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第二十一節 喪失

一夜明け、俺は一人ブレーメンの教会の中庭で考え込んでいた。

夕べのサマエルとの会話。アイツは、ブレーメンのみんなが嘘を言っている可能性を示唆して来た。まるっきり信じてはいないが、何かひっかかる。


「真実………見方を変えれば別の一面を見せるだと?なんだよそりゃ」


まるで謎解きをさせられているような気分だ。


「だあぁぁぁぁーーっ!!イライラするぜ!!」


「朝からうるさい人ね」


悶々として寝転がる俺を、アサキはケダモノでも見るような目で見下ろしていた。


「アサキ………」


「後六日よ。………ブランシェットがやって来るまで。それまで、残る三人の魔女を保護しないといけないの。発情してる暇なんてないんだからね」


誰が発情してんだよ。ったく、人を人として見てるのか。


「わかってるさ」


「わかってるようには見えないけど?」


小姑かお前は。


「るせーな。考え事してんだよ」


「どーせロクでもないこと考えてんでしょ」


「あのな………!」


いい加減キレそうになった時、ふと疑問が浮かんだ。それは、アサキの立場。

組織と聞いていた俺は、ブレーメンがダンテ、ジャンヌ、アサキの三人だけだとは思っていなかった。

とりあえず一番偉いのはダンテ。ダンテが会社組織で言う社長の立場なら、ジャンヌは秘書。それならアサキは平社員ってところだ。

なのに、アサキは重宝されてる感がある。

だから気になる。コイツの立場はなんだ?


「アサキ」


「何?変態行為はお断りよ」


………殺すぞ。


「アサキ、お前達ブレーメンって、三人だけなのか?」


「………な、何よ、突然」


「教えてくれ。他にメンバーはいないのか?」


跳ね起きた俺に驚いて、アサキは一歩下がった。


「アサキ!」


それに負けじと、一歩詰め寄る。


「い、いないわよ。それがどうかしたわけ?」


たった三人の組織?馬鹿な。それで対等に真神とやり合うつもりだったのか?

親父は負傷しているから除くとして、兄貴と俺はロザリオカルヴァだ。刻印カルヴの力で魔女も人も消せる。

対して、ブレーメンはアサキだけがいつも現れていた。

トップであるダンテが直に行動することはないだろう。ジャンヌがアサキと現れて、兄貴や俺を相手に戦うことも出来たはず。もしくは、別行動で魔女を探すことも可能だったはずだ。

 現に、魔女の情報はコンスタントに入って来る。だったらどちらかを“していなければならない”。

なら、なぜそれをしなかった?

答えは単純だ。サマエルの読み通り、ダンテとジャンヌが疑わしい。

アサキはどうか?………コイツは、“白”だ。

 証拠に、ブレーメンが三人だとあっさり言い切ったからな。


「なあ、魔女の情報ってどこから持って来るんだ?」


これが一番重要だ。

権力ある金持ちの家に生まれた俺は、そういったものは簡単に手に入ると思っていた。しかし、たった三人のブレーメンにそれだけの力はないだろう。もし、情報集めに金をぶんまいたり、精力的に行動すれば、すぐに真神に知られてしまう。

ブレーメンは一体、どうやってこんなにも早く情報を仕入れて来れる?


「どこって………私にもわからないけど」


「わからないって………じゃあ、ダンテやジャンヌから直接、指示をもらってるんだな?」


「え、ええ………そうよ」


「………なるほどな」


確信は得た。

この街は教会のひしめく異常地帯。わずか六人の魔女を保護する為の情報を、ピンポイントで選別する手段はブレーメンにはない。それを可能にしていたということは、教会が百あろうと千あろうと、最初からわかっていたということになる。魔女がいる教会の場所を。


「アロウ?」


「アサキ。お前、ダンテ達とどうやって知り合ったんだ?」


「はあ?あんた、どうしたのよ?」


「ダンテとジャンヌ。お前の三人の関係を聞きたい」


サマエルの言葉だって危ういが、今一番疑わしいのはあの二人だ。はっきりさせておかないと、後々後悔しそうな気がした。


「関係って言っても……………」


急に歯切れ悪くなったアサキは、時間にして一分もないのだろうが、迷ったあげくにこう言った。


「………記憶が……ないの……私」


「記憶が………?嘘だろ?」


アサキは俯きかげんで首を横に振り、


「嘘じゃないわ。本当よ」


弱気に発言し、目を合わそうとはしない。


「ある日、目を覚ましたら、病室のベッドの上だったわ。覚えてたのは名前だけ。後は、自分がどこに住んでたのかも、両親がいたのかも覚えてない。思い出せないのよ」


「………記憶喪失なのか?」


「多分………」


なんてこった。アサキは、何も知らずにブレーメンに使われてるのか。


「ダンテやジャンヌとはどうやって知り合ったんだ!」


「………来たのよ。向こうから。私に会いに」


「それでおめおめブレーメンに入ったのかよ!」


「しょうがないでしょ!他に頼れる人がいなかったんだから!アロウに記憶を失った人間の気持ちなんてわからないわよ!」


「アサキ………」


涙を見た。一滴だけど、アサキの頬を流れた。


「笑ったら?いつも私に詰られてるんだし、嫌いでしょ?だったら笑っていいわよ。記憶のない操り人形だって」


「そんな風に思うわけないだろ!」


「なら同情でもするつもり!?ハンッ!それこそ屈辱よ!」


「なんでそんな話になるんだ!俺はただ、真実を知りたいだけだ!」


「真実?!真実って何よ!」


「親父や、ダンテ達が他に目的を持って行動してるとしたらってことだよ!」


「他の目的………?」


「ああ、そうだ!ブランシェットが現れるまでは、魔女の数はゼロにはならない。にもかかわらず、魔女狩りをする真神。そのことを知らないのかもしれないが、だからといってあまりに稚拙。ブレーメンもだ。お前を除けば、ダンテとジャンヌの二人だけ。いつも何か行動させるのは、全部アサキだ。お前がいなかったとしても、代わりにジャンヌが保護活動をしてたとは思えない」


そう思ったのは、単なる感覚的なものだったが、ジャンヌがアクションを起こす時はもっと事態が切迫した時のような気がするのだ。


「聞く必要がある。記憶を失い、病室で寝てたお前を、ブレーメンに引き入れた二人だ。お前の記憶喪失の原因も知ってるかもしれない」


「アロウ………」


アサキの喪失した記憶。これは偶然なんかじゃない。ダンテとジャンヌは何か知っている。

行くしかなかった。何か嫌な予感がしていても。


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