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第二十三節 宣告

「申し訳ありませんが、一時間で構いませんから部屋を空けて下さい」


清掃員のコスチュームで、三角巾をしたシンデレラが言った。

言った相手はサマエル。サマエルは用意された部屋のベッドで寝込んでいた。


「き、聞いてらっしゃいますか?」


就労中毒者とアリスに言われた通り、シンデレラは何かしていないと落ち着かないのだ。


「用意してもらったばかりの部屋だ。掃除の必要はない」


そんなシンデレラを、サマエルは軽くあしらう。


「ですが、ベッドのシーツくらいは………」


「必要ないと言っている」


シンデレラはサマエルの風貌に、ただでさえ恐怖心とか威圧感を感じている。言い切られてしまえば、それ以上は何も言えなかった。

そこへ、タタタタッとアリスがやって来た。


「ちょっと!朝ご飯まだなわけ!?」


腰に手を当て、強気に発言する。しかし、シンデレラとしては、アリス風情に偉ぶられる筋合いはない。


「朝ご飯などとっくに終わりましたわ。お寝坊をしたあなたに、わざわざ作る気はございません!」


「ぬわあ〜に〜を〜!!シンデレラのくせに生意気よ!」


「怠け者に世話する義理は持ち合わせていませんの」


「ぐぎ〜〜〜っ!いちいち反論するなあっ!!」


寝耳に水といきたいところだが、キーキーとうるさ過ぎてかなわず、サマエルはムクッと起き上がった。


「うるさい小娘どもだ」


「お前は朝ご飯食べたのか!?」


けだるそうなサマエルに、アリスが指差して問うと、


「フン………人間の食事は口に合わん。俺は貴様らと違い、“短”期間の空腹になら耐えられる」


なんのことやら、アリスにはわからないが、要するに、気が向いた時に食べればそれでいいのだろうと、勝手に解釈した。


「そんなことより、出て行け。食事もいらなければ掃除もいらん」


「うぬぅ〜〜〜〜〜っ!!なんて傲慢さ!シンデレラ!やっちゃいなさい!」


「お宅に命令される筋合いはございません!」


ゴツンと額をぶつけ合っていると、


「客人がよいと言ってるのだ。いつまでも騒ぐでない」


チェシャ猫がのそりと入って来た。


「だってシンデレラが………!」


「わたくしのせいにしないで!」


チェシャ猫は溜め息を吐き、


「二人とも、私はこの客人に話がある。すまないが出て行ってくれ」


アリスとシンデレラを“追い出した”。


「………ふぅ。やれやれだ。元気なのはいいが、少しは緊張感を持ってもらいたいものだな」


話の冒頭を愚痴で飾ったのは、それだけ深い話をしたいからだろう。

サマエルもチェシャ猫の真意は承知したようで、


「クックッ………遠回しに話す必要はない。聞きたいことがあるなら、ストレートに言え」


「………フフ。ただ者ではなかろうが、想像以上の人物のようだな」


「さあてな。ただのならず者かもしれんぞ」


チェシャ猫は、ぴょこんとサマエルの真向かいのテーブルに飛び乗る。


「では早速聞こう。時空間を旅すると言っていたが、お前の目的はなんだ?」


「フッ。唐突だな。まあいい。………俺の目的は、そんな大層な目的ではない。ある二人の男を追っているだけだ」


「………二人の男?お前のようにやはり時空間を旅してるのか?」


「旅をしてるという言葉は妥当ではないがな」


「……その二人の目的は?なぜお前はその二人を追っているのだ?」


警察の取り調べのように矢継ぎ早に尋問して来る。チェシャ猫は、サマエルの時空間移動に興味があるわけではないらしく、むしろその目的。それに絡む事情にあるようだ。


「クク。何を知りたいのかよくわからんが、知りたいのなら教えてやろう。………そいつらの目的は互いに消し合うことだ。一人は宇宙を無に還そうとしている。もう一人は、それを阻止しようとしている。それだけのことだ」


「………で、お前がそいつらを追う理由はなんだ?」


「クク………宇宙を無に還そうとする者は、悪魔の神。それを阻止する者は、輪廻を司る神となった少年。そいつらの強さは、貴様らの想像では足りないくらいの強さを誇る。そいつらを倒し、強さの頂点を極める。それが俺の目的だ。無論、他に強い奴がいれば、戦うまでだが」


「………………。」


強くなる。というのとは違う。なぜなら、サマエルは既に次元の高い強さを誇ってるからだ。


「サマエル。ならばお前はこの世界を去るべきだろう」


「………ほう」


「この世界に、お前の望む相手はいない。その二人の神を追った方がいいのではないか?」


「それは忠告か?それとも警告か?」


「………なんとことだ?」


「俺が何も知らぬと思ってるなら、考えを改めるべきだな」


「…………フッ。さて、私にはさっぱりだ」


「なら俺からも聞こう。貴様らは三千年ごとに目覚めると言っていたが、三千年前の更に三千年前、つまり六千年前はどうだったんだ?」


「六千年前?」


「更に遡って九千年前、一万二千年前………ブランシェットとか言う魔女との戦いを、ずっと続けて来たのか?」


「そうだ。勝負こそ着きはしないが、ずっとだ」


「ククク」


「何を笑うことがある?」


「聞き方を変えてやろう」


そう言うと、サマエルは口角を上げた。そこに悪意はある。

チェシャ猫は、生唾を飲んで言葉を待つ。


「三千年ごとの戦いとは言え、始まりはあったはずだ。だが、それは唐突にはやって来るものではないだろう。貴様らが人間に従う理由はない。にもかかわらず、人間の保護を受け、三千年後に行こうとしている。笑いたくなるような理屈だ」


「矛盾してると言いたいのか?」


「ブランシェットに勝てないからだと逃げ切りたいのだろうが、そうはいかん。三千年という時間は、眠り続けられる時間ではない。“いかなる理由があっても”だ。ある日、唐突にブランシェットが生まれ、そこから三千年ごとの眠りと二週間の戦いが始まったなど、到底、信じられる話ではない」


サマエルは、チェシャ猫に明確な理由がないことに気づいている。尋問の主導権は、サマエルへと移る。


「回りくどい言い方は抜きだ。サマエルよ、はっきり言うがいい」


「クク………なら言わせてもらおう。貴様らに始まりはない。三千年とほざいているが、その記憶は作られたものだ。誰かがこの世界を実験台にし、何かをしようとはしているが、貴様らが直接関係してるとは思えん」


「なかなか面白いストーリーだ。だが、ブランシェットは存在する」


「金環日食の日。ブランシェットが現れたら、俺が退治してやる。貴様らが怯えるほどの相手なら、不足はない。それとも、手出しされるのは都合が悪いか?クク。どちらにせよ、楽しみだ。この世界の行く末がな」


「悪魔だな。お前は」


チェシャ猫は話の終わりを告げるように、テーブルから降りた。

すたすたとドアまで歩き、立ち止まる。


「………そういえば、忠告か警告かと言ってたな。………強いて言うのなら、これは宣告だ」


「………宣告?」


「この世界でお前は絶望する」


そして、チェシャ猫はドアをすり抜け消えた。


「………絶望だと?ククク。そんなもの、遠い昔に嫌と言うほど味わって来たさ」


チェシャ猫の消えたドアを見つめていた。


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