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第十三節 有限

よく考えれば、真神うちと政府が本腰を入れてないにしても、未だ見つけられないでいる組織なんだ。テレビで見るような“いかにも”なんて組織なわけがなかった。

アサキとジャンヌに着いて行き着いた場所は、街の中心にある寂れた教会だった。


「遠慮はしなくていい。さ、入りたまえ」


立ち止まり呆然とする俺に、ジャンヌは優しく促してくれるが、別に遠慮はしてない。意外な場所に驚いただけだ。


「変態行為はやめてよ」


アサキはアサキで、人を変態呼ばわりするのをやめる気はないらしい。


「るせー」


教会はやっぱり普通の教会だと、俺はそう思ったのだが、ふと立ち止まりぐるりと中を見回したチェシャ猫は、


「いいステンドグラスだ。職人の魂が伺える」


感心していた。


「そうなのか?俺にはよくわからないな」


「凡人にはわからないからこそ、魂があるとわかるのだ。誰にでもわかるようなものは、誰にでもそれが可能だということ。永遠に気付かれないかもしれないものに、お前は魂を注げるか?」


猫風情に人のなんたるかを説かれるとはな。


「むしろ魂を注げるくらいの仕事にありつきたいね」


まあいい。とりあえずブレーメンに来てしまったのだ。聞いてやろうじゃないか。真実って奴を。

教会内部を奥へと進み、古い階段を下る。長い廊下を進み、今度は昇る。そして扉を開くと、戦後を臭わすような雰囲気の建物内部へ辿り着く。


「やけに古い建物にこだわってるんだな」


「おかげで、誰もブレーメンを見つけられないでいる。まあ、最近やたらと教会が建ってくれたせいでもあるけど」


ジャンヌはにこやかに答えると、行き止まりの部屋の扉をノックした。


真神まがみアロウと、魔女を連れて来たよ」


ノックしたわりに親しげに声をかけると、中から「入りたまえ」と男の声がし、促されるままに入った。

ジャンヌが扉を開けると、書斎にあるようなアンティーク調の机があり、そこには髪の長い男が座っていた。

俺もアリスも、そしてチェシャ猫も、険しい表情の男に警戒心を抱く。


「はじめまして。ブレーメン室長のダンテだ」


無骨に自己紹介をしてくれたが、妙に偉ぶる口調が、更に警戒心を深める。


「一応紹介しようか?ボクの右隣りから、真神まがみアロウ君、空間搾取の魔女アリス、その使い魔チェシャ猫だ」


ジャンヌが俺にだけ“君付け”するのは、あくまで客として扱われているからだろうか。


「うむ。まずはアリス、君の身の安全は我々ブレーメンが保証する。いろいろ話したいことはあるが、一先ずゆっくり休むといい」


「お前らは魔女を保護するのが目的だそうだが、私もアリスもそれを受けるとは決めていない。全ては交渉次第。そのことは、今の時点で認識して頂きたい」


クダイの一件から元気を無くしたアリスに代わり、チェシャ猫が申し出た。アリスもさすがに死を感じ、怯えているのだ。それでも、


「疲れたから少し休ませて」


アリスはぶっきらぼうに言った。


「了解した。アサキ、部屋を用意してやってくれ」


「………はい」


ダンテに言われ、アリスとチェシャ猫を連れ出て行った。そのあまりにスムーズなやり取りに、まずは俺と話したいのだと悟る。

その段階で、好印象は持てなかった。魔女の保護を謳いながら、アリス達に具体的な歓迎ムードを作るでもなく、さっさと片付けるような行為は、仕事と割り切ってのことだとしても納得は出来ない。


