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魔王だけど大好きなお姫様を守るために見習い兵士やらせていただく  作者: 我那覇アキラ
第一章 人間の姫を守りたい見習い兵士の魔王様
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第7話 婚約者ベスケット登場

 さて、今日も楽しくレイナックの笑顔を眺めながら過ごそう。なんて思いながら出勤したのだが。

 どうも様子がおかしい。


 姫の小屋の中から、大勢の人の声がする。

 しかも、いつもならまだ出勤していないシュガーが、外で小屋のほうを見ながら突っ立っているではないか。


「これはいったい何事です?」

「タロウか。今、侍女たちが姫をドレスに着替えさせているところでな。男の俺は、つまはじきってわけよ」

「なぜ、そんなことをしてるんですか? どこかへ出かけるんですかね」

「今日、姫の婚約者が来るらしいんだ」


 え?

 今、なんて言った?

 レイナックに婚約者?

 嘘だろ、冗談だろ。そんな話聞いてないぞ。


「俺も昨日の夜に聞かされたんだよ。姫に婚約者がいることは、まあ聞いてはいたんだがな」

「俺は聞いてません! だいたい、急すぎます!」

「おまえはどうも、他の連中と違って姫を慕ってたからな。言いづらかったんだよ。まあ、今日は単純に、婚約者との初対面なんだとさ」


 そうか、これは政略結婚というやつだな。

 あんなにも雑な扱いをしておいて、都合のいいときだけ王族扱いとは。

 どうにかして婚約を破棄させる手立てはないものか。


 魔王に戻って、レイナックをさらうというのはどうだ?

 もしくは婚約者とやらをぶちのめして……。


「ちなみに婚約者って、どんなやつなんですか?」

「おいおい、そんな怖い顔するなって。俺もよく分からねぇが、アーガス国の次男坊だとよ。まあ、姫もこれまで不遇な扱いを受けてきたし、せめていい男であってほしいもんだが」

「いい男……ですか」


 確かにそうかもしれない。

 レイナックも俺のような魔族より、人間の男と一緒になったほうが……。


 そう思いながらも、気持ちが沈んでいく。

 俺は結局、どうしたいのだろう。

 側にいたのは、彼女の幸せを見届けるためだったはずだ。

 それともただ側にいたかっただけで、守るだとか幸せを望むというのは口実にすぎなかったのだろうか。


 いや、違う。

 彼女が幸せになることが最優先だ!

 ただ、あまりにも急すぎて戸惑っているだけだ。


「何にしても、その婚約者を見極めねば」

「だーかーら! 怖い顔するなって。つーか、余計なことするんじゃねえぞ。俺たちゃ、あくまでも姫の護衛なんだからな」


 頭をぼりぼりかきながら、シュガーが忠告してくる。

 そのとき姫の小屋の扉が開き、中からレイナックが姿を現した。


「タロウさん、今日もお勤めに来てくれたんですね」


 いつもより豪華できれいなドレスに身を包み、化粧によって頬がほんのり赤みを帯びていた。

 とても美しい。

 その隣にいるべきは、やはり彼女を幸せにしてくれる男なのだ。


 本当は俺の手で幸せにしてあげたい。

 でもだめなんだ。


 過去に魔族と人間が結ばれたという事例はあった。

 しかしそのすべては例外なく、人間からも魔族からも迫害される結末に終わっている。


 魔王の俺なら、魔族側は権力と武力によって黙らせることくらいはできるかもしれない。

 しかし、人間側はそう簡単にはいかないだろう。


 力でねじ伏せたところで、迫害されるという事実をはねのけることなどできない。

 むしろ逆効果だ。


 俺としてはレイナック以外の人間が滅びたとしても、一向にかまわん。

 だが、それで彼女を幸せにすることはできない。

 レイナックを人間の敵にするわけにはいかないのだ。


「姫、すごくきれいです。しかし、婚約者が来るなんて……。あまりにも急で」

「シュガー隊長から聞いたんですね。今日はタロウさんとシュガー隊長に、王子様のお出迎えをお願いしたいです。突然で本当にごめんなさいです。私も婚約者が来てくれることを、昨日の夜に聞かされちゃいまして。でも初めて会うので、ちょっと楽しみです」


