表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/30

020 こんな可愛くないクマもいるんですね

【97日目? 昼 記録者:デシイチゴウ 晴れ時々……】


 ボクは言いたい。


「どうしたら、ただのパンチでクレーターができるんですかね?」


「デシ殿も修行すれば、これくらいはできるようになるとじゃみーは思う」


 ボクは言いたい。


 ぜったい無理です。


 樹海のはるか上空で、じゃみーさんにお姫様よろしく抱っこされています。デシです。


 眼下に果てしなく広がる樹海は、大きく抉られ、黒い地面が剥き出しになっている。必殺じゃみーパンチの跡地だ。なにかの爆心地かな、これ。

 じゃみーさんが振り下ろした拳は、地面をド派手にめくりあげ、木も草も土も全部まとめて足元をまるっと吹き飛ばし--ついでにボクも天高く吹き飛ばした。わけもわからずきりもみしながら空中に放り出されたボクは、気がついたらじゃみーさんに空中で拾われていたのでした。

 子どもサイズのもふもふクマさんに抱えられてる画は、情けない? そんなの知ったこっちゃあない。命かかってんですよ。こっちは。


「とりあえず森ダンジョン族じゃなさそうですね」


 ごっそり吹き飛んだ地面を眺めて一言、感想。こんなのチカさんなら、絶叫悶絶したあと「……廃ダンジョンになるのだわ」とか言って、軽く一ヶ月は引きこもりそうだ。きっとトラウマどころの騒ぎじゃないだろうなあ……おや?


「じゃみーさん、アレ、なんですかね?」


 木に登ったときにはわからなかったけど、じゃみーさんがこさえたクレーターとは別に、森の中に巨大な穴が見えた。


「うむ、行ってみるか」


「ですね。この下からだと半日くらいかな?」


 大体の方向と距離を頭に入れる。穴自体は大きいから、多少ズレてもたどり着けそうだ。


「いや、すぐつく」


 すぐ、つく?

 じゃみーさんは、ボクが返事をするより前に文字通り宙を蹴った。

 ボク、今日まで知らなかったんですけどね、空気って蹴って移動可能だったんですね。


「うっわぁああ!?」


 弾丸みたいに発射されたボクらは、豪快に破壊音を轟かせ、何本かの木を薙ぎ倒して無事着地した。個人的には着弾したと言いたい。


「らー!」


 らーちゃんは楽しかったのか、鞄から顔を出し、ご機嫌そうに両手を振っている。

 ボクは心臓バクバクですよ。じゃみーさんの腕からふらふらと降りて、何度か深呼吸。うぐ……ちょっと吐くかと思った。

 着地の衝撃を一人受け止めていたはずのじゃみーさんは、何事もなかったかのように体についた木屑やら葉っぱやらを払いながら、穴の縁まで行き、底を見下ろす。あのもふもふのボディの耐久度はどうなっているんだろう。


「深いな」


 じゃみーさんが言う。ボクは少し腰が抜けていて、這うように近寄り、覗き込んだ。

 大きな縦穴だった。垂直にどこまでも続く穴。穴の巨大さにも関わらず底は闇。光が届かないって、どれだけ深いんだこれ。


「なんの穴ですかね、これ……」


 あまり覗き続けるとクラクラしてきそうだ。着弾ダメージの残るボクは、少し後ろへ下がる。


「さてな。自然にできたものとも思えぬが」


 じゃみーさんの言う通り、空から見えたこの穴は見事なくらい真円だった。近寄ってみれば垂直。完璧な円筒形といってもいい。自然にできたとは考えにくい。


「うーん……」


 飛び込んだら元の場所に帰れたりとかしないかな、とか思うも、失敗したら死ぬやつだよなぁとすぐに思い直す。


「賢明な思考ダネェ、キミィ」


 不意に声がした。若い男の声。近い場所からだ。バッと後ろを振り向くも、そこには誰もいない。どこだ? 空耳?


「真上だ、デシ殿」


 じゃみーさんの低く、静かな声が届いた。ドキリとした。


「え?」


 まさに真上。見上げた先にはおかしな男が居た。

 奇妙、珍妙、あわせて珍奇? おかしな、という表現が一番近いと思う。

 黒いスーツにネクタイ。そこまでは問題ない。

 頭にクマの着ぐるみを被っていて、地面に対して平行に、立っている。

 そう、立っている。クマ頭の重力は明らかにボクたちと違う方向を向いていた。中空に立っているのは、浮いているが正しいのかな?


「そんな怖い顔をしないでくれタマエヨ」


 クマ頭は軽い口調でそう言った。癖のある変わったイントネーションで、ものすごく胡散臭い。隣のじゃみーさんは明らかに警戒していた。その気持ちはわかる。わかるけど、ボクの第一印象はまったく別次元のところにあった。


「こんな可愛くないクマもいるんですね……」


「……実に失礼ダネェ、キミィ」


 クマ頭が一瞬、固まる。


「いやだって、見てくださいよ。こちらのクマさんたちと比べたら、どう見ても残念でしょ」


 クマ頭の造形は、可愛い系でもリアル系でもなく中途半端で、何より目が死んでいる。

 対してウチのクマさんたちはどうです。まるまるもふもふのお目目クリクリですよ。


「クマらー?」


 ほら、シロクマ帝国の皇子様なんて、クマかどうか確認しちゃってますよ。

 いや、まてよ。


「クマですよね?」


「クマだヨ!」


 あ、少しお怒りのご様子。表情がわからないから全然伝わってこないけども。


「とりあえず、クマって呼ぶとややこしいんで、なんて呼んだらいいですか?」


「一番目立つアイデンティティ的要素を真っ向から否定されるとは思わなかったヨ。それならヨモと呼んでくれタマエヨ」


 クマ頭あらためヨモさんは諦めたようにため息をついて、地面と水平のまま空中を歩き出す。見てると脳がバグりそうだ。空中歩行とか重力制御とか、そういうスキルなんだろうか。


「ヨモさんも転移者ですよね?」


「違うヨ」


「ですよねぇ……って、え。違うんですか?」


 その答えは想定外だった。違うってどういうことだ? まさか原住民とか? いやいや無人島でしょここ。


「どういうことって、そのまんまの意味サ。ボクは転移者じゃナイヨ。原住民でもないケドネ。どちらかといえば……おっと、これはボクも想定外カナ」


 あれ? 口に出してないよな?

 首を捻るボクだけど、そんな疑問よりもヨモさんの様子が気になった。表情が見えなくてもわかるくらい、明らかに何かに反応している。


「キミ達をすぐに帰してあげようと思ったけど、ちょっとそうも行かなくなったみたいダネ」


「どういうことですか?」


「キミ達が入ってきた扉が飲み込まれてしまったみたいダヨ」


 そもそも扉とか通ってきた記憶ないんですけど、飲み込まれたってなにーー。


「うわっ?!」


 ボクは急に身体を抱え上げられた。じゃみーさんだ。


「飛ぶぞ。舌を噛まぬように」


 ボクが慌てて口を閉じたのと、じゃみーさんが地面を蹴ったのはほぼ同時だった。再び樹海上空へ。


「どうした--」


 わけもわからず尋ねようとした時だ。真っ赤な光が眼下を貫いた。

 突風じみた轟音。一瞬遅れて熱風が吹き上げ、肌を舐める。ボクは反射的に目を閉じ、顔を背けた。頬がチリチリと灼ける。

 刹那の後、瞼越しに赤い光が消えた。うっすらと瞼を上げていったボクだったが、現れた光景に思わず見開き、息を呑んだ。

 樹海が黒い一本の線によって二つに割れていた。一瞬で炭化したのだろう。焼け焦げた匂いが立ち上ってくる。


「アレだ」


 じゃみーさんの視線の先。先ほどのじゃみーパンチ跡地に、何か巨大なモノがそびえていた。それは螺旋状に動きながらゆっくり天に向かって伸びる。陽光に晒される姿は黒い大木にも見えるが、ところどころ崩れていびつだ。生き物なのか?


「アレだネェ。飲み込んだヤツ」


 どうやって移動しているのか、自由落下するじゃみーさんと並んでヨモさんが言う。

 アレはやはり生き物らしい。と、螺旋の頂点が、ボクらの方を向いた。

 黒い中に、点々とした赤い光が、八つ。

 知ってる。ボクは真っ先にそう思った。鳥肌がたったのがわかる。


「ほう、こんなところで相見(あいまみ)えるか」


 そう言うじゃみーさんの声は実に楽しそうだった。


 それは、黒い巨大な八つ目の蛇だった。

血と死を喰らうものブラッディデスイーター」。異世界の古代人が生み出した異世界版蠱毒「地下室に大量の魔獣を閉じ込めて一匹の凶悪な魔獣を作る」魔法の産物。

 山をひとつ埋め尽くすほどの巨大な魔獣。

 別名、スブタ城。

 ボクは断言したい。

 アレは正真正銘の化け物だ。

祝20話! スブタ再来、大怪獣バトル開戦!

19話書いてる時点ではこんな話じゃなかったんだけどなぁ……と思いながら推敲してました。

バトル書くの割と好きなんですけど、読んでいただいてる方は日常ギャグパートの方が好きなのかな?

お楽しみいただけたら嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