「ちょっと待てよ。保護するにしちゃあ、淡泊過ぎやしねーか?チェシャ猫はあんたらの保護を受ける心構えはあるんだ。もう少し掛ける言葉があるだろ」


「魔女は自分達の使命を知っている。それだけに保護される理由も充分に理解しているのだ。無駄な会話はいらんのだよ」


「上から目線で話をするってなら、帰らせてもらうぜ」


「真実を聞きに来たんじゃないのかね?」


俺を黙らすには充分な一言だった。

しかし、このダンテという男と話してる限り、永久凍土のように互いの心が溶け合うことはない。こんな時、女って人種は必要なのだろう。


「喧嘩をさせる為に引き合わせたわけじゃないよ。少しはボクの立場も考えてはくれないか?」


どちらかと言えば、ダンテに言った言葉なのだろうが。


「………わかった。君の顔を立てよう」


「そうしてもらえると助かるね」


そしてダンテは、おもむろに話し始めた。


「難しい話は抜きだ。君ら真神まがみの人間は、政府に依頼され魔女狩りを目論んでいる。相違ないかね?」


「………そうだ。なにもかも話されたわけじゃないから詳しくは知らないけど」


「ふむ。では率直に言った方がいいかな。魔女狩りを続ければ世界が破滅する」


「世界が………破滅?」


それは率直過ぎやしないか。せめて順序は追うべきだろ。


「ダンテ室長、それじゃあ、あまりに飛躍し過ぎだ」


ジャンヌはいつの間にかソファーに腰を下ろしていた。


「ジャンヌの言う通りだぜ。もっと説明の仕方ってもんがあるだろ」


「オーケー。ボクが話す」


ジャンヌはそのままでダンテの代弁をし始める。


「魔女達は、ある目的があって存在してる。しかし、それは人間社会を無視した行為となる為、特別な力を持つ神父を使い、彼女達の行動を制限させてるんだ」


「………そりゃまた………」


親父や兄貴から聞いた話と違う。神父は魔女を実体化して、信仰魔女を決める戦いをしてると言った。ところが、それをジャンヌは否定する。


「魔女の目的って?」


「魔女同士殺し合い、それぞれの力を奪い、吸収。完璧な魔女になること。それが目的だ」


「何の為に?」


「来るべき審判の日に備えてだ」


ワケがわかんねー。来るべき審判の日だと?そりゃ一体いつだ。


「一週間後だ」


ジャンヌと俺の会話に、ダンテが割って入った。


「一週間後?一週間後に何が起きるんだよ?」


「ニュース見てないのかい?」


そしてまたジャンヌの番。


「見てる暇がないだけだよ」


肩をすくめ、なんだかバカにされた気分だったが、話が進まなくなるのは御免なので、敢えて流すことにした。それを察知したか、ジャンヌは先を話してくれた。


「一週間後、“金環日食”が起こる」


「金環日食?皆既日食とは違うのか?」


そう聞き返すと、ダンテもジャンヌも溜め息を吐く。悪かったな。科学は苦手なんだ。


「金環日食って言うのは、太陽の中心に月が………まあ、家に帰って調べてくれ。ボクは教師じゃないからね」


さじを投げるな。さじを。


「ま、まあいい。で、その金環日食が起こるとどうなるってんだ?そんなのは単なるイベント。よくある天体ショーじゃないか」


「確かにそうさ。でも今回の金環日食は違う」


「何が違うんだ」


「記されているのさ。とある予言書に」


ジャンヌが少し眉を潜めた。


「くだらねー。予言書だあ?そんなもの、当時、社会に不満を持った人間が、皮肉を暗号化して書いた代物に過ぎねーよ。今と違って、お上にナメた口ききゃあ、すぐに死刑だって有り得た時代だ。それに、予言書なんて腐るほど存在するんだぜ?そして、100%の確率で誰も解けていない。事後、つじつまが合うように紹介するのがパターンさ。人間が何百、何千年も未来を正確に読めるのなら、戦争なんて起きない世の中になってるさ」


「アロウ。君の言う通りだ。ボクもそう思っていた。でも、生まれてしまった。魔女がね。それすら予言されている書物なんだ」


「なら聞くけどよ、完璧な魔女は、金環日食の日に何をしようってんだ?」


「戦うのさ」


「誰と?」


何人いるか知らない魔女が、同胞の力を我が物にしようと戦う。その努力の末に、更に誰かと戦う?

ジャンヌは口を閉ざし言い淀んだが、


「金環日食によって生まれる最大にして究極の魔女………」


悪寒が走った。こんな滑稽な話にだ。


「ブランシェットだ」


ジャンヌの目が恐かった。それはきっと、真実を告げていて、その魔女の名が呪われているからだ。

親父が魔女狩りを急ぐのも、この為なんだと直感が疼く。


「ブランシェットは世界を破滅に導く魔女。アリス達は完璧な魔女になり、ブランシェットに戦いを挑む」


「勝ったら?アリス達が勝ったらどうなるんだ?」


「世界は救われる。が、それは魔女の世界を構築するということ」


「それじゃあ、勝っても負けても世界は破滅じゃねーか!」


「だからブレーメンが保護するんだ。魔女同士を戦わせるわけにはいかないし、ブランシェットに挑ませるわけにもいかない」


「ちょっと待て。挑ませるわけにいかないって………戦わなきゃ助かるのか?」


「ブランシェットが世界を破滅させるには、実体化した魔女を生贄にしなくちゃならない。それを、金環日食が完成した時刻から12時間と書いてある。つまり、12時間魔女を一人でも保護出来れば、人類は助かるんだ」


正気か?となれば、魔女狩りを行うのはブランシェットに加担することになるワケか。


「なら、逆に魔女を根絶やしにしたらどうだ?ブランシェットに挑む魔女がいなければ、変な儀式も無くなるだろ」


至極真っ当な意見だと思って発言したが、今度はダンテが否定して来る。


「金環日食までは、魔女は実体化を続ける。ゼロになることはない」


「だったら一人にしちまえばいい。一人を守るなら簡単だ」


「ブランシェットがどんな魔女か知らないから言えるのだ。我々の容姿と変わらないかもしれないし、幽霊のような存在かもしれない。あるいは、巨大な化け物かもしれない。一人の魔女を守り通す力が人類になかったら?………12時間待たずに破滅する」


「親父や政府は知ってて魔女狩りを?」


「それはわからない。知らずにやってるのか、何か思惑があってか。だが、魔女狩りをするのは極めて危険なことは確かだ」


俺に全てを語らなかったということは、親父達がこのことを知ってる可能性は高い。


「魔女って何人いるんだよ。保護しなきゃいけないなら、その人数だってわかってなきゃ難しいだろ」


「書物によれば、ブランシェットが必要とする生贄の魔女は6人。となれば、最低6人は存在していることになる」


俺が知る限りは、シンデレラ、ドロシー、アリスの三人。後三人か………。

それと、魔女同士が殺し合うことで数が減り、新たに魔女が生まれては来ないのだろうか?


「金環日食まで、魔女同士を戦わせたら、減った分の魔女はどうなる?」


「それは客人に聞いたほうが早いだろう。何せ、何千年か前にも同じことがあったはずだからな」


古びた書物より生き証人。ダンテは目の奥を光らせていた。

金環日食の日に生まれる魔女ブランシェット。一体、どんな魔女なんだ………。


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