第六節 知性
最後の授業が終わり、放課後というこれまた一日の中で、学生にとっては特別な時間が始まった。
部活動に勤しむ者、目的もなく校内に残り仲間との余韻を楽しむ者。様々だ。
俺は同じ頃の自分を思い出しては、親父に逆らい、喧嘩に明け暮れた青い日々に苦虫を噛んでいた。
校門の向かいの電柱に寄り掛かり、その“もたれ心地”を確かめるようにドサッと背中を押し付けて、目当ての女子高生が来るのを待つ。
どんなツラして出て来るのか、非常に楽しみだ。“普通”のツラで出て来る確率よりは、仏頂面で出て来る方が確率は高い。
なんせあの無法者だ。友達はいないだろう。
「来たな」
俺の前方、そうだな、約三十メートル先から、道和アサキがやって来た。
予想するまでもなかった。見るからに仏頂面をしている。
「よお」
校門を出て来たところを声を掛けた。
「へ、変態男!」
人の顔を見るなり、戦闘体勢に入った危険女、道和アサキ。こいつはどれだけ暴力が好きなんだ。
蹴りが飛んで来なかったのは、俺がそれを見越して距離を取っていたからだ。
「待てって。そう攻撃的になるな」
「フン!何しに来たわけ?今日はあんたに用事はないけど」
「あのなぁ、お前は自分の用事がなけりゃ人を拒絶するのか?」
「あんただからよ!」
往来のど真ん中で叫ぶな。みんなが見てる。
「別に気にしないから」
俺が気にするんだよ。
こいつにはまともな会話は無理かもしれん。仕方がない。おとなしく渡すか。
「ほらよ」
「……!!なんであんたが持ってんの!?」
「夕べ落として行っただろ。拾っておいてやったんだ。確か、昨日の昼間はハンカチを拾ってやったな。これで二つ貸しが作れたワケだ。道和アサキさん」
「狡い男。恩を着せるくらいなら、最初から拾ってくれなくて結構よ!」
俺を避け、つかつかと通り過ぎたと思いきや、
「馴れ馴れしく名前呼ばないで!」
学生証を取り上げ、去って行った。
「………やれやれ」
魔女を狩る者と保護する者。相反する俺らだが、この時既に歩き始めていたのだ。荊よりも過酷な道を。
「教会が自分達が信仰する魔女の為に………ってのはわかるさ。だけど、神父……つまり主が居なくなった魔女が自由になったところで、やっぱり自分が崇拝されたいが為に他の魔女を倒すのか?」
俺は、昨夜のシンデレラと名乗った魔女について兄貴に聞いてみた。
「だろうな。だがその辺はまだ曖昧だ。誰が始めたのかもわからん争いだ。真相を暴くのも一興だろうが、真神としては依頼を遂行するのみ。要らぬ事はしなくていい」
今向かってるのは、新たな教会。ガセネタの可能性は低いらしく、車に乗るや否や、すぐに銃を渡された。
危険のある依頼とは言え、人を殺すのは真っ平御免だ。一応、受け取ってはおいたが、せいぜい威嚇にしか使う気はない。銀の弾丸が無駄になってしまうが、勘弁してもらおう。
「で、今夜はどこの教会に行くんだ?」
嫌いな兄貴と二夜連続でドライブとは、夢が無い。
なるべく喧嘩をしないように、低姿勢で話す。魔女狩りが終わるまで、兄貴は俺の相方。避けて通れるいざこざなら、努力はしてみるべきだろう。
「今日も町外れの教会だ。昨日とは真逆の方向のな」
また、アサキの奴が来るんだろうか。それに、もしかしたら魔女と魔女の戦いがあるかもしれない。そうなったら、魔女を保護すべき立場のアサキはどうするんだ?なんだか見てみたい気もする。
それ以上、兄貴と会話はなく、俺はナビシートの背もたれを倒した。
(魔女…………)
魔女って何なんだろう。真神家にとって厄介者の俺を呼び戻してまで請け負った依頼。
魔女を狩ることだけを言い渡された俺だが、にわかに小さな好奇心が生まれていた。
−真実を知る−
それは禁忌なのだろうか。
流れる街の景色が、どことなく歪んで見えていた。