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026 そうですね。もう少し服は着たほうがいいと思います

「奇天烈な悲鳴でしたね」


 ボクは思ったまま感想を述べる。恐怖なのか、痛みなのか、羞恥なのか、いまいちわからない悲鳴だなと。あえて言うならあんまり知性的ではない感じ。

 いまも断続的に悲鳴は続いている。そう遠くはないっぽい。


「どうします?」


「助けに行くかって話?」


 ナナリアさんも慌てる様子はない。


「『助けに行く』の選択肢は、ナナリアさんに頑張ってもらうが前提ですし」


 店内最弱どころか最近は島内最弱すら自負しているわけで。ボク単体で「助けに行く」の選択肢は、要救助者追加のフラグにしかならない。その点はナナリアさんも承知のうえ。「んー……」と一度考え込み、


「行ってみよっか。もしかしたらイベント関係してるかもだし」


「あ、それもありますね。じゃあ『助けに行く』で」


 ルート選択終了。ご近所を散歩するくらいの呑気さで歩き出す。

 この島にくる前のボクなら、ノータイムで助けに走っていた気がするんだよなぁ。

 慣れなのか、成長なのか。


「結局デシくんとマドカって付き合ってるの?」


「いえ、ただの捕食被食関係ですね」


「それ、食べられる側の当事者が言うのもどうなの?」


 そんな益体もない会話を続けていると、


「ふにゃあああ! ひっぱらないでほしいんだよぉぉ!」


 だんだんと悲鳴の中身が聞き取れるようになってきた。

 と、木立の先から草木とは違った独特の匂いが漂い、少し眉が寄る。獣臭だ。

 視界の奥で、黒い毛に覆われたなにかが蠢く。草が深くてどんな獣かまではわからない。サイズ的にはボクより少し大きいくらいか。数は二、三体。風下にいるおかげでまだ気がつかれてはいない。


「なんか女の子が襲われてるみたい」


 ナナリアさんがそっと耳打ちする。ナナリアさんのサイズだと、耳に直接声を吹き込まれる感じになる。甘い香りのする吐息に色々なところがゾクゾクっとした。それはともかく。


「『植物会話』ですか。ナナリアさん、実は着く前に状況わかってました?」


「んー、なんとなく? ほら、植物って動物のことよくわかってないからさ。襲われてるのか、いちゃついてるのかとかすごく曖昧なのよ。具体的に聞くの、なんかイヤだし」


 植物からしたら動物なんてただの捕食者だもんなぁ。あれ? ボクと一緒か? ちょっと親近感が湧いてきたぞ。

 動物のボクとしては、さすがに目の前のこれは襲われてる方だとは思うけど、万が一にもそういうプレイとかだったりするんだろうか。もう少し観察したほうがーー。 


「もにゃああ!! もぅおこったんだよぉー!!」


 へ? と思った時にはもう遅かった。


 風景が真っ白に消し飛ぶ。直後、地響きとともに爆音が轟き耳をつんざいた。視覚も聴覚も無くなり、正直、あ、死んだかもと思ったんだけど、視界はすぐに回復した。目の前にあったのは堅牢な木の壁だった。消えた音も徐々に戻ってくる。


「おーい。大丈夫ー?」


 ナナリアさんの声。注ぎ込まれるみたいに吐息が耳に入る。近くて遠い声がくすぐったい。


「あー、あー、大丈夫ですー」


 自分の声もまだ遠い。ナナリアさんは大丈夫だったぽい。


「あー、びっくりした。急に爆発するんだもん。ここの子たちに感謝ねー」


 この子たちは森の草木のことだろう。花の妖精姫ナナリアさんは普段は副店長として経営と会計関係スキルばかり使っているのだけれど、本来は植物関連のスキルが持ち味だ。「植物会話」以外にも「植物操作」に「植物強化」なんかがあって、すべて固有スキルらしい。この壁も「植物操作」と「植物強化」の合わせ技とかなんだろうな。いいなぁ、固有スキル。

 よし、耳も落ち着いてきた。


「顔出しても大丈夫そうですか?」


「んー、たぶん? なんか倒れてるみたいだし」


 ボクは恐る恐る顔を出す。壁の向こうは見たまんま、えぐいくらいに爆心地だった。草木は放射状に吹き飛び、剥き出しになった地面がすり鉢状にえぐれている。獣の姿はない。吹き飛んだのか、逃げたのか。残ったのはクレーターの底に倒れている小さな姿がひとつ。


