。

 

「彼女は前から世話になってた薬屋だからな。両親も亡くなってあの事件から店が閉店してるから、彼女には早く回復してもらわないと困るんだよ」

「それだけじゃないだろ? 絶対にお前はその子に惹かれてるって! ……ん? あれ、薬屋の娘ってことは、もしかしてその子ってダリアちゃん?」

「……知ってるのか?」

「知ってる知ってる! 入隊したばかりの頃、怪我が酷くてさー、あの薬屋に世話になったんだよ。あの店の薬、すげー効きがいいんだよ。薬草の知識が半端ないし、瘴気の森にすら平気で入って行けるらしい」


 瘴気の森とは街の近くにある鬱蒼とした森だ。日中でも日がさすことはなく、常にじめじめとしている。

 毒を持つ生物も多く、滅多なことでは足を踏み入れるものはいない。


「彼女もか?」

「ああ。むしろ、一番詳しいらしいぞ」


 あの華奢な体で瘴気の森に踏み入っていけるのかと、マクシミリアンは驚いた。


「でも……そうか。みんな犠牲になったのか。あの家は敬虔な信徒らしいから、あの夜ミサに参加してたんだな」


 ケビンは肩を落とし、残念そうに呟いた。


「さっき、ダリアちゃんの調子が悪いって言ってたよな」

「ああ。やつれていたし、クマもひどかった」

「そっか……そりゃそうだよな、家族みんな殺されたらつらいに決まってる。ひとりぼっちになるなんて、寂しいもんな。俺も、その気持わかるよ。ましてや、あの子は女の子だもんな。……あんまり思い詰めてないといいけど」


 先日のダリアの顔が浮かぶ。泣き顔にも似た笑顔、空虚な瞳、弱々しい足取り。元々が繊細な性格だというのなら、自ら命を絶ってしまう可能性がある。

 ケビンと同じ危惧をマクシミリアンも抱いたが、すぐにかぶりを振った。


「いや……ダリアは信徒だ。神の教えは守るはずだ」


 その証拠に、ダリアは事件後もロザリオを身に着けていた。

 だから、彼女は道を踏み外さないはずだ。自死をすることはなく、仇にも憎しみではなく許しを与える。そんな道を選ぶだろう。


 そう自分に言い聞かせるように呟いたマクシミリアンの脳裏にはあの温度のない彼女の笑みが浮かんでいた。





 しとしとと降る雨を鬱陶しく思いながら、マクシミリアンは見回りをしていた。今日は非番のはずだったが、ケビンが体調不良になり、代わりにマクシミリアンが務めることになった。

 

「ちっ。それもこれも、ヤツラのせいだ」

 

 盗賊団を警戒し、街の見回りが強化された。

 犯行は夜に行われることが多いため夜間の見回りに人員を割き、日中はひとりで見回ることになっていた。通常の仕事に加え見回りも増えたため、騎士の中には激務に耐えられず倒れる者も現れた。

 

「早く一網打尽にして、日常に戻ってくれるといいんだが……」

 

 マクシミリアンはぶつくさと文句を言いながら仕事に励んだ。

 雨のためかひと気はない。それでも仕事の手を抜かず、辺りにくまなく目を走らせるマクシミリアンの視界にふたつの人影が飛び込んできた。

 路地裏から現れたその影はフードをかぶっているが、ちらりと見えた顔には見覚えがある。


「あいつ、仮病だったのか」


 背の高い方の人影はケビンだった。彼はもうひとつの影に何か告げると、そのまま立ち去った。

 残されたもうひとつの影に、マクシミリアンは近づいた。


「――ダリア」

「騎士様……。こんなところでお会いするなんて、奇遇ですね」


 マクシミリアンを見上げるその顔は、以前よりは健康的になった。頬は少しだがふっくらとし、クマも薄くなっている。

 だが、その顔に張り付く笑みと無機質な瞳は相変わらず危うさを内包しているように感じられた。


「こんな雨の日に外出して大丈夫なのか?」


 いくら雨よけの外衣を着ているとはいえ、衰弱した彼女の体には堪えるだろう。

 マクシミリアンは騎士服の上着を渡そうとしたが、ダリアは平気だと断った。


「もう帰るところですから」

「そうか……。ああ、ちょっと聞きたいんだが。さっきケビンといたようだが、あいつとは元々約束していたのか? ……いや、あいつ今日病欠していたから気になってな」

 

 ダリアは少し戸惑うように視線を逸らした。それが答えだろう。

 ため息をつくマクシミリアンに、ダリアは弁明をする。

 

「ケビンさん、落ち込んでいる私を気遣ってくださっただけなんです。だから……」

「ああ、心配しなくていい。ただ確認したかっただけだ。今日あいつを見たことは誰にもいうつもりはない」

 

 仕事を押し付けたつけは、今後払ってはもらうが。

 

 仕事中だったため、ダリアとはそこで別れ、マクシミリアンは見回りを再開した。

 その日は不審者らしき者もトラブルも一切なく、平穏に職務を終えた。

 翌日の夜番の見回りも、何事もなかった。

 盗賊団は不思議なほど静かだった。ついに改心して悪行から足を洗ったかと冗談を言う者も現れ始めた頃、その報せがもたらされた。

 

 川のほとりで十数人の男の死体が見つかった。

 持ち物から、以前富豪の家から盗まれた宝石などが見つかり、盗賊団だと判明した。


 死因は変死。この森には毒を持つ生物も多い。毒を口にしてしまったのではないかと推測された。

 

