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022 別に助けたいとかは思ってないですよ?

【97日目? 昼 記録者:デシイチゴウ 晴れ時々岩ところによりクマさん】


「じゃみーさん!!」


 轟く爆音。ボクの叫びなんて塵粒同然にすり潰される。

 怨嗟が産む不可視の力が岩やら木やらをぐしゃぐしゃに握り込み、群らがる真紅の怨念が触手となって容赦なくそれを貫く。まるで真っ赤な針山だ。

 音が止まった。

 時すら止まってしまったかのような静寂。

 触手が引き抜かれると、巨大な塊はすでに荒野と化した大地に深々と沈んだ。地響きが低く重く、耳の奥に残る。首をもたげ、黒蛇は嘲るようにユラユラとゆっくり揺れた。

 目を見開き、上空からボクはその様を凝視していた。息をするのすら忘れて何秒経っただろう。


「ヨモさん! 離してください!」


 ハッとして身をよじるが、ヨモさんの腕はびくともしない。それどころかまったく動けない。身体が空間に固定されてしまっているみたいだ。


「キミが駆けつけたところでなにができるんダイ?」


 無表情な着ぐるみ頭の顔色はさっぱりわからないけど、その口調は淡々としていた。


「できるできないの話じゃないでしょ!」


 無性に腹が立った。そんなの言われなくたってわかってる。

「身体強化」を使えば、岩や木のいくつかはなんとかできる。でもそれだけだ。山みたいな塊を素手で崩すなんてボクには罷り間違っても不可能。

 ヨモさんの言葉は正論だ。ど正論だ。でも割り切れるほどボクは賢くなんてない。

 正論なんてクソ食らえだ。さっさと離せよ、このクマ頭!

 するとヨモさんはくつくつと笑った。


「出会って間もない異世界のクマのために命を賭けるのカイ? キミィ、死ぬヨ?」


 きっと脅しじゃない。無駄死にしたら師匠は怒る……いや馬鹿にするよなぁ、きっと。それでもだ。


「他人の命の賭けどころに口出さないでください」


 この先ずっと後悔し続けるよりマシだとボクは言いたい。犬死に上等だ。

 ヨモさんがいよいよ本格的に笑い出した。


「ハッハッハ。いや、失敬、失敬。でもね、キミィ。それでいままで、よくこの島で生きてこられたネェ」


「そんなこといまはどうだっていいでしょ!」


「いやいや。鈍すぎるデショ。そもそもキミは、一体誰を助けようっていうんダイ?」


 言葉の意味を理解するよりも先に、なにかが聞こえた気がした。

 これは、声?


「らー!!」


 力強い声と共に、塊の内側から金色の光が溢れ、巨大な柱となって天を衝いた。

 塊が、爆ぜ砕け散る。

 光の奔流に目が眩む。足先からつむじまで震えが走った。

 細まる視界のなか、黄金の内側から二つの影が現れる。見知った、丸みを帯びたシルエット。愛らしい耳がパタパタと動いた。


「らーちゃん! じゃみーさん!」


 金色の光を身に纏うクマさん。スギタさんに乗ったらーちゃんと、無傷のじゃみーさんが浮き上がっていた。


「らー様。手出し無用で願いたかったのですがな」


「らー! じゃみーばっかりずるいらー!」


 らーちゃんは金色に輝くスギタさんに乗り、じゃみーさんの周りをひゅんひゅんと飛び回る。チカさんにトラウマを刻みつけた、スギタスーパーモード……あれ? スギタマックスだっけ? 黄金に光り輝くハニワはらーちゃんの極大魔法で超強化され、あらゆるものを粉砕する、らしい。

 そして並ぶじゃみーさんも、同じような金色のオーラに包まれている。


「仕方ありませんな、らー様は」


「らー!!」


 聞き慣れたらーちゃんのご機嫌な声に、ボクはへなへなと力が抜けるのを感じた。


「はははは……規格外だなぁ。ホント」


「だから言ったロウ? 助けが欲しいのはむしろあっちだろうネェ」


 つい先ほどまで勝ち誇り、絶対強者のように振る舞っていたスブタ城の気配が急速に萎む。

 呪いから生まれた最強の異形といえど、その本質は生物。本能で理解してしまったのだ。

 自分が相手にしている存在の強大さ、格の違いを。

 スブタ城がズッと下がった。それが合図になった。


「らー!!」


 らーちゃんが爆発的に加速した。空気の壁をぶち抜いて、じゃみーさん以上に無茶苦茶な、子どもの落書きみたいな機動で大空を飛翔する。


「らららー!!」


 最上級にご機嫌な皇子の声が、螺旋を描きながら天高く舞い上がる。

 迎え撃つはスブタ城。「念動砲撃」と「怨念触手」の猛烈な弾幕を瀑布のごとくぶち撒ける。

 押し寄せる分厚い攻撃のカーテンをものともせず、白昼の蒼天を流星が舞い踊る。

 掠めようがお構いなし。間隙を縫うように、金色の軌跡が空を--あれ? ちょいちょい直撃してる……!?


「うん。魔力防壁ダネェ。あの程度じゃいくら直撃してもチビちゃんの毛一本すら焼けないカナ」


「らーちゃんすごっ!!」


 どんだけすごいバリアなのそれ!


