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第二十二節 否定

アサキは言った。気づいたら病室のベッドの上だったと。そして、名前以外の記憶がなく、ダンテとジャンヌが自分をブレーメンに誘ったのだと。


「でもそれって、おかしくないか?」


俺はダンテとジャンヌを問い詰めた。

アサキはやめてくれと言ったのだが、このまま成り行きのままってのは気持ち悪い。それに、真実は自分の目で知らなくちゃならない。決してサマエルに感化されたから、ってわけじゃない。まあ、少しはあるか。

とにかく、俺の知る現実は、真実なんかじゃない。それだけはようやく解った。


「おかしい?どこがだ?」


ダンテは俺を見向きもせず、コーヒーを飲みながら新聞を読んでいる。この態度こそ、俺の知らない何かを知ってる証拠だ。

残り六日と迫った中、悠長過ぎやしないか?指揮を取る者とは言え、“組織”の規模を考えれば、自身が行動を起こさなければならないはずだ。

不信感だけが部屋を埋め尽くして行く。


「お前ら、アサキを知ってたってことだよな?」


さあ、答えてみろ。なんて言い訳するよ?

どうせ答えるのは………


「いや、たまたまだよ」


ジャンヌだ。


「たまたま?フン。そんなこと信じられるか!アサキはかなり格闘技をやり込んでいる。それを見込んだスカウトかとも思ったんだが、記憶のないアサキの情報がないってのは不自然だろ。あいつも人間だ。戸籍くらいあるのが普通だ。まさか調べてないなんて言うんじゃないだろうな?」


調べてないってんなら、これから役所に行くまでだ。この街の人間じゃなかったとしても、容易に調べられる。


「………調べたさ」


ジャンヌが言うと、アサキは、


「何もわからなかった。………そうよね?」


アサキとしても知りたいのだ。自分が何者で、なぜ記憶を失ったのかを。


「わからなかったなんて通用しないぜ。お前ら、魔女の情報は簡単に持って来るじゃないか。素性の知れない人間の情報くらい、すぐ調べ挙げられるだろ」


「でも、わからなかったんだよ」


「ジャンヌ!」


「嘘なんて言ってない!この街にも、この国にも、世界のどこにもアサキに関する情報はないんだッ!!なんなら、君の実家の力を使って調べてみればいい!!」


冷静だとばかり思っていたジャンヌが怒った。


「そんな………アサキの情報が世界のどこにもない……?」


不信感を払拭しきれない中、アサキは乱暴に扉を開け出て行った。


「アサキ!!」


俺はアサキを追いかけようとした。すると、ジャンヌが険しい表情で、


「アロウ。ボクらがその事実をアサキに告げなかったのは、彼女を傷つけてしまうからだ。君にはわからないか?自分の素性もわからず、調べればわかるようなことが世界のどこにもない。記憶がなくなったアサキの、最後の綱は、存在すら否定してしまったんだよ。今、彼女がどんな気持ちか、君にわかるかい?」


そう言った。………言われたんだ。


「真実真実と正義ぶって言うけど、真実を知ることで、知らなくていいことまで知ってしまう。君は何もわかってない。知れば全てが解決すると思っている。………浅はかだよ」


何も言えなかった。ジャンヌの言葉が、ナイフのような鋭さで胸に刺さったまま、俺はアサキを追った。


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