サピエンス2
残暑が厳しい日本の中秋の夜、日本のどこかの壊れた市街地の、どこかのみすぼらしい居酒屋にて。西暦は2098年。
「まあ、因果応報なんてないすよ。」
乙が言う。天井についた居酒屋らしいオレンジ色のLED照明が乙の顔を上から照らす。乙の目に影ができている。乙の細長く彫りの深い顔の造形のため乙の顔が骸骨のように見える人もいるかもしれない。
「あ? 仏教用語かよ。当たり前だろ?? 今どき誰も信じちゃいないよ。」
甲が乙の言葉に応じて言う。甲と乙は居酒屋の入り口から入って一番右奥の角の2人用のテーブルに甲と乙は向かい合って座っている。甲が入り口から見て右壁際の席であり甲の後ろには通路を挟んで透明な素材でできた中身の各種銘柄の茶色いビール瓶が透けて見える高さ1.3mくらいの冷蔵庫が酒類を冷やしている。結露という汗をかきながら。
店内はがやがや騒がしい。なぜかというと夜中の繁忙期だからである。
「お通しの枝豆です。5万円です。」
若いバイト風の見た目の女である丙が甲乙の木の目が見える檜のテーブルの上に黒い皿に乗った枝豆を白い取り皿と共に置く。
「どうも。どうも。」
甲はお通しの枝豆を手に取っては頬張って皮を白い取り皿に捨てながら枝豆の豆を咀嚼する。
「そんな時勢でしたか。誰も信じていないですよね。確かに。」
乙が言う。
甲が答えて以下の様に言う。
「所詮人生、主観が全てですよ。主観が快適ならそれでいい。主観を快適にさせない情報は息の根を止めてしまうことです。」
終