第三十一節 夢魔
「ぐ………おぉ………ま…まさか………本当に……ジャスティスソードを………」
「言ったろ!お前にこのまま世界を壊されるくらいなら、僕がお前を殺して世界を壊すって!」
「ク……クダイ………愚かな選択……です。その手に………自ら罪を………」
「愚かな選択をしたのはお前だ、ダンタリオン!」
「な、何……?」
「幻想として生まれたお前が、人として生きて来たんじゃないか。シャクスやオルマとの思い出だってあった。きっと、もっと幸せになれたんだ。こんなことさえ望まなければ!」
「…………フッ。フフ………甘い。甘すぎて暴言も吐けませんよ」
「ダンタリオン………」
「ここは時空間を繋ぐディメンジョンバルブの中。………世界が壊れる前に………あなただけは逃げ延びることが出来る。………賭けましょう。クダイ。あなたは必ず、私と同じ道を歩む…………その“力”に気づいてしまったから………」
「……!!………ふ、ふざけるな!僕はここで果てるんだ!それがみんなの世界を壊す僕の責任だからな!」
「フフ………私には見える………成長したあなたが、ただひとり、叶わぬ願いを求め時間を旅する姿が!」
「だ、黙れェーーーッ!!」
「運命は変えられないッ!あなたもいつか苦しむのでしょう!足掻いても足掻いても、望む場所に辿り着けない現実に!!なぜなら、人は道を誤る生き物!あなたも例外ではないからです!!フフ………フハハハハーーーーッ!!!」
「ダンタリオンーーーッ!!」
目覚めれば、そこはベッドの上だった。
「………ゆ……夢か………うっ」
サマエルにやられた傷が痛む。
寝汗がべとついて気持ち悪い。
「気がつきましたか」
ドアが開き、ジャンヌがタオルを持って来た。
「ジャンヌ………ここは?」
「セツハの用意したホテルです」
難しい顔をして考え込むクダイに、そっとタオルを当て汗を拭き取る。
「悪い夢でも見てらしました?」
「………うなされていたか」
「ええ」
敢えてどんな夢かは聞かないでおいた。
その夢は、クダイと出会ってからずっと彼を苦しめている。
クダイ自身も、終わったはずの過去に苛まれている現在を認めたくはないのだ。
「サマエルの奴………少しナメてかかってたよ。あそこまで強いとは思わなかった。………慢心だな」
「クダイ様に手傷を負わせるほどの者であるならば、いっそ味方に付けてはいかがです?」
「それはいい案とは言えないよ。サマエルは損得で動く奴じゃない。自分がどこまで満足出来るかだけを望んでいる。僕とは生き方が違う」
そう言って、ふとカレンダーを見る。
「………どれだけ眠ってた?」
「4時間ほどです」
もっと眠ってたのかと思ってた。悪夢にうなされたとは言え、ぐっすりと熟睡した感覚がある。
「包帯、変えましょう」
傍にあった救急箱を手にしたジャンヌの腕を掴み、
「………すまない。ひとりにしてくれ」
頭を抱え呟いた。
「………わかりました」
出しかけた救急箱を戻し、クダイの背中にカーディガンをかけると、軽く頭を抱きしめ出て行った。
ひとり残った部屋には、暖房の音だけが流れる。
「一体、いつまで苦しめばいいんだ………」
ギュッとシーツを強く握り、幾度も悩まされる悪夢を恨む。
消滅した世界で共に生きた仲間達。戦いで命を落とした者は諦めがつく。しかし、自分の帰りを待つ者達だけは、今も後悔している。他に手段がなかったのか………と。
「シトリー………」
そして、愛する者への想い。
「………君に会いたいよ………」
行く当てのない心だけが、生きる為の理由だった。