「ぎゅーん! どどーん!!」


 高高度からの急降下を地面スレスレで垂直に切り返す。スギタ脅威の高速マニューバ。重力とか慣性とかはどこかに失踪したのだろうか。

 直後、強烈な爆砕音が腹の底まで轟いた。らーちゃんの突撃がスブタ城の巨大な顎を真下からカチ上げた。もげるのではと思うほど豪快に頭部が跳ね飛ぶ。

 うわぁ……小石が一方的に山をぶっ飛ばしてるみたいな絵面ですよ。あ、鱗砕けてる……? え、いまのってじゃみーパンチよりすごいの!?


「魔力防壁で念動防壁を相殺したんダネェ」


 防御無視だった! 今の一撃に気を良くしたのか、らーちゃんのギアが上がる。


「ららららららー!!」


 テンション、青天井。皇子のご機嫌がついに限界突破された模様です。

 幾重にもなる金色の螺旋が駆け巡り、スブタ城を一瞬にして飲み込む。刹那、重厚な破砕音が豪雨の如く炸裂した。らーちゃんの連続突撃が縦横無尽に叩き込まれ、スブタ城の城壁が紙吹雪のように吹き飛ぶ。


「ご機嫌、大いに結構ですな」


 崩れゆく城門の前に立つ騎士、一騎。

 黄金を纏ったじゃみーさんが浮き上がり、スブタ城を正面に捉えた。

 じゃみーさんがスッと両腕と両足を広げる。あまりに自然体で、それが構えたのだと気がついたのは、すべてのことが終わってからだった。


「ちょっと全力のじゃみーだ」


 決着はそれからまばたきひとつの間についた。


 世界に白い穴があいた。


 ボクにはそう表現することしかできなかった。

 じゃみーさんを包む黄金が白へ染まる。

 空も、大地も、世界の色が白い光に消えていく。

 白が収束する。全身から両手に。じゃみーさんは膨大なエネルギーを押し込めるように、掌を胸の前で合わせる。それは祈りのようにも見えた。

 太陽すら霞む純白。どこまでも純粋な白。大気がビリビリと慄き震える。


「ふんっ!!」


 合わさる両手。極限まで圧縮された白が顕現し、じゃみーさんの両手が突き出された。

 何かが起こった。

 そこに速度の概念が存在していたのか、ボクにはわからない。

 世界が、切り抜かれたみたいに白くなった。

 白が霧散し、世界に色が戻ったとき、スブタ城は跡形もなく消えていた。


「なんですかいまの……」


 ボクはようやく声に出した。


「いやぁー……なんだロウネ?」


 解説のヨモさんでもわかんないのか……。


「うぇぇ? あんなスキルあったっけカナァ? 『光になれぇええ』って感ジ?」


 じゃみーさんがちょっと全力を出すと、じゃみーさんはシロクマに、相手は光になってしまうようです。

 ヨモさんがエレベーターみたいにスライドして大地に立ち、ボクはようやくヨモさんから解放された。戦いの余波で一帯が更地になっているけれど、ただいま地面。久しぶり。


「らー!」


 らーちゃんはまだ遊び足りないのか、まだギュンギュンと飛んでいる。見上げていると、じゃみーさんがふわりと軽やかな感じでボクの前に降り立った。もう色も戻っていつものじゃみーさんだ。


「ふー。ちょっと満足」


 じゃみーさんは、新しいブレンドコーヒーができた時みたな爽やかな顔だった。


「めちゃくちゃすごかったんですけど、なんですかさっきの」


 できれば、ボクでもわかるように教えてもらえると嬉しいです。


「らー様の魔法で強化されているじゃみーが、ふんっ! とやるとあんな感じになる」


「なんか、すごいってことだけはわかりました」


 全然わかりませんでした!

 ともあれ、スブタ城攻略も無事終了だ。


「これで帰れるんですよね?」


 見る限り特に何か変わった様子はない。倒したらわかりやすく扉が出てくるわけではないらしい。まさか、扉ごと光になってしまったとかいうオチがあったりするんだろうか。


「勿論サ。扉が……オヤ?」


 ヨモさんはキョロキョロとしてからポンと手を打った。


「ああ、『分裂』の魔眼ダネ!」


「へ?」


「キミの足元に転がってイルヨ」


 はぁ!? 慌ててその場を飛び退く。真っ黒な土の上に、らーちゃんよりも小さな黒蛇がグッタリとしていた。尻尾の方からゆっくりと光の粒になっているのがわかる。


「これがあのスブタさんですか?」


「ヤバいと思って『分裂』したんダネェ」


 逃げたはいいけど、じゃみーさんの「ふんっ!」に巻き込まれたと。ボクはしゃがみ込んで、消えつつある四千分の一スケール、ミニチュアスブタ城を眺める。もう「分裂」するだけの余力もないらしい。既に死んでいるのかもしれない。ピクリともせず、静かに世界へ溶けていく。

 異世界で生み出され、封印され、見知らぬ土地で消える。ちょっと可哀想な気もしてくるけど、終われる方がコイツにとっては幸せだろうか。


「キミィ。本当にいままでよく生きてこられたネェ」


 頭上からの声は呆れ混じりだ。顔は上げない。


「別に助けたいとかは思ってないですよ?」


 憐れみなんてのは驕りだ。ただの思い上がりでしかない。だからこれはボクの自己満足。


「いや、いや。キミの鈍さの方ダヨ」


 ヨモさんは「ヤレヤレ」と呟き、続けた。


「もう呪い、貰っちゃってルヨ、キミィ」

お盆休みから復帰です。書きながらルート分岐して、この話に着地しました。当初、謎のクマ頭とのバトルルートが予定されていたんですが、気がつけばこんな感じに。次回はバトルなしののんびりパートにしましょう。

帰宅して家事したらエネルギー切れちゃうのは、暑い夏だからと信じたい!

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