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019 森ダンジョン族のヒトだったとかそういうオチあります?

【97日目? 昼 記録者:デシイチゴウ 晴れ】


 デシです。


 山、いいですよね。

 見晴らしがいい! あとロマンがある……と思う!

 気がついたら負けだとは気がついているんですよ。もともとこの島には自然しかないし、どこも空気も綺麗だし、空だって青い。山は……高さが違うくらいじゃないのかな。あと空気が薄いとか。

 まあね、とにかく山ですよ。


「ここ、どこなんですかね……」


 デシです。現在絶賛遭難三日目です。


 遡ること三日前。

 マドカさんのお姉さんたちがきた翌日から、師匠が部屋に籠ってしまった。

 普段からもそれなりに引き籠っている師匠だけれど、わざわざ「しばらく籠る」と言い残していったのは初めてだったと思う。とはいえ、師匠の気まぐれは今に始まったことでもないし、店員一同、誰一人として特に心配はしていなかった。平常運転だ。

 ただ一人、実害があったのはチカさんだ。

 師匠が籠ったのは、地下室にいつの間にか増えていた部屋だった。気がついたら仮眠室の隣に謎の扉が増えている。完全防音なのか、部屋の音が聞こえてくることはなかったけれど、かわりに仮眠室で寝ている時に「ひぃっ!?」とかチカさんの悲鳴が聞こえるようになった。

 原因は師匠でまず間違いない。しかしだ。下手に邪魔をしようものなら、ボクのほうが悲鳴をあげることになるのもまた間違いない。ボクは心の中でチカさんにそっと手を合わせた。

 たぶん死なないと思うので頑張ってください。

 それから一週間。


「ユノ出てこないわねー……」


 そう言ったのは、カウンターに腰掛けた妖精姫のナナリアさん。

 昼過ぎの、店としては一番暇な時間。フロアには休憩中のナナリアさんとじゃみーさん、そしてボク。


「なんか、バスキッチントイレ付きの部屋を用意してもらってたみたいですよ。チカさんに」


 仮眠室で寝る前にチカさんと話していたら、師匠から褒められたと嬉しそうに話してくれた。悲鳴のことはあえて聞いていない。聞いたら、聞いたことを後悔しそうだし。


「チカ、そんな細かい間取りもできるようになったのね」


 感心半分、呆れ半分といった感じのナナリアさんだ。ちなみに話を聞いた時のボクは師匠への呆れ八割、チカさんピュアすぎるが二割でした。チカさんが将来悪い男に騙されたりしないか心配です。


「なにしてるのかは秘密だそうですよ」


「ホント、なにしてんだか」


 タイミングを考えると「マドカさんのお姉さん対策」とかが有力なんだけれど、あの師匠が特訓なんてするだろうか。


「マドカさんのお姉さん、一番上のミルクさん、でしたっけ? そんなに強いんですか?」


 シロクマ帝国、剛拳不敗の騎士団長に聞いてみる。ボクもあの場にいたけれども、さっぱりわからなかった。白くて綺麗なお姉さん、くらいの印象だ。地球外テケテケのメアリさんを片手で持ち上げてギリギリと首を締め上げていた気もするけど、この島のヒトたちならまあ、普通かなって思う。


「ミルク嬢が強いのは間違いないが、全力のユノ嬢であれば負けんよ」


 カウンター席で、自分の淹れたコーヒーを飲んでいたじゃみーさんは、そう言ってカップを置いた。ボクは首を捻った。ナナリアさんも肩をすくめている。じゃみーさんは「ふぅむ」と一息。


「全力を出すのはな、存外に難しいのものなのだよ。デシ殿。じゃみーも最後に全力を出した記憶は何年も前だ。あのときは確か反乱を企てた元老院の軍を壊滅させたときで……。いや、話がそれたな。全力を出すには勘を取り戻すまでの時間が要るという話だ」


「なるほど?」


 わかったような、わからないような。ボクの場合、戦うときはいつだって全力だ。見ただけで相手の強さがわかるような超感覚も超能力も持っていない。わかったところで調整するほどの余裕はない気はするけど。


