表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/52

第二十五節 急変

今回で五度目の魔女狩り。疑いを持つことも、もうない。なぜなら、ジャンヌが持って来る情報は確実だからだ。

だけど、それは兄貴とクダイ側にも言える。どこから仕入れて来るのかなんて、考えたこともないが、いずれ出所ははっきりとさせたい。

俺は、アサキとサマエルを連れ、言われた先の教会へとやって来た。


「五人目の魔女がここにいる」


解りやすく、簡潔に言ってやる。

前回は兄貴に先を越され、世界から魔女を一人消されてしまったが、今度はそうはいかない。


「それにしても大きな教会ね」


アサキが言うように、見た目から、教会には間違いはないのだろうが、いかんせん学校の校舎並の大きさだ。胡散臭ささは申し分ない。


「どうしたの?サマエル」


機嫌悪そうに辺りを気にするサマエルに、アサキが声をかけた。


「………嫌な臭いがする」


特に臭いを嗅いでるようには見えないが、何かが気になるらしい。


「何にも臭わないぞ?」


俺はクンクンと鼻を機能させてみたが、サマエルが気にする何かを感知は出来なかった。


「何の臭いがするわけ?」


アサキも俺を真似たようにしていたが、感想も同じようだ。


「………嗅ぎなれた臭いだが、ずっと好きになれなかった臭いだ」


だから、それが何なのか聞いてるんだ。そういう言い方をするってことは、何の臭いか解ってはいるわけだ。


「魔女狩りと関係ある臭いなのか?」


「そんなものと比べものにはならんな」


「なあ、サマエル。これから一仕事するんだ。あれこれ頭を悩ませたくない。そんなに気になるなら、ちゃんと言えよ」


おそらく兄貴とクダイも来る。その前にカタを着けたいんだ。


「………神の臭いがする」


「は?カミ?」


「それも高位の神だ」


ああ。神様のことか。

もちろん、俺とアサキが神様の臭いなど解るわけもなく、サマエルの言葉に眉をひそめるしかなかった。


「しかも………それだけではない。上手くは言えないが、危険な臭いであるのは間違いないだろう」


「間違いないだろうって………具体的にどうしたって言うんだ?まさか、神様が降臨して来るなんて言うなよ?」


サマエルの顔が不安げに染まる。コイツのことを、よくは知らないにしても、ただ事でないことは解る。


「急げ、アロウ。嫌な予感がする」


ホント、なんだかよく解らないが、俺まで不安に染まって来た。


「行こ。アロウ。サマエルの言う通り、空気が淀んで来たわ」


それはアサキも同じようだ。


「よしっ!行くぞ!」


そう意気込んだ時だった。


「裏切り者がのうのうとやって来たか」


教会の方から誰か歩いて来る。だが、姿を確認するまでもなかった。聞き慣れた声だ。


「兄貴!」


そして、


「遅かったね。残念だけど、もう事は済んだよ」


「クダイ………ッ!」


コイツ、今何て言った?事が済んだ?


「そうだ。魔女はもういない」


フンと鼻を鳴らした兄貴は、右手の刻印カルヴを見せ、


「見ろ。刻印カルヴが金色に光ってる」


自慢げに言う。けど、俺には何がそんなに自慢なのか解らない。


「だからなんだよ」


「アロウ。お前の刻印カルヴはこんなに強く光を放つか?」


言ってる意味を理解出来ないでいると、


「セツハは、魔女の力を自分のものにしたんだ」


「な………なんだって?!」


クダイが言った。それは、にわかには信じ難いものだった。

俺の視線が兄貴を捕らえると、


「アロウ。お前も知ってるんだろう?」


眼鏡に外灯を反射させて言った。


「何をだ?」


「フッ。とぼけるな。金環日食の日に何が起きるかだ」


兄貴が………知っている。金環日食の日に、ブランシェットが現れることを。でも、なんで兄貴が………


「まだ知ってるぞ。魔女は六人。その数は、最後の一人さえ残しておけば、残る五人はイレース出来る。しかし、六人全員を消去は出来ない。………ことまでな」


それを吹き込んだのは、多分クダイだ。

クダイも知ってたんだ。その仕組みを。

今考えれば、含む言い回しの多い奴だった。そして、そのことはある疑惑を生む。


「………お前、ブレーメンなのか………?」


クダイは否定もせずに笑って見せる。


「アハハ。さあ?なんのことだろうねぇ?」


「テメェ………!」


もちろん、時空間を移動して来たと言い張る奴だ。ブレーメンと繋がりがなくても、何らかの事情で知ってることも考えられる。…………それと、さっきサマエルが言ってた“神様”の臭いの正体。それはクダイだ。


「兄貴、親父はコイツと組んで何を企んでるんだ!」


「父さんは関係ない。何も知らないさ。これは、私自身の問題だ」


「ふざけたことを!それじゃ、兄貴だって裏切り者じゃないか!人のこと言えるのか!」


「もう、終わりにすべきだ」


「何っ?」


「妖かしを狩り続けて来た真神家。確かに由緒ある名家に違いはない。今では、世界を牛耳る資産家のひとつ。どんな黒い闇も、正義にしてしまう魔法を使う。だがな、私はそういうものにうんざりしていたんだ。お前が真神家を批難し、家を出て行った時、私もそうすべきだった。フッ………そんな勇気を持っていたお前が羨ましかった」


「兄貴……」


そんな風に思ってたなんて、正直思いもしなかった。だからと言って、同情はしない。真神家を出ることのリスクは半端じゃない。それを怯えた兄貴は、親父に負けたんだ。


「それで?あんたは何をするつもりなの?」


ひょこっとアサキが口を出し、兄貴を問い詰める。


「金環日食の日に現れる魔女ブランシェット。そいつを倒して、私の理想の世界を築く」


さも、当たり前のように発言したが、言ってることはとても容認出来ない。


「兄貴………トチ狂ったか」


「元々狂った世界に住んでいるのだ。狂おうと狂うまいと、たいした問題ではない」


そして兄貴は、コートを脱ぎ捨てファイティングポーズをとる。


「なんの真似だよ?」


「聞くのか?残りの数日間で、お前らの匿う魔女の力を手に入れる。その為に、ここでお前らを殺しておく必要があるんだよ」


「兄貴………」


腹が立ち、兄貴の挑戦を受けてやろうと前に出ると、サマエルが止めた。


「アロウ。お前はブレーメンに戻って魔女を逃がせ」


「サマエル?」


「どうも嫌な予感が止まない」


その視線の先には、クダイがいる。クダイもまた、それを知り、


「君は傍観するもんだと思っていたよ」


「フン。俺が何も知らないと思っているのか?」


「………フッ。ま、余興も必要だよね」


クダイがダーインスレイヴを手にすると、サマエルも自らの剣を手にした。


「行け!アロウ!アサキ!」


サマエルが怒鳴ると同時に、クダイと兄貴を狙って突っ込む。

二人の足止めをしてくれるのか。なら、遠慮なく退散するまでだ。


「アサキ!」


「うん!」


俺とアサキは、来たばかりの教会を後にする。

走りながら振り返ると、サマエルがクダイと鍔ぜり合い、兄貴に魔法のような現象で攻撃している。


「頼んだぜ、サマエル!」


状況把握を完璧に出来てない。でも、事態が急変したことだけはわかっていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