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魔王だけど大好きなお姫様を守るために見習い兵士やらせていただく  作者: 我那覇アキラ
第一章 人間の姫を守りたい見習い兵士の魔王様
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第5話 頭を抱えるタロウくん

 本日の護衛任務を終え、レイナックにお別れを伝えてから、俺は城の外へ出た。

 できることなら昼夜問わず彼女の側にいたいのだが、勤務時間は決まっているので仕方がない。


 姫の護衛は、朝から夜までと夜から朝までの二交代制だ。

 だから体面上は、常に姫の護衛がついていることになってはいる。

 しかし、勤務中はどこへ行こうが割と自由。

 これはレイナックが気を使ってそのようにしているからなのだが、それをいいことに酒屋へ飲みに出かけるやつまでいる始末だ。


 では護衛たちの腕っぷしはどうなのかというと、てんで話にならない。

 シュガーはそれなりに腕がたつと見てはいるが、他の者に関してはもう完全に論外だ。


 というかそもそも、すべてにおいてやる気なし。


 それに比べて王子や第一、第二王女の護衛は、屈強の人間たちが務めているようだ。

 こいつらは出世の機会も十分に与えられているようなので、向上心も士気も高いと見える。


 もっとも、近衛兵長のヴィクタルという愚物もいたようだが。

 そういえば、城のほうではヴィクタルが行方不明になったと騒いでいたな。

 魔王城で奴隷のようにこき使われているとは、誰も思うまい。


 それはさておき。

 レイナックの護衛たちの待遇も良くなれば、少しはマシになるのだろうか。

 他の城の兵士たちに比べて給料も低いし、宿舎も使わせてもらえない。

 こんな条件で、しかもたったの五人で護衛するなんて、どう考えても無理がある。


 一応、シュガーだけは城の宿舎をあてがわれているので、何かあったときに駆けつけることはできるかもしれない。

 しかしそれだけじゃあ、どう考えても姫の守備は穴だらけ。


 だから俺は帰宅するふりをしていったん城を出たあと、姫の小屋が見える木々の上で寝泊りすることにした。


 さて、夜の部の護衛を担当している兵士どもはというと……。

 案の定だよ、まったく。

 二人して酒なんか煽ってやがる。

 ああ、ぶん殴ってやりたい。


 しかも、しかもだ!

 常に姫を守ろうと野宿を決めて、まだ一日も経っていないというのに。

 さっそく、恐れていたことが起きてしまった。


 まだかなりの距離ではあるが、巨大な力を持った者がこちらに近づいてきている。

 自身の強大な魔力とパワーを隠すことすら一切せず、まっすぐこちらに向かってきているのだ。


 この気配。

 おそらくは魔獣の類であろうが、魔王クラスに限りなく近いほどの力を感じる。


 レイナックの側を離れるのは少々不安だが、仕方ない。

 俺は木の上から飛び降りて、接近してくる魔獣めがけて走り出した。


「やはりこの姿では、スピードもかなり抑えられてしまうな。ぐずぐずしてると、ヤツが町の中まで入ってきてしまうぞ」


 脚力の衰えを痛感しつつ、ヤツとの距離を縮めていく。


 城からだいぶ離れたし、そろそろいいだろう。

 俺は自分の右手首の腕輪に仕掛けられたダイヤルを、10度ほど右へ回した。

 そこそこの力と魔力が全身を巡り、だいぶ早いスピードで走れるようになった。


 人間の姿と気配をキープしつつ魔族の力を開放できるのは、今のところ10パーセントが限度か。

 とはいえゼロパーセントの完全な人間のときに比べれば、早さも跳躍力も全然違うな。

 しかしそれは、人間の姿でいるときの自分が貧弱すぎるということに他ならない。


 人間の中には国を守る兵士だけでなく、冒険者と呼ばれる者たちもいる。

 そいつらは魔族や魔獣とだって、充分に渡り合えるほど強いと聞く。

 つまり人間の姿だからという言い訳は、まったくもって通用しないのだ。


 やはりシュガーの言うとおり力をつけて、人間の姿でも魔族のときと同等の強さを手に入れなければ、護衛なんて務まらないぞ。

 とはいえ今は、目の前の危機をどうにかすることが先決だ。


 俺は木の枝から枝へと飛び移りながらさらに加速していき、一気に森を抜けた。

 ここまで来れば、もう町からもだいぶ離れているはずだ。


 森の先は草原になっており、かなり遠くまで見渡せた。

 数キロ先に、巨大な土煙が舞い上がっているのが見える。


 いた、ヤツだ!


 こちらに向かってくる魔獣の姿が、はっきり目視できるほどの距離まで接近した。

 俺は足を止め、ヤツを待ち受ける。


 向こうもようやく、俺の存在に気付いたようだ。

 魔獣は町のほうへ向いていた進路を少しだけ変えて、一直線に俺めがけて猛進してくる。


 あの突進力、大岩さえも簡単に砕け散る威力があるだろう。

 民家など、ひとたまりもない。もちろん姫の小屋も同じだ。

 いや……これほどの魔獣に襲われれば、小屋どころかルドレンオブ国自慢の城壁すら、為す術なく崩れ去るに違いない。


 ルドレンオブ国には、勇者一味と呼ばれる最強の戦士たちが仕えていると聞くが……。あの魔獣と渡り合えるのは、せいぜいその者たちくらいだろうな。

 こんなやばい魔獣すらいる世界だからこそ、俺がレイナックを守るしかないのだ。


 魔獣はついに俺の眼前まできて、砂埃を巻き上げながら立ち止まった。

 人間の体の五倍はありそうな巨体が、目の前に立ちふさがる。


 いやしかし……いつ見てもこいつは怖い顔をしているな。


「おかえりなさいませぇえええ! 魔王ぼっちゃまぁああ」

「ヴァディーゲ! その呼び方はやめろって、いつも言ってるだろ! あと、俺の出迎えにくるのもやめてもらえないか。おまえが来たら、国中が大騒ぎだぞ」


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