「負けないなら問題なくないですか?」


 じゃみーさんは「ふぅむ」ともう一息。


「全力というのはな、手加減抜きというやつだ。ユノ嬢とて、見知った相手やその家族と命のやり取りはしたくはあるまいよ」


「あー、ユノって人格は滅茶苦茶な割にそういうところあるわよね」


 意外とふたりとも師匠のこと見てるんだな。

 破天荒で自分勝手で大概ゲスい師匠だけれども、決して悪人ではない。


「じゃあ師匠は全力を出さずに勝とうとしてるってことですか?」


 ボクが誰ともなく尋ねると、ふたりは顔を見合わせる。


「わからんな」


「ユノの考えてることなんてわかるわけないじゃない」


 ふたりとも、師匠のことそこまで興味はないんだな。


「それよりデシ殿。このあと少し付き合っていただきたいのだが、良いか?」


 じゃみーさんからお誘いとは珍しい。確かにボクは今日このあとはシフトに入っていない。


「いいですよ。どこか行くんですか?」


「ああ、ちょっと新しいコーヒーを探しにな」


 というわけで、ボクらは出かけたわけですよ。

 それから三日。


「まさか遭難するとは思いませんよねえ」


 ボクは誰ともなしにぼやく。三六〇度見渡す限り木、木、木。つまりは森。三日前の夕方に着いたときは、「へぇ、この山、樹海なんてあったんですねえ」とか呑気に言っていたなぁ。

 島の中央あたりにある巨大な岩山。その中腹あたりに巨大な樹海が広がっていた。じゃみーさんはその噂を聞きつけて、新しいコーヒー探し行こうとなったわけだ。ボクの「植物知識」より、ナナリアさんの「植物会話」の方がスキルとしては格上だと思うんだけど、じゃみーさんとしては、自分で探す楽しみも兼ねてということらしい。


「でし、まいごらー?」


 じゃみーさんのバッグの中から、らーちゃんが顔を出す。らーちゃん専用ハニワ型機動ユニットことスギタさんも一緒に鞄に入っている。単にじゃみーさんの鞄に入りたかったんだそうな。

 コーヒー捜索隊改め、樹海探検隊改め、喫茶よしの遭難部はボクとじゃみーさん、らーちゃんというメンバーです。


「そうだねえ、らーちゃんも迷子かなー」


「らー?」


 まるまるモフモフの小さなシロクマさんは、可愛らしく首を傾げる。

 らーちゃんはとりあえずそれでいいかなとボクは思います。

 さておき、現実の状況は全然よくない。

 この樹海は一言で表すなら変だった。どこまで行っても樹海なのだ。分厚い枝葉が屋根みたいになっていて、昼でも薄暗く、道らしきものはない。

 試しに木の上に登ってみたら、全方位見渡す限り、地平線まで森が続いていた。いくら広い樹海でも山の中腹だったはず。どこかに山が見えなければおかしい。

 遭難三日目、だいたい昼ごろ。今日も朝から歩き回ったけれど目ぼしい収穫は無し。ボクらは手頃な倒木に腰をかけた。


「誰かの『幻術』とかですかね?」


 倒木を触る感触は本物っぽいけれど、幻術はそもそも五感を狂わせるものだ。師匠ならこれくらいできるかもと思わなくもない。


「いや、『幻術』の類ではないな。じゃみーの『心眼』でも看破できない」


「なんですか、そのカッコいいスキル……」


 知らないスキルだけど、名前から効果はなんとなく想像はつく。じゃみーさんの言葉をそのまま受け取るなら、ここは現実ってことだ。そうすると考えられるのは転移か。いわゆる神隠しというやつ。


「らーちゃんの極大魔法でなんとかできたりとかします?」


 この質問はじゃみーさん宛。らーちゃんは「ずどーん! てするらー?」と目をキラキラさせている。


「らー様の魔法だと辺り一面が焼け野原になるな」


「もう、ただの最終兵器ですね。それ」


 ノーずどーんでお願いします。ウチの店のクマさんたち攻撃力高すぎでしょ。

 こういうのはむしろ師匠の領分か……。一応、あの人の弟子なんだよなぁ、ボク。

 ため息ひとつ。

 まずは現状分析からやってみるか。


「島のなかにいるっぽいのは確かなんですよね。スキルも使えるし、『換金』と『購入』もできるし」


 なにせ遭難三日目だ。もういろいろ試している。幸い樹海にはいくらでも『換金』できるものがある。おかげで水も食料も困らないし、じゃみーさんもいるから命の心配もない。遭難しているといっても帰り道がわからないくらいで特に絶望感はない。


「植物の感じも、島のもので間違いないです。でも島にこんな大きな樹海あったらすぐわかりますもんね」


「そうだな。噂もここ数日で聞くようになったのだ。山のあたりに突然樹海が発見されたと」


 既視感。似たような話をごくごく身近に聞いた記憶がある。


「なんか前に似たような話ありましたよね。まさかここ、森ダンジョン族のヒトだったとかそういうオチあります?」


 岩ダンジョン族のチカさんから、森ダンジョン族がいるような話は聞いたことがