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第四十五節 久遠

クダイの黄金の剣とダーインスレイヴがグリムの身体を貫き、確実に勝利を手にした。


「やった………!」


思わず俺は声を漏らした。当然だろう?終わったんだ。これで全部。

もう、誰も傷付かなくて済む。そんな安堵感もあったんだと思う。


「がふっ………ま……負けた………のか?」


未練がグリムに現実を拒否させている。


「グリム。君の完全なる敗北だ。雪辱戦の永遠に訪れない………ね」


悔しいけど、クダイの奴がキメてくれた。嫉妬するね。ま、ラストを飾るには相応しい色男だから許してやるか。


「さて、グリム。君には聞きたいことがある」


「………フッ………あの二人のことか………」


グリムが指すあの二人ってのは、他ならないアサキとユラのこと。

まだ、安堵なんてしてられなかったな。アサキとユラが、どうしてブランシェットへの鍵なのか。


「くく………アサキとユラ。二人は“どちらか”が最後の魔女・グレーテルだ」


なんだって………?


「“どちらか”?魔女はどう見てもユラという少女の方じゃないか」


「お、おい!ユラが魔女って、どういうことだよ?」


おかしなことをグリムが話始めたと思えば、クダイまでユラを魔女だと言い出した。


「僕がループした過去四回。そこでは、あのユラという少女は佐一郎に屋敷で殺されている。グリムが二人のどちらかが鍵だと言うのなら、ブランシェットに会えなかった時にいなかった人物が魔女だ。とすれば、四回とも最後までいなかったユラが魔女のはずだ」


「残念だが……クダイ。君がこの世界に来る前に、アサキが早くに死に………ユラが残っていたこともある………」


てことは、“どちらかが”ではなくて、“どちらも”魔女ではないってことじゃないのか?


「それがわからんから、今回はユラを………佐一郎から守り、アサ……キを監視していた」


「ちょっと待てよ。お前の十七年前はどうだったんだ?」


グリムは経験してるはずだ。この戦いの全てを。


「それは聞いても無駄だよ。アロウ」


「クダイ?」


「グリムの十七年前に君はいない。だから、さっき“こんなにも不甲斐ないのか”………そう言ったんだ」


「おいおい。それじゃ矛盾してるじゃねーか。ここはグリムの過去なんだろ?なら、十七年前にも同じ経験をしてなきゃ筋が通らないぜ」


「そう。ここは“グリムの過去の世界”。アロウ、君は過去の存在なんだ」


それって、実在してないってことか?


「正確には“十七年前に実在していた”………かな」


「冗談言うなよ!俺はここにいる!大体、グリムが過去に来たってことは、やっぱり一度経験してることなんだ!なら、魔女のことも、ブランシェットのことも知ってるだろ!」


「わかってないね。グリムが時間を遡り過去へ来た。だが、“その過去”、つまり“この世界”は“その過去”とは別のものになる。そうでなければ、過去へ来たグリムが、何人もいることになる。しかし、そんなことは時間の概念から言って有り得ない」


「信じられるか!矛盾を強引な理屈で隠してるようにしか見えない!」


「アロウ。時間の全てを知ることは、所詮、人にも神にも不可能なことだ。宇宙が“無”から生まれたのなら、“有”に向かって時が進んでいたことになる。それでは、“無”の状態の時に既に時間が存在していたことにならないか?でもそれじゃ“無”ということに反する。じゃあ、『時間が在るから全てが存在するのか?』それとも、『全ての中に時間が存在し得るのか?』………それは誰にもわからない。君が矛盾に感じることも、宇宙の細かな理屈で、時間の概念のひとつなんだ。………かく言う僕も、時間や異世界を旅していても、時間の仕組みなんてよくわからないのが本音だ」


……………

…………

………

……


何も言えなかった。俺の存在がグリムの過去だなんて。


「………気の毒だがそういうことだ。私は………アサキもユラも……もしかしたら魔女なのかもしれない…と、思ってもいる………だが、十七年前の記憶には、アサキがいないんだ。だから私は………過去に来て彼女を見た時、彼女が魔女だと信じて疑わなかった………」


グリムの告白は、暴論だけど事実なのだろう。グリムの十七年前には、俺もアサキも存在しなかったという。言われて見れば、アサキはともかく、俺が十七年前に存在しているってことになれば、グリムと俺は別人ということだ。ここがグリムの過去………過ぎ去った時間だが、今も進行形の過去だからこそ、“俺”がいても不思議じゃないんだ。

 それに、俺達を残し自分だけがブランシェットに会うなんて話、確実性がなかったんだ。


「魔女はその数がゼロにならない。アサキがいなくなっても、ユラがいなくなってもブランシェットに会えない。………なるほど。そういうことか」


どういうことだか知らないが、クダイには何かピンと来るものがあったらしい。


「何かわかったのか?なら俺にも教えてくれ」


「ああ。けどその前に………」


クダイは黄金の剣の切っ先で、グリムの顎を上げた。


「死刑執行だ」


そして………グリムの首を切り落とした。とてもじゃないが、真似は出来ない。

グリムの肉体が塵になって風に流され、浮いていたアサキとユラが落ちて来るのをクダイが受け止めた。


「終わりましたね」


ジャンヌは笑顔でクダイに懐いて見せる。その少女らしい表情も、目の前で首を切り落とされた後では色褪せる。

 クダイは二人を瓦礫にもたらせた。


「アサキとユラ。二人は“どちらか”が魔女というわけでもなく、また“どちらも”魔女ではないというわけでもないんだ」


グリムがいなくなっても、まだ眠り続けるアサキとユラ。二人は一体………?

クダイがおもむろに論じ始めたその結論を待った。


「………“二人とも”魔女なんだ」


そんなバカな。アサキとユラがどちらも魔女だって?そんなはずはない。魔女は六人のはず。既に五人の存在は確認している。ならば残る魔女は一人。


「違うんだよ、アロウ。具体的に言うと、ユラが魔女の時、アサキは魔女じゃない。アサキが魔女の時は、ユラは魔女じゃないんだ」


「どこが具体的なんだ?わかんねーよ。ひとっつも。それじゃ片方だけが魔女になるだろ」


なんだなんだその顔は?残念そうに溜め息まで吐きやがって。

クダイはどう説明したらいいか迷ってるようだが、ようやくまとまったのか、


「例えば、あの時屋敷でユラが佐一郎に殺されていれば、その時点でアサキが魔女になる。逆に、アサキが何らかの形で先に死んでしまえば、その時点でユラが魔女になる」


「考え方を変えれば、二人が生きている時点では、六人目の魔女は存在しないってことさ」


ジャンヌ、的確な説明はありがたいが、お前は黙ってろ。


「六人目の魔女が存在してないってなら………」


「佐一郎やグリムがいない現状でも、世界がループするということだ」


クダイは呆れて、また溜め息を漏らしやがった。


「じゃあ、明日の金環日食を超えられないってことか………」


それじゃあ、俺達は今まで何の為に戦って来たんだ。

考えてみりゃ、グリムがいつまでも自分の内面世界から抜けられなかったのは、その手段を知り得なかったからだろう。

俺達の行動パターンを読む為、ブレーメンを立ち上げ、クダイやジャンヌにイニシアチブを取らせていたんだ。

その結果が、抗えぬ運命だったなんて、きっとグリムも認めたくはなかっただろうな。


「はは………どん詰まりかよ………」


ガクッと膝が落ち、地面に手を着いた。


「そうがっかりすることもないさ」


………?