「ねえ、あれって生きてる?」


 ナナリアさんがボクの耳たぶを引く。変なところを呼び鈴みたいに使わないでください。ボクはため息をひとつ。


「さあ……ボクの霊感てスキルにも登録されないくらい鈍感なんですよ。ナナリアさんもわからないですか?」


「近くの子たち吹き飛んじゃったからさー」


 遠目には動いているのかもわからない。それは草木も一緒か。安全を確認してから近寄ってみる。倒れているのはどうやら女の子のようだ。うつ伏せで顔は見えないけど、長い茶髪と雰囲気は男っぽくはない。

 ただそんなことよりなによりボクには気になることがあった。

 頭の上の方から耳が出ている。犬っぽい尖った耳だ。サイズに合わない大きめの白衣からは、もっふりフサフサの尻尾が顔を出していた。

 質感からいってコスプレとかではなさそう。


「オオカミの獣人かな?」


 さらりと出てくるあたり、ナナリアさんの世界で獣人は一般的らしい。


「キツネじゃないですかね?」


 藁を割いたような色の毛並みはいわゆるキツネ色というやつだ。


「キツネ?」


「あ、ナナリアさんの世界はキツネいないんですね。まあオオカミのもどきみたいなもんですよ」


 地球的解釈をするならどちらも広義でイヌだ。ボクも詳しく違いを説明しろと言われても困る。


「一緒にしないで欲しいんだよ!!」


 がばっ! と身を起こし開口一番、獣人さんは抗議の声をあげた。


「生きてましたね」


「頑丈ねーこの子」


 あれだけの爆発の中心にいたのに、土やら埃やらで汚れている程度で、火傷のひとつもなさそうだ。髪や尻尾にも焦げたような形跡はない。ここまでくると頑丈の領域を超えているような気もするけど。

 ただ、これまたそんなことよりなにより、だ。


「ねえ、デシくん。この子、王族には見えない服とか着てる?」


「よかったです。ボクは平民には見えない服を着てるのかと思いましたよ」


 そう。この獣人さんは素肌に白衣のみという大変開放的なコーデだった。らーちゃんとかもネクタイしかしてないし、そういう世界なのかもだけど……きっと違うよなぁ。関わらないほうがいい予感がひしひしとしてきている。隣に視線を送ると、ナナリアさんも似たような顔をしてコチラを見ていた。よし。


「ええと、うん、そうだ。よかった。大丈夫そうですね。それじゃあボクらは通りがかっただけなので」


 絶対面倒な話になるやつだ。ここはさりげなーく立ち去ろう。


「待つんだよ! どこが大丈夫そうに見えるんだよ!」


 くっ、正論どストレート。だがここは押し切る。


「五体満足?」


「そうだよ! タマモは元気でピンピンしてるよ! ってそうじゃないよ!」


 ノリツッコミとはなかなかの知恵者の模様。

 このヒトはどうやらタマモさんというらしい。見た目はボクより少し下。顔立ちは十三歳前後かな。身体は……マドカさんといい勝負ができるかもしれない。


「女の子がこんな格好してるんだよ! もうちょっと何か言葉があってもいいと思うんだよ!」


「そうですね。もう少し服は着たほうがいいと思います」


「そんなのわかってるよ! さっきのキツネに持っていかれたんだよ!!」


 さっきの獣はキツネだったのか。わざわざ白衣の内側だけ持ち去るとか器用だなぁ。


「とりあえず白衣の前閉めたらなんとかなりますよ」


 完全にアレな感じではあるけど、フルオープンよりはだいぶマシだと思うし。ナナリアさんが耳たぶを引く。もう行こうという無言のメッセージだ。


「それじゃあボクらは--」


「お金貸して欲し--」


「え、嫌ですけど」


 被せられたので被せ返す。言葉のクロスカウンター。

 訪れる沈黙。

 見ず知らずのほぼ全裸のヒトにお金貸すとかない。変な下心でもあれば別だろうけど、あいにくそんな趣味もない。


「ひどくない!?」


 そう言われましても。


「なんでお金なんです?」


「服を買うんだよ!!」


「……おお!? なるほど?」


 この島で服を買うという選択肢があったのか。言われて「購入」のラインナップを確かめてみると、確かに服飾の項目があった。


「それならそこらへんの木を倒すなり、動物狩るなりしたらよくないですか?」


 この島の基本は自給自足。そこらじゅうのものが「換金」可能だ。


「タマモがやると全部吹き飛んじゃうんだよ!」


 えー……。自慢げに言われましても。

 隣に助けを求めてみるも、ナナリアさんは諦めたように首を横に振った。

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