 そう言って笑う彼女の顔は、どこか暗い感じがした。

 楽しみだなんて思っていない。

 笑顔を作ってはいるが、無理しているのは明らかだった。


 しかし、王なのか王妃の言いつけなのかは知らないが、レイナックは王族のために嫁ぐことを受け入れているようだ。


 知らない男との婚約だろうが政略結婚だろうが、家族のためになるのなら。

 ずっと邪魔者扱いされてきたレイナックにとって、それが自分の存在意義になっている。そんな気がした。



 * * *



 正午を少し過ぎたころ。

 兵士の行列とともに、二頭の馬に引きずられた豪勢な馬車が城へとやってきた。


 従者と思わしき男が馬車の扉を開き、中から不機嫌そうな顔をした男が降りてきた。

 豪華な刺繍と金の縁取りによって全身を彩ったローブを羽織っている。いかにも城の王子様といった身なりだ。


「ベスケット王子。よくぞおいでくださいました。長旅、お疲れ様です」

「ふん! 下っ端の挨拶など、どうでもいい。さっさと案内しろ」


 襟を正しながら、シュガーの挨拶を鼻であしらう。


 アーガス国の第二王子、ベスケットか。

 一発小突いたら簡単に殺せそうだな。

 魔族は強いやつが魔王になるのが習わしだが、人間はなぜに弱き者が王族となって威張り散らしているのか。


「姫は城の一室にてお待ちしております。こちらへどうぞ」


 シュガーが背筋を伸ばし、敬礼のポーズをとってから城の中へと歩き出した。

 俺もとりあえず敬礼してから、シュガーに並んで歩幅を合わせた。


 まあ、見習い兵士だしな。今のところは、我慢しておくとしよう。


 数名の兵士と従者を引き連れ、ベスケットが俺たちの後をついてくる。

 レイナックがいるのは城の外にある姫の小屋ではなく、城内の客室だ。

 俺も城の中に入るのは今日が初めてなので、なかなかに興味深い。


 長い廊下に高い天井。

 同じ城の敷地内だというのに、姫の小屋とはまるで別世界だな。


 客室にたどり着くと、扉の前に男と女が立っていた。

 どちらも身に付けている軽鎧が、他の兵士の装備よりも高価そうだ。


 男のほうは見覚えがあった。

 ヴァディーゲが迎えに来たときに戦った銀髪ヤロウだ。

 今日も相変わらずの真顔で、思わず吹き出しそうになる。


「確かおまえは、勇者ファルコだったか。で、そこの女は疾風騎士のシャインだったな」


 ニヤニヤしながら、ベスケットが扉の前の男と女に言った。

 やはり、この男が勇者だったか。確かに、相当な強さだったからな。

 とはいえ、うーん……。


 勇者といえば、人民に崇められるヒーロー的な存在と聞いていたのだけど。

 この愛想のなさ、本当に人気あるのか?


 女のほうも名前だけは聞き覚えがある。

 確か俺の親父とも戦った、勇者パーティーの一人だ。

 しかし、こんなにも若い女だったとは。

 表情は多少大人びてはいるが、十代と言われても違和感ないぞ。


 シャインと呼ばれた女は、ベスケットにも俺たちにもまったく興味ないといった感じでこちらには目もくれず、短めの青い髪を指でいじっている。


「今の賃金の三倍出すから、俺に仕える気はないか?」

「考えておきまぁす」


 シャインと呼ばれた女がベスケットから顔をそらして、だるそうに答えた。

 勇者ファルコは相変わらず、無言の仏頂面だ。


「ふん! まあいい。前向きに検討してくれたまえ」


 鼻で笑うようなベスケットの言葉にも、無反応を貫くファルコ。

 コイツ、ちゃんと息してるのか?


「で? 姫はこの中か?」

「はい。少々お待ちください」


 シュガーがそう言って、部屋のドアをノックする。


「姫、ベスケット様がお見えになられました」

「はい!」


 中からレイナックの返事があったあと、扉が開いた。

 そこにはきれいなドレスと光り輝くネックレスを身に付けた、レイナックが立っていた。


「初めまして。お会いできてうれしいです、ベスケット様」


 ペコリとお辞儀をするレイナック。

 貴族の女は、スカートのすそを持って礼をするものだと聞いているが。

 彼女はそういったことは、何も教わっていないのかもしれない。


 しかし挨拶の仕方うんぬんより、レイナックの美しさに注目が集まったらしい。

 ベスケット側の兵士たちから、「ほう」という感嘆の声が上がった。


「へぇ、みすぼらしい第三王女と聞いていたが。思ったより、いい女じゃないか。少々青臭いが、これならまあ合格だな。喜べ、俺がたっぷりかわいがってやるからよ」


 雑魚がいかにも口にしそうな、下品極まりないセリフだ。

 そういった言葉の矛先が俺なら、まあ我慢できたかもしれん。

 魔王はこの程度で腹を立てるほど、小さな器じゃないのだ(まあ、親父だったら即処刑かもしれないけど)。


 しかしレイナックに向けられたこととなれば、話は別である。

 彼女を幸せにできるなら、婚礼も受け入れねばと思っていた。

 だが、こいつはもう論外だ。


 なんとしてでも、姫との縁談をぶち壊す必要がある。

 すでに俺の頭の中は、そんな考えでいっぱいになっていた。


「王子。我らの姫に対し、さすがに無礼でございます。今のような発言は控えていただきたいのですが」


 シュガーが頭を下げながらも、ベスケットに異議を申し立てる。


「なんだと? 一兵士ふぜいが、誰に向かって口をきいてるつもりだ」


 ベスケットが声を荒げ、シュガーの胸倉をつかんでにらみつける。


「申し訳ありません。なにとぞ、ご容赦を」


 引き下がるのが早すぎるだろう。

 やれやれ、さすがのシュガーも権力には勝てないか。


 しかし、このベスケットという男。

 なんとまぁ、ムカつく顔がうまいやつだ。


「ふん! まあいい。今の無礼は不問にしてやろう。しかし……」


 ここでベスケットは軽く突き飛ばすようにシュガーから手を離し、俺のほうへと顔を向けた。


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