「金環日食を超える方法はある。ひとつだけね」


「………ホントか!」


マジかよ。


「ああ。僕は嘘はつかない」


お前のアピールはこの際いらない。早く金環日食を超える方法を言え。


「………しょうがないねぇ。………元々は、魔女を生贄にってのが条件だった。でも、六人中、五人は狩ることが許されていた。なら最後の一人が鍵になる。この一人をどうするかだ」


「……………どうするんだ」


長い前置き。黙れとは思ったが、妙におとなしいジャンヌ。ニヤケたクダイ。

嫌な予感がする。


「二人を同時に殺す」


「な…………」


「いいかい、アロウ?取り乱さず聞いて欲しい。ここは………この世界は“現実”とは違う。あくまでも“グリムの過去”。“既に終わっている時間”なんだ」


「………それで?」


聞いてやろうじゃねーか。お前の意見を。


「魔女達の存在意義は、時間を進ませる為のスイッチ。一人狩るごとに、アサキとユラの魔女としての存在を確定させて行くスイッチだ」


「くだらねー。ここが“過去”なら、世界がループなんてするのは道理じゃないだろ!」


「君の言う通りだよ。だからグリムは一度経験してるって、僕は言ったんだ………ループを抜ける経験をね」


それってつまりは、アサキとユラを………


「ループのきっかけは、グリムが過去へ遡って来たことだろう。何を取り戻したかったのかはわからず終いだがね。そして、そこに“アサキ”というグリムの記憶にない人物が現れた。その出会いがループを抜けられなくする引き金だったんだ」


………アサキに記憶がないわけだ。グリムが過去へやって来たのと同時に生まれたんだからな。


「なら………どうしてアサキが生まれたんだ?」


「戒め………かな」


「戒め?フン………なんだよ、それ」


「時間を超えるなんて、赦された行為じゃないんだ。神と言えどもね」


「お前はどうなんだ、クダイ。お前やサマエルだけは特別なのかよ」


「そうだよ。サマエルが言うには、宇宙が自分の運命を二人の男に託したと言うんだ。その二人ってのは、かつて僕がいた世界にやって来た奴らなんだが、彼らに深く関わる存在は、あるいは時間超えを赦されているのかもしれない」


「グリムはお前から時間超えの方法を聞いたって………」


「………それは定かじゃないけど、どっちにしろ最後の魔女に確定されたアサキとユラは、明日の金環日食が始まる前に始末しなければいけない」


「言いてーことだけ言ってんじゃねーよ!!お前の話が全部正しいとしても、二人を殺せるわけないだろッ!!」


「それは君の自由だ」


「………!?」


「僕はこの世界の時間に干渉してない。単に外から入って来た存在だ。だから、時間の密度が薄くなってる今なら、どこへでも行ける。ループを回避するしないは、アロウの問題だ。ただ、僕はブランシェットに会ってみたい。会ってブランシェットが何者かこの目で確かめたい」


「その為にアサキとユラを殺せるかッ!」


「………最後の魔女グレーテル。彼女達を狩るのは、最後のロザリオカルヴァの君の役目だ」


「……………ッ!」


「明日の金環日食は確か11時11分だ。それまでに考えておくんだね。金環日食の向こう側に行くのか、行かないのか」


これは悪い夢なのか………?一生懸命戦って来て、最後に言い渡されたのが、こんな悪魔の裁きのようなことなのか?


「行くよ、ジャンヌ」


「はい。クダイ様」


黄金の剣とダーインスレイヴを鞘に収め背を翻す。


「ああ、そうだ!」


まだなんか言いたいのか?


「ここが過去の世界であっても、君には明日が訪れる。金環日食さえ超えれば、十七年後にグリムになることも可能だよ」


クダイはフッと笑い、ジャンヌと共に消えた。

残された俺は、一向に目を覚まさないアサキとユラを前に、残された時間を有効に使える気はしていなかった。


「俺は………どうすればいいんだ………」


人が時間を超えたことの戒め。

最後に残された選択は、同じ時間を永遠に生きるか、寿命という制限された時間を生きるか。

その為に失うのは、大切な友人だった。


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