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第九節 客人

「二度も逃げられるとはな」


次の日。ドロシー達を逃がした俺への不満を、兄貴は親父の前で皮肉った。

親父は黙っていたが、俺も何か言う気にはなれなかった。


「アロウ」


ようやく口を開いた親父が言いたいことは予想がつく。

魔女狩りは政府の依頼なんだ。時間を掛けてはいられない。


「わかってるよ。たださ、刻印カルヴをずっと使ってなかったから勘が鈍って」


「言い訳をするなよ」


「じゃあ兄貴が狩れよ」


「なに?」


「人殺しに夢中ってのは、いかがなもんかと思うぜ」


「調子に乗るな!お前がやれないって言うからだな………!」


「なんだよ、やるのか?」


苛々が止まらない。だから兄貴に突っ掛かるしかない。

二十歳を過ぎて兄弟で殴り合いの喧嘩ってのは見苦しいかもしれないが、この街に戻って来てから気分が晴れないのは確かだ。


「もういい。お前達二人に頼んだのが間違いだった」


呆れ果てた親父は、少し何かを思考してから、


「昔から仲の悪いお前達だ、こんなこともあろうかと助っ人を頼んである」


そう言って、


「入りたまえ」


俺の後ろの襖に向かって声を掛けた。

助っ人って言っても、妖かし相手に頼れるのは真神まがみの人間だけだ。しかし、俺には従兄弟などの血縁関係にある者は、親父と兄貴しかいない。

親父は一人っ子だし、死んだお袋もそうだ。

襖は遠慮もなく開けられ、現れたのは長髪で、野良犬のような男だった。

しかも、薄汚れたコートを纏い、両方の腰に洋剣が下がっている。

歳は若く、俺と代わらないくらいか。どこと無く淋しげで、悲しげで、今にも泣き出しそうなくらい重い表情をしている。


「だ、誰だ……?」


兄貴も知らなかったらしい。眼鏡をくいっと直して緊張をごまかしてた。


「桐山クダイ君だ」


親父の紹介を受け、そのクダイとか言う男は、


「君らのお父さんから依頼された桐山クダイだ。よろしく」


微笑みすら浮かべずに、暗い声色を出した。


「父さん!助っ人なんて聞いてない!大体、こんなホームレスみたい男、どこから連れて来たんだ!」


兄貴が珍しく親父に噛み付いた。


「セツハ。失礼だぞ」


「しかし………!」


じっと睨まれた兄貴は、それでも尚、噛み付つきたいようだったが、


「構いませんよ」


クダイの一言で、矛先を彼に向ける。


「納得出来ないな!妖かしを……魔女を狩ることが出来るのは真神まがみの血を引く者だけだ!どんないきさつでここにいるかは知らないが、さっさと出て行ってくれ!」


「魔女狩りは出来なくても、人を殺すことくらいは出来るさ」


兄貴のことなんか眼中にないのがわかる。同時に、ある種の危険な香りを感じた。

この男、何か他に目的がある。金なんかじゃない何かだ。


「説明してくれよ親父。真神まがみとの縁を切る約束、反古にする気じゃないだろうな!」


俺としては、そこが重要なわけで、こんな奴が現れたばっかりにないがしろにされたくない。


「約束?それは魔女狩りを終わらせたらの話だ。そうしたいのなら、一日でも早く終わらせることだ」


親父は立ち上がり、


「セツハ。アロウ。くれぐれも彼を困らせるな。私の大切な客人だと念頭に置いておけ」


座敷を出て行った。


「今夜も行くんだろ?魔女狩りに」


クダイは俺と兄貴を交互に見て言ったが、兄貴は鼻を鳴らし親父の後を追うように出て行った。

残された俺は、


「魔女狩りの主導は兄貴にある。兄貴に聞けよ」


そう教えると、やはり座敷を出て行くのだった。



親父が客人として招くほどだ、まともな人間でないことは確かだ。そして、それに確信を持つのはまだ先の話。

仮に、この時点でコイツの正体を見抜いていたとしても、今の俺に出来ることは何もなかっただろう。

桐山クダイ。その存在が、世界を壊し始めていた。


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