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魔王だけど大好きなお姫様を守るために見習い兵士やらせていただく  作者: 我那覇アキラ
第一章 人間の姫を守りたい見習い兵士の魔王様
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第6話 人間とバトル

 俺は腕輪のダイヤルを最大まで回して、人間の変身を解いた。そして代々魔王にのみ装備することを許された、漆黒のマントを夜風にはためかせる。

 魔の成分を取り戻した血液が体内をめぐり、肌の色が灰色に近い緑へと変化する。


 右手の指を開いては握り、それを数回ほど繰り返して、自身の肉体の強度と魔力の感覚を確かめる。


「やはり人間の姿とは違って馴染むな。早く人間の姿でも、この程度の力は引き出せるようにしておきたいものだ」

「魔王ぼっちゃま! 弱体化したときに、万一のことがあるやもしれません。できればもう、人間の姿に変化するのは止めてほしいんですけどね」


 この魔獣は、腹心の部下のヴァディーゲ。

 でかい図体のくせして、いつも小言がうるさい。


 こいつはもともと、先代魔王の親父に仕えている側近だった。

 親父が人間と精霊の力によって封印されてからは、そのまま俺の部下になると言い張って、側をウロウロしている。


 人間としてレイナックの見習い兵士になるときにも、こいつの説得が一番大変だったんだよな。


「そもそも、魔王城に毎日帰ること! そういう条件で、人間の兵士なんてふざけた行動も承諾したはずですぞ。何を企んでのことかは知りませんがね。魔王ぼっちゃまが留守にしていると、他の者たちが好き勝手しだして大変なんですから」

「わかった、わーかったから! ちゃんと戻るから」


 はぁ……。

 できればレイナックの側を離れたくないんだけど。


 魔王城に帰らねば、こいつが毎晩迎えに来てしまう。

 あのやる気のないおっさん連中に、護衛を任せるしかないのか。


「ささ、魔王城へ戻りましょう。私の肩に乗ってくださいませ」

「そうだな。おまえのせいで、妙なやつまで来てしまったようだし」


 そう言ったとほぼ同時、大きな光の玉が俺のほうへと飛んできた。

 その玉を左手で払いのける。

 光の玉が軌道を変えて草原の暗がりへ消えた後、爆発音があたりに響き渡った。


 草原の一部がえぐれて、直径五メートルほどのクレーターが出来上がる。

 なかなかの威力の魔法だ。


 森のほうから、一つの人影が現れる。

 ずいぶんと豪華な軽鎧に身を包み、長い銀髪が印象的な人間の男だ。

 特に前髪だが、視界を遮って邪魔じゃないかとツッコミを入れたくなる。


 右手にはロングソードを持ち、左手には魔力で形成された光の玉を出している。

 先ほど俺に投げたのと、同じもののようだな。


 完全臨戦態勢、やる気満々のご様子だ。


「人間。俺たちはもう帰るところなのだが、何か用か?」


 声をかけてみたが、何も言ってこない。

 返事くらいしろっての!

 不愛想なやつだな。


「どうやら用もないみたいだし。ヴァディーゲ、帰還するとしようか」

「へい! ぼっちゃま」


 そう言ってヴァディーゲが背を向けた瞬間、人間が光の玉をぶん投げてきた。

 さらに間髪入れず、自らも剣を振りかぶりながらこちらに飛び込んでくる。


 こいつの身のこなし、相当できそうだ。

 俺はヴァディーゲの肩から飛び降り、人間を迎え撃った。


 先に飛んできた光の玉を右手ではじき飛ばし、続いて振り下ろされたやつの剣をかわす。

 なんて鋭さだ。面白い!


 俺は魔力で異空間への入口を作ると、手を突っ込んだ。

 中から俺の専用武器、愛用の大鎌を取り出す。


「魔王自らが、少しだけ遊んでやろう。感謝するがいい、ふはははは!」


 と、せっかく魔王らしく決め台詞を放ったのに、相変わらず何も返さず向かってくる人間。

 少しは何か言えよ。俺がバカみたいじゃないか。


 心の中でため息をつきつつも、人間の鋭い連続攻撃を大鎌でさばいていく。

 仮にも魔王の俺が魔族の力を完全に戻し、かつそこそこ真面目に戦っているんだが。それでも圧倒できない。

 こいつ、想像以上にデキるぞ。


 もしや、勇者一味の者か。または勇者本人かもしれんな。

 できればこいつに、姫を護衛してもらいたいものだ。


 おそらくこの人間も、まだ全力というわけではないのだろう。お互いに余裕を残した、様子見的な戦いが数分ほど続いた。


 埒があかないな。

 大鎌を横なぎに振り、人間が身をのけぞらせてそれをかわす。

 鎌を振った勢いに乗せ、少々本気で人間めがけて後ろ蹴りを放った。

 人間はその蹴りを剣の柄でガードした。蹴りの威力によって、やつが勢いよく後方へと吹き飛ぶ。


 もういいだろう。

 きれいに着地した人間を見届けてから、俺は再びヴァディーゲの肩に飛び乗った。


「大した男だ。いずれまた会おう、強き者よ。さらばだ!」


 よし、魔王っぽく決まったな。

 ヴァディーゲの頭をポンと叩いて合図し、走らせる。


 ん?

 また会おうって言ったよね。さらば、とも言ったぞ。

 なにあの人間。

 真顔で追いかけてくるんですが。


 いやいやいや、どう考えても去り行く魔王を見送る流れだろう。

 てか、真顔こわ!


「おい、ヴァディーゲ! もっと早く走れ! 追いつかれるぞ」


 こうなったら!


 ヴァディーゲに脚力増強の魔法をかける。

 おお、早い早い!


 こいつは無駄に筋肉だらけだから、筋力増強系の魔法がよく効くわ。

 早すぎてヴァディーゲの口の周りがぶるぶる震えて、歯茎がむき出しになっている。

 思わず爆笑してしまいそうになるが、必死にがんばるヴァディーゲに免じて、ここは堪えておこうか。


 さて、そろそろ逃げ切ったかな。振り返って確かめてみる。


 おいおいおい、まだ追いかけてくるぞ。

 あいつも脚力増強の魔法が使えるのか!

 てか、しつけぇぇええ!!


 しかしあの人間、ヴァディーゲと同じく口の周りの肉がなびいてるぞ。割とイケメンの部類なのに、真顔のまま歯茎さらして必死だな。

 愉快なやつ。


 だが、脚力増強に関しては俺の魔法のほうが上位だったらしい。

 しばらく追いかけっこを続けているうちに、少しずつ人間の姿が小さくなる。

 そしてついには、ヤツが見えなくなるまでになった。


 それにしてもあの人間。俺と同様、かなりの距離からヴァディーゲの気配に気づいて駆けつけてきたらしい。

 つまり魔族の気配に、ものすごく敏感ということだ。

 俺も勤務中は、うかつに魔族の力を開放できないぞ。


 はぁ……。

 魔王城に毎日帰らないと、ヴァディーゲが迎えに来るし。そうしたらまた、あの人間が襲ってくるだろうし。

 いろんな問題が山積みだ。


 うーん、魔王城に戻りたくない。

 早くレイナック姫に会いたい。


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