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策略


 「うーん……………」


 マリアーヌはルイの質問に頭を悩ます。初めて出会ったときは、字が全く読めなかったなんて信じられない。ルイは地頭がいいのか、知識をスポンジのように吸収していく。ルイの質問も年々高度なものになっている。


 マリアーヌとルイが「友達」になって、早くも7年が経った。


 ルイの実力が目に見えるようになってから、ルイの待遇も随分良くなった。ルイが皇太子となるかは分からないけれど、ルイの未来は明るいものだろう。


 ルイに教えられることはもう少ないのかもしれない。ちょっと寂しいけれど、ルイの成長は純粋に嬉しい。


 数日後にはルイは成人となる16歳を迎える。


 ルイとの付き合いも、もうそろそろ、終わる。

 マリアーヌはこの国へ来た本来の目的を達成しないといけない。


 マリアーヌは手元をぼんやりと見ながら思いを巡らしていた。


 書物の上に置いていたマリアーヌの右手の上に、ルイが自身の手を静かに重ねた。


 ルイは重ねた手を広げ、マリアーヌの手を包みこんだ。マリアーヌの手にルイの温もりが伝わる。


 「ん……………?」


 マリアーヌは書物からルイに視線を向けた。 

 

 ルイはマリアーヌに微笑み、マリアーヌに顔を近づける。


 「今年こそは……、僕と星祭りに行ってくれませんか?」


 ルイはマリアーヌに甘い蜜のような声を出して、マリアーヌの耳元で囁く。


 「………………!!!!!」


 魅惑的な声にマリアーヌは体がぞくぞくする。ルイは重ねた手とは反対の手で、マリアーヌの首筋を撫でた。


 ルイが熱を孕んだ瞳でじっと見つめてくる。


 (………………………!!!?????)


 真面目な勉学中だったのに、何故こんな雰囲気に!?マリアーヌの頭の中は大混乱である。ルイは最近マリアーヌに対して、甘い雰囲気を出してくることがままあった。


 それでも、ルイほどの美青年に迫られるとマリアーヌは動揺してしまう。


 「ふふっ、顔が赤くなったね?マリー、可愛い」


 ルイがマリアーヌの赤く艷めく唇を撫でようと手を動かした時、


 「ストーーーップーーーー!!!」


 ノエルがルイの頭を上から押さえ込んだ。


 「………痛っ!ノエル、急になにするんですか!!!」

 「ルイ、姫様に近づきすぎ!!星祭りも毎年断られてるんだから、諦めろよ?」

 「星祭り楽しいんでしょ?僕は一度も行ったことなくて、マリーと一緒に行ってみたいと思ったんです……」

 

 ルイはしょんぼりと肩を丸くして、ノエルとマリアーヌを見つめる。なんだかルイが可哀想に思えてきた。


 「そうはいっても、お前と姫様が一緒に星祭りに行ったのが知れたら大変なことになる。無理だろ」   


 ノエルはやれやれとルイを諭す。


 マリアーヌは25歳にもなるが結婚していない。マリアーヌに同行しているノエルも同様だ。


 婚約者もいないマリアーヌとルイが、恋人同士で行くとされる星祭りに2人で出歩く姿を見られたらなんて言われるか…。ルイの将来に差し支えがあるかもしれない。


 ノエルが言っていることは正しい。正論だ。


 ルイのことが異性として好きかと聞かれたら、マリアーヌは正直よく分からない。


 ルイがマリアーヌに興味を示しているのも、ただ身近にいる異性で親しみを感じているからだからではないだろうか。


 でも、マリアーヌは、ルイからの好意を無下にすることはできない。


 

 ――――これも、ルイを騙すのに都合がいいからだ。



 マリアーヌの胸が痛む。なまじ仲良くなりすぎたのかもしれない。だけれど、国王からの命令は厳守しないといけない。


 「そうだけれど、成人のお祝いとして、今回は星祭りに一緒に行きましょう。ちょうど星祭りの日が誕生日だものね?」


 「………………………………えっ!!いいんですか!!!やったぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!」


 ルイの屈託のない笑顔を見て、マリアーヌは胸が締め付けられる。ノエルが心配そうにマリアーヌを見てきた。


 「ええ。よろしくね?せっかくだから、私とルイの2人で行きましょう」

 「………………………はいっ!」


 ルイは本当に嬉しそうに笑った。マリアーヌはルイの手に自身の手を重ねた。

 

 ルイの手が微かに震えているのにマリアーヌは気が付いた。自分から触れるくせに、マリアーヌから触れられると緊張するみたいだ。散々マリアーヌを翻弄してきたのに、そんなところは可愛らしい。

 

 マリアーヌは優しくルイの指を包んだ。


 マリアーヌは罪悪感を押し殺し、ルイを見つめる。ルイは希望に満ちた瞳をしていた。


 「ルイの誕生日なのに、私からお願いするのは心苦しいのだけれど、星祭りは男性から女性にアクセサリーを渡すでしょ?私、欲しいものがあって…」


 「何ですか?何でも大丈夫ですっ!!!」


 「我がヴァレンティナ王国の王女の所持品とされる真珠のネックレスがいいの。確か………、宝物庫にあったのではないかしら」


 「宝物庫………?」


 ルイは心底驚いた顔をした。それもそうだろう。宝物庫から盗めと言っているようなものだから。


 もう一押しが必要かもしれない。


 マリアーヌはルイの指に自身の指をからめる。


 「ダメ………かな??」


 マリアーヌは上目遣いでルイをじっと見た。

 

 ルイの色白の肌が赤く染まっていく。


 「…………っ!大丈夫です!準備します!マリーは王女だから、伝統あるものがいいですよね!ちょうど成人するから、宝物庫にも入れますし」

 

 「無理を言ってごめんなさいね?楽しみしてる、ありがとう」


 マリアーヌはルイが要望を呑んでくれて、ほっと息をつく。ルイは何も知らず、ただただ嬉しそうにしていた。

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