第二十六節 決意
「クダイ!なんとかしろ!」
慣れたように応戦をするサマエルの攻撃に、セツハは太刀打ち出来ないでいる。アロウとアサキを追いたくとも追えない苛立ちが、クダイへ向けられた。
「クク。だとよ。応えてやらんのか?」
何度も剣をぶつけ合いながらも、サマエルは隙を見てアロウを追おうとするセツハを、離れた場所から瞬時に攻撃する。
しかし、それはクダイが本気モードでないことも後押ししてのこと。サマエル自身も充分に理解している。
「フフ。どうにも、僕の近くにはわがままな奴ばかりが集まって来る」
サマエルから距離を置き、長い髪を掻き上げる。
「セツハ。僕がサマエルを攻撃したら、一気に駆け抜けるんだ。大丈夫。しっかり相手しとくから」
ギラリの瞳の奥が光る。
「よ、よし、わかった!」
クダイの様子を伺いながら、駆け抜けるタイミングを見計らう。
クダイは瞼を閉じ、緩んでいた唇を結ぶ。
「行くぞ!サマエルッ!!」
閉じた瞼をそのままに、クダイはサマエルへ突撃する。
それを合図に、セツハも走る。
目を開けていないながらも、クダイは俊敏、かつ的確な軌道でサマエルに近づき、果敢に攻める。
「フッ。これならセツハを構う余裕はないはずだ」
舞踏のように舞うクダイは、完全にサマエルの動きを封じる。
「セツハ!アロウとアサキを追え!」
言われるまでもないと、セツハは一気に駆け抜けた。
「ククク。目を閉じたまま攻撃してくるとは………」
セツハがいなくなったのを確認してから、サマエルは自身の剣カオスブレードでクダイを押し返す。
「面白い技を使うじゃないか」
「無眼の構えと言うんだ。目を閉じれば、瞼の裏に君を捕らえる為の光の軌跡が見える。どう行動すればいいか教えてくれるんだ」
「随分と洒落た技だな」
「もっとも、昔は条件付きでしか使えなかったけど」
「クク………そうか。貴様も荊の道を歩んだ一人か」
どんな条件が付いていたか。よりも、どんな道をどんな風に歩んで来たのか。そこに興味が湧く。
「だったらどうだって言うんだ?僕がどんな道を歩もうとも、全て過去のことだ」
「それは違うな。生きている以上、道は果てなく彼方へ続くものだ。今の貴様がどんな道を歩いているかは知らんが、優美なる草花の道でさえ、一瞬の選択が荊を生む。過信しないことだ」
「………嫌いだな。僕の知ってる奴に、君みたいな奴がいる。何もかも知ってるような言動で人を惑わし、深い思想で魔界へ誘う。………悪魔だよ。悪魔の神ヴァルゼ・アーク………」
「ほう。ヴァルゼ・アークを知っているか」
「………アハハハ!………奇遇だね。君も知ってるのか」
クダイの中で、点と点が繋がる。
サマエルの追っているうちの一人は、自分の知っている人物である。
そして、もう一人。おそらく、その人物も共通の知り合いだろう。
「ヴァルゼ・アークを知ってるってことは、羽竜も知ってるのかい?」
「フッ………我が愛しき因縁よ」
「僕は恵まれているのかいないのか………」
尊敬する友人を共通の知り合いに置きながら、サマエルとは剣を交えなければならない。
「まあいいや。僕は腹を決めたんだ。そろそろ“事”を進める為のね。あの二人の話をじっくりしたいところだけど、本格的に君に邪魔される前に、死んでもらうよ………サマエル!」
「………やれるものなら、やってみるんだな!」
そしてクダイは、右の腰にぶら下がってるもうひとつの剣を、左手で抜いた。
神々しい黄金の刃。二刀流と無眼の構えで、再びサマエルに挑む。
「誰にも僕の邪魔はさせないっ!!」
決意固く。クダイは、おのが目的の為ならば、いかなる犠牲も問わないと心に決めている。