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第一章 傲慢御曹司の試練

大手電機メーカー「クラゲ電気」の跡取り息子、海月秀は、傲慢な態度と傍若無人な振る舞いで周囲を振り回す23歳の青年だ。幼い頃から欲しいものは全て手に入り、父親である現社長・海月義昭の権力に守られてきた。しかし、現代の企業社会はそんなハラスメント体質を許さない。ある日、社員の一人が秀のパワハラを告発し、社内に波紋が広がる。世間の批判が殺到し、クラゲ電気のブランドイメージは危機に瀕する。激怒した父・義昭は、秀に予想外の提案を突きつける。それは、介護施設での現場労働を通じて「人の痛みを知り、真のリーダーシップを学ぶ」というものだった。次期社長の座を夢見る秀にとって、介護現場は想像を絶する未知の世界。汗と泥にまみれ、人の世話に追われる日々の中で、秀は自分本位な生き方を改められるのか? 最初は反発し、愚痴をこぼしながら働く秀だが、利用者や同僚たちの温かさ、厳しさ、そして人生の機微に触れるうちに、彼の心に変化が芽生え始める。これは、傲慢な御曹司が介護の現場で人間らしさを取り戻し、真の「理想」を追い求める、泥臭くも心温まる人情ドラマである。



第一章「陽だまりの家への第一歩」

2026年夏 クラゲ電気本社東京の空を貫く高層ビル、クラゲ電気本社の最上階。ガラス張りの会議室に、海月秀の罵声が響き渡る。

「こんなゴミみたいな企画書、持ってくるな! 俺の時間を無駄にすんじゃねえ!」

23歳の秀は、整った顔立ちに高級スーツをまとい、クラゲ電気の御曹司として君臨する男。だが、今、彼の顔は怒りで赤く染まり、震える若手社員・佐藤の企画書を床に叩きつける。

「す、すみませんでした! すぐ修正します!」

佐藤が青ざめて書類を拾おうとするが、秀はそれを踏みつけ、嘲笑う。

「修正? お前みたいな脳みそ空っぽのやつに何ができるんだ? 辞表書けよ!」 会議室は凍りつき、他の社員は目を伏せる。秀のパワハラは日常だった。父である現社長・海月義昭の権威を盾に、彼の傲慢さは社内で誰もが知るところだ。だが、この日、佐藤が震える手でスマートフォンの録音を切った瞬間、秀の運命は動き始めた。その夜、クラゲ電気の公式Xアカウントに匿名投稿が投下された。「クラゲ電気の御曹司によるパワハラ音声」と題された動画は、秀の罵声と佐藤の怯えた声を克明に収めていた。瞬く間に拡散され、ネットは炎上。「ハラスメント企業」「次期社長の資格なし」と批判が殺到し、クラゲ電気のブランドは危機に瀕する。翌朝、秀は義昭に呼び出された。社長室の重厚なドアを開けると、父は静かにデスクに座っていた。普段は温厚な義昭の目が、今日は氷のように冷たい。

「秀、お前が何をしたか、わかっているな?」

秀は肩をすくめ、軽口でかわそうとした。

「ただの冗談ですよ、父さん。あんな小心者が騒いだだけで――」

「黙れ。」

義昭の声に、秀は言葉を失った。

「クラゲ電気の名を汚したのはお前だ。だが、ただ追い出すわけにはいかない。お前には、まだ可能性があると信じたい。」 義昭が差し出した書類には、予想外の提案が記されていた。

「介護施設『陽だまりの家』で働く。それが、次期社長になるための条件だ。」

「は? 介護?」

秀は笑い出したが、義昭の表情は変わらない。

「お前は人の痛みを知らない。傲慢なままでは、この会社を背負う資格はない。嫌なら、今すぐ家を出ていけ。」

父の目は本気だった。秀の笑顔が凍りつき、こうして彼の人生は一変した。過去の記憶幼い頃、母・美和子の声が秀の耳に残っている。「秀、幸せになるにはね、誰かに幸せを与えてあげなさい。」豪華なダイニングルームで、シャンデリアの光の下、母は微笑んだ。だが、秀にはその言葉の意味がわからなかった。欲しいものは全て手に入る世界で、「与える」ことなど考えたこともなかった。美和子は数年後、病で静かに逝き、その言葉は記憶の片隅に薄れた。陽だまりの家 初日数日後、秀は特別養護老人ホーム「陽だまりの家」の玄関前に立っていた。ヘルパー免許はまだなく、今日は「見習い」としての初出勤。汗ばむ夏の陽射しの中、白いポロシャツとチノパンという慣れない姿に、秀は不機嫌を隠さない。 「陽だまりの家」は、要介護度の高い高齢者が暮らす施設だ。古びた外観ながら、庭のひまわりと窓から漏れる笑い声が温かみを醸す。だが、消毒液の匂いと車椅子の軋む音は、秀にとって異世界だった。 「海月、さっさと中入りな! ぼーっと突っ立ってると、汗でユニフォームが台無しよ!」

パート職員の舟島佳代子が、派手な花柄エプロンで現れ、明るくも鋭い声で呼ぶ。50代の佳代子は、秀の教育係で、「仕事は真面目に、心は軽く」がモットー。秀はぶつぶつ文句を言いながら従うが、内心、父の「資格はない」という言葉が刺さっていた。 施設長の上田構造が笑顔で出迎える。60代の構造は、義昭の古くからの友人で、秀の受け入れを快諾した恩人だ。

「秀君、ようこそ。義昭の息子なら、きっとやってくれるよ。」

温かい言葉に、秀は気まずく頷くだけだった。 初仕事は居室の清掃と入居者の見守り。秀が割り当てられたのは、吉田幸恵、87歳。認知機能は軽度低下、シルバーカーで歩行するが、強い「帰宅願望」があるとカルテに記されている。

「幸恵さん、こんにちは。海月です。えっと…元気ですか?」

ぎこちなく声をかける秀。介護の知識はゼロだ。幸恵は窓の外を見つめ、シルバーカーを握る手が震えている。

「家に帰らなきゃ。娘が待ってる。もう暗くなるから…」

秀はカルテにあった娘の死を思い出し、面食らう。

「いや、ここが家ですよ。ほら、ご飯の時間ですし…」

教科書通りの対応を試みるが、幸恵は首を振る。

「違う! 私の家はここじゃない! 娘が待ってるのよ!」

声が大きくなり、秀はたじろぐ。どう対応していいかわからない。 そこに、福部愛が静かに現れた。正社員で、穏やかでしっかり者の容姿端麗で、利用者に寄り添う優しさがある。彼女は大好きな祖父を介護し、その死をきっかけにこの道を選んだ。

「海月さん、否定すると幸恵さんが不安になるよ。話を聞いてあげて。」

愛は幸恵に微笑む。

「幸恵さん、娘さんのこと、教えてください。どんな子だった?」

幸恵の顔が明るくなり、娘の思い出を語り始める。秀は愛の自然な対応に圧倒され、ただ立ち尽くすしかなかった。



感想です。介護現場のリアルを描きたい!でも突拍子もないもにしたい!と思い書き始めました。


ハラスメントってほんまよくなですね。でも介護現場はグレーゾーンです。少しでも共感できる作品にしたいですね

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