 人々を悩ませてきた盗賊団の壊滅に、街は歓喜した。

 

 

 

「やっぱり、ここにいたのか」

 

 両親の墓石の前に立っていたダリアは、マクシミリアンの言葉に振り返った。

 すっかり健康を取り戻した彼女はマクシミリアンに一礼をする。


「良かったな、盗賊団がいなくなって」

「ええ。これでもう苦しむ人がいなくなります。……やはり、神は私達を見守ってくださっているのでしょう。だから、罪を犯したものには相応の罰が与えられたのです」

「……罰を与えたのは、神じゃない。あんただろ?」


 ダリアは口を閉ざして、マクシミリアンを見上げる。その顔にはなんの感情も浮かんでいなかった。


「盗賊団を滅ぼしたのはあんただよ、ダリア」




 ふたりの間には、いつになく緊張感があった。

 ダリアはマクシミリアンをしばらく見つめていたが、やがて首を横に振った。


「いいえ、騎士様。私は人を殺していません。私は神に仕える信徒です。この手を汚すなど、教えに反するようなことはいたしません」

「……そうだな、正確にはあんたは殺しちゃいない。ただ、あいつらを死ぬかもしれない状況に追い込んだ。盗賊団の一員であったケビンを使って」


 ケビンは瘴気の森で盗賊団と一緒に倒れていた。当初は奴らに巻き込まれたのかと思われたが、部屋から盗品が複数見つかり、彼も盗賊団員だと判明した。

 盗賊団が根城への突撃を察知したように直前で逃げ出せたのは、おそらくケビンが情報を流していたせいだろう。


 何故、彼が盗賊団に加担したのかはわからない。金に困った様子はなかった。借金などもなく、賭博や金のかかる趣味にはまっている様にも見えなかった。

 親に捨てられ苦労した生い立ちが関係しているのかもしれないが、本人が死んでいる以上、真相は闇の中だ。


「あの雨の日、あんたは盗賊団を瘴気の森に誘導するために、ケビンを呼んだんだろう?」

「……いいえ。あの日はケビンさんが私のもとに訪れたんです。仲間が暴走してすまないと謝罪されました」


 誤魔化すことを諦めたのか、ダリアは滔々と語り始めた。

 

「団員が増えて取り分が少ないことに不満を覚えた一部が、鬱憤晴らしにあの教会への襲撃事件を起こしたそうです。今後はこのようなことが起こらないようにするとあの方が言ったから……私、教えたんです。瘴気の森に、希少な鉱物が眠る洞窟があると。ひとりふたりでは到底運べない大きさと量だから、団員の皆さんで行かれたらどうでしょうと」


 ダリアは語る。あの洞窟には希少な鉱物があるが、同時に有毒なガスも発生している。入口付近で少し採取する程度なら問題ないが、欲をかいて奥まで進めば毒に侵される。


「川で見つかったのは、洞窟から脱出できた方々のみでしょう。喉の乾きを覚えて、洞窟近くの川に飛び込み息絶えた」


 淡々と語るダリアの表情や声には、なんの感情も乗せられていなかった。

 

 ケビンに鉱物の話を持ちかけた時もそうだったのだろうか。だから、人の機微に聡いケビンでも彼女の悪意には気づけず、まんまと罠にはまってしまったのか。

 それとも、気づいていて、あえて話に乗ったのか。知られれば身の破滅に繋がるというのに、盗賊団の一員であることを打ち明けて謝罪するほど、ケビンはダリアに罪悪感を抱いていた。


「彼らが私の話に乗ってくれるのか、実際に洞窟に行ったとしても壊滅するほどのダメージを与えられるのかは賭けでした」


 ダリアは胸元のロザリオにそっと触れた。


「あの時……あの襲撃事件で、両親を切り殺しながら、彼らは言ったんです。『信徒が虐殺されても神はお前らを助けようとはしない』『神はお前らを見守ってなどいない』そう、嘲笑ったんです。だから……私は神に祈ったのです。あなたが私達を見守ってくださるのなら、どうか彼らに裁きを与えてくださいと」


 その結果、神はダリアの望み通りに盗賊団を裁いた。彼女の親を惨殺し、信仰を踏みにじった悪党をひとり残らず罰した。

  

「あんたは……後悔してないんだな? 悪党とはいえ、複数の人間の死に関わったことを」

「ええ。これでもう盗賊団の被害者はでませんし、私もようやく憎しみから解放されます」


 告解を終えた信徒のように、ダリアは晴れやかな顔をしていた。


『憎むのはつらいことですから。たとえ親の仇であったとしても……私は憎しみを抱き続けることには耐えられないのです』


 かつての彼女の言葉が脳裏をよぎる。


「これで、私は前を向いて生きていけます」


 血色の良い頬、艷やかな髪。儚さとは程遠い、今をしっかり生きている平凡な町娘の姿がそこにはある。

 だが、それでもその瞳は、その笑みは、冷たく無機質でどこか不穏さを宿す。


 平穏に生きてきた女なら、敬虔な信徒なら、たとえ悪人とはいえ多くの人間の死に関わったことに苦しむだろう。

 けれど、彼女にはそんな様子は見られなかった。

 きっともう、壊れてしまった彼女の心が癒えることはないのだろう。


 ケビンはやはり、人の感情に聡かったのだと改めて思う。


 マクシミリアンはようやく自覚した。自分は、彼女のこの危うさを愛してしまったのだと。



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