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第三十節 救援

「くたばれっ!兄貴ーーッ!」


刻印カルヴの力を解放した拳を、兄貴の顔面に捩込むまでわずか数ミリ。そこで俺は“千手”に身体を拘束されてしまった。


「しまった……!くそっ!離せっ!」


離せと言ったところで、本体無き腕達が聞き入れるわけもなく、


「フッ。残念だったな。アロウ」


兄貴が嘲笑うだけだった。


「お前は昔から前に進むことしか出来ない男だ。恐れるに値しないんだよ」


身動きのとれない俺は、空中に張り付けにされる。


「うぅ………ちっくしょう………!!」


「愚弟を葬る兄の心中。察してくれよ」


兄貴は地上から俺を眺め、何やら手で空を掴む。すると、地面から荊が無数、触手のように現れた。

言うまでもなく、これも奪った魔女の能力だろう。


「花葬の魔女、ラプンツェルのから奪った力だ。一撃で心臓を貫いてやる」


兄貴が宣告する死を前に、俺はどうすることも出来ない。


「せめて………せめて右手さえ使えたら………」


何本もの腕で身体を抑えられてる俺は、兄貴が呼び出した荊を受け入れるしかない。


「死ねッ!!アロウッ!!」


兄貴が拳を突き出すと、それに反応して荊が動き出した。

蛇のように、それでいて放たれた矢のように素早く、俺を狙う。

飛んで来る荊を凝視出来ず、思わず目を閉じた。

そして、死を覚悟した瞬間、鈍い音がした。そんなことを考えられるってことは、まだ生きてるのだろうか?ゆっくり、うっすらとまぶたを動かす。


「……………!!」


俺の命を狙っていた荊は“食いちぎられ”、先っぽを失くしていた。


「………貴様ら!!」


兄貴が怒鳴り声を上げた。完全に視界を広げ、何が起こったのかの確認をする。


「お………お前ら……!」


眼下にいたのは、ドロシーとその愉快な手下達だった。


「間一髪だったな」


そう言ったのは、巨体を持つライオンだ。

 驚いて目を丸くしてると、光の刃が飛んで来て、俺を掴んでいた“腕達”を裂き、俺はようやく解放された。


「ど………どうしてお前らが………」


上手く着地し、俺はライオンに聞いた。


「言ったはずだ。借りは返すと」


約束だからと言わんばかりの口調ではあったが、頼れる強い感情を感じた。

そこへ、おチビ………ドロシーがやって来て、


「感謝するのだ!この、ドロシー様がお前の命を救ったのだからな!」


恩着せがましく振る舞った。

まあ、助かったことに違いはないが、コイツに言われても有り難みがないな。


「ヘッ………今までどこに隠れてやがったんだ」


「話は後でございます。一度退散するでございますよ」


カチャカチャ関節を鳴らしキコリが言った。

逃げるのは不服だが、それもやむなしか。


「アロウッ!」


「アサキ………」


離れて戦ってたアサキも、ジャンヌには歯が立たなかったのだろう。傷を負ってフラフラとしながらやって来た。


「大丈夫か!」


「え……ええ。でも、これ以上は体力が限……界………」


体力を使い果たし、俺の胸にもたれて来た。その華奢な身体は、いつものパワフルなアサキではなく、普通の17歳のもの。

頼りなく、誰かが守ってやらねば消えてしまいそうだった。


「おや?援軍かい?」


ジャンヌが不意に姿を見せる。ドロシー達を見ても焦りを見せないのは、腕に自信があるからか。


「援軍が来ても、結果が変わることはない。諦めろ」


くそったれのバカ兄貴も、負ける気はしないらしい。


「おい!チビ!助けに来たからには、逃げる策はあるんだろうな!?」


「チビって言うなっ!」


「あ、あのなあ……ここでお前と言い合う暇はないんだよ!いいから逃げる策があるなら、さっさと言え!」


「……………………………。」


沈黙のあげく、おチビは舌をペロッと出しやがった。


「お、お前なあ………」


ならば頼るのはライオンしかいない。

そう思い、ライオンの奴を呼び掛けると、


「ジャンヌ………退き上げるぞ」


クダイがフッと現れた。それも、大量に血を流し瀕死の状態だ。


「クダイ様!」


ジャンヌは慌ててクダイを支える。その表情は、聡明な出来る秘書のものではなく、ただの女の顔だった。それを見た瞬間、二人の関係を知った。何より、クダイに“様”を付けたのだ。主従の関係もあるのは事実だろう。いや、これも真実か。


「クダイ様、しっかりなさって下さい!」


「僕は心配いらない………でも、今夜はこれで………うっ……!」


かなり信じられない状況だ。あのクダイが、悲痛な面持ちから立ち直れないでいる。彼をそうさせたのは、明らかにサマエルであって、どれほど上位の戦いが行われたかは、一目瞭然だ。


「ジャンヌ………これは命令だ。セツハにも………」


「………わかりました」


従者の口ぶりで、ジャンヌは一言返事をすると、


「セツハ!退却だ!」


兄貴にそう指示する。言われた兄貴は、半ば不満げに、


「こんなところで帰れるか!」


反論した。しかし、それを許すまいと、ジャンヌは兄貴を睨みつけた。


「命令には従う約束だ。従えないなら、君をここで殺す!」


「…………チッ」


薄気味悪い“腕達”と、蛇のような荊を消し兄貴は、


「命拾いをしたな。だが、アロウ、近いうちに決着は着ける。首を洗って待っておけ!」


捨て台詞を吐いて去った。

そして、無言のままクダイを抱えジャンヌも去った。


「アサキ!」


「………大……丈夫………少し………休ませ……て………」


疲労からアサキも気を失い、後に残された俺は、難を逃れた安堵と共に、不安に押し潰されそうになる。

それでも、命を救われた小さな救世主とその手下に、今だけはすがっていたかった。


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