表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/52

第二十七節 挑戦

もぬけの殻とはこのことを言うんだろうな。

戻って来た俺とアサキを迎えたのは、無人のブレーメンだった。


「こんな大事な時に、みんなどこに行ったのよ!」


ダンテの机を、アサキが思い切り蹴飛ばす。

俺はその行為を咎めることはせず黙認した。気持ちは同じだからな。

刻印カルヴに妖かしの能力を奪い、吸収することが出来るなんて知らなかった。


「アサキ。どうやら思った以上に最悪な状況らしいな」


まだ憶測ではあるが、ジャンヌとダンテはやはり何か企んでいる。魔女の保護と謳歌しているが、彼女らの能力を利用しようとしているのは間違いない。


「一体、何がどうなってるわけ!」


「それは俺も知りたいね」


イラつく気持ちはあるのだが、俺の分までアサキが発散してるように思え、逆に冷静な思考を巡らせることが出来た。


「どうすんの?誰もいないんじゃ話にならないわ!」


「最初から話になんてなってないんだよ」


「どういう意味?」


「サマエルが言ってた。自分の目で確かめたわけでもないのに、安易に他人を信用するなって」


きっとそれは、組織に殉ずる輩の全てを指すのだろう。


「アサキ、ジャンヌとダンテを捜すぞ!あの二人、絶対に何か隠してる!ぶん殴ってでも、今度こそ真実を吐かせてやるぜっ!」


次は言い負かされるものかと、意気込む俺は、不意に訪れたダークな気配を感じ振り向いた。


「それは怖いな」


いつの間にか、ジャンヌが壁にもたれ掛かっていた。

ただ、明らかに尋常じゃなかったのは、鈍色の鎧を纏っていたことだ。


「ジャンヌ………」


「アロウ。言ったはずだ。全てを知ろうとすることは浅はかだと。知らなくていいこともあるんだよ」


「黙れッ!魔女を保護するなんて建前だろ!真意は他にあるはずだ!」


「フフ………人間って、どうして知りたがりなんだろうねぇ。知り得る全てが、優しさを持ってるわけじゃない。………知れば、後悔するかもしれない。もっとも、言うつもりはないけれど」


ニヤッと微笑む。そこにはもちろん悪意がある。


「お前の言う通りだ。知れば後悔するかもしれない。けどな、それは知った側がどう受け止めるかだ!知らせる側の勝手な判断はやめてもらおうか!」


「………いい目つきだ。ロザリオカルヴァ、真神アロウ………ボクは一度戦いたいと思ってたんだ」


ジャンヌが剣を抜いた。鈍色には似合わない鏡面のような刃。自らが光を放つようなその剣は、血で濡れることを望んでいるようだ。


「俺と?」


「聞かされてないのかい?なら教えてあげよう。ロザリオカルヴァは、古来、真実の神と呼ばれていたんだ。真実の神………つまり、君のファミリーネームの真神まがみとは、そこから来ている。フフ。神と戦うなんて、我ながら愚かしいとは思うが、まあ飽くなき探求心とでも思って、ボクの挑戦を受けてほしい」


何のことだ?俺が………神?

ジャンヌの言ってることが理解出来ない。


「アロウ………」


アサキに呼ばれ、ふと我に返る。彼女の表情を見るに、俺は余程怪訝な顔をしてたに違いない。


「わかってる。相手にするなってんだろ?」


勝敗はともかく、戦う準備って言うか心構えが整ってない。今ジャンヌと戦うのは自殺行為だ。


「悪いな、ジャンヌ。一方的な挑戦状は受け取らない主義なんだ」


「そうなのかい?それは残念だ。でも、君に拒否権はない」


「チッ」


スローモーションのようにゆらりと剣を構える。

ドアの前に立たれ、ここは2階。後ろは窓ガラスが閉じられている。


「アロウ!」


アサキは俺を見て軽く頷く。それが何を意味してるかは、充分に悟れた。


「行くよ!真神アロウッ!!」


助走もつけず飛び込んで来るジャンヌ。俺とアサキは、彼女が剣を横一閃に振るう刹那、窓ガラスを割り、2階から飛び出した。

着地が成功するかなど考える余地もなく、見事二人して転げてしまった。が、すぐに立ち上がり、逃げようとすると、


「どこへ行く」


兄貴が息を切らしてやって来た。


「サマエルのヤツ、なにやってんだよ」


サマエルに文句を言っても仕方ないのだろうが、これで退路を完全に失ったわけだ。


「これは………真神家長男、真神セツハ」


ジャンヌのヤツも2階から飛び降りていた。


「ブレーメン………」


兄貴は俺をすっ飛ばしてジャンヌを睨んだ。

もう、誰が味方で敵か解らない。少なくとも、俺とアサキに味方はサマエルのみ。そのサマエルも信用に足りるかは別の話だが。


「ちょうどいい。神を二人も相手に出来るなんて、滅多にない幸運だ」


「神?なんの話だ?」


どうやら、兄貴もジャンヌの言うことが理解出来ないらしい。つまり、何も知らないのは兄貴も同じだということ。


「兄貴、俺達、真神家の人間は………」


「そうか、アロウだけじゃなく、君も何も知らされてないんだね。セツハ」


ジャンヌが人差し指で前髪を跳ねる。その仕草は、全くの余裕。気持ちに乱れがない。


「フン。なんだかよくわからんが、邪魔する者は誰であろうと殺す!」


「兄貴ッ!」


「もう魔女も真神も関係ない!新たな伝説を私が創る!」


このバカ兄貴がっ。妄信者に成り下がったか。

兄貴の睨む相手が、今度は俺になり、アサキは俺に背中を合わせるようにしてジャンヌを睨む。


「アサキ。真神に味方するのかい?君は………いや、何も言わないでおこう。好きにするといいさ」


「歯切れ悪いわね。気になるじゃない」


「気にしない方がいい」


「………どっちみち、あんたとダンテには聞きたいことがあるわ!ゲロ吐くまで蹴り倒してやるから、覚悟しなさいっ!」


おいおい、逃げるんじゃなかったのかよ。


「しょうがないでしょ!いいからそっちは任せたわ!」


どうやら選択肢はひとつのようだ。


「………どいつもこいつも勝手なことばっか言いやがって」


刻印カルヴを取り出す………って表現も変だが、俺は兄貴と戦う為に狩人の能力を使う。

俺と兄貴。アサキとジャンヌ。戦わねばならぬ理由があるようには、どうしても思えない。

それでも、この場を逃れるには、戦うしか他にないのだ。


「準備はいいかい?」


と、ジャンヌが宣戦する。


「いつでもどっからでも、かかって来なさいよっ!」


と、アサキがステップを踏む。


「ロザリオカルヴァは世界に一人で充分だ!」


と、クダイに何を吹き込まれたか知らんが、妄信している兄貴。


「チッ。どうにでもなりやがれっ!」


そして俺は、先の見えない迷宮の中、迫り来る時間に怯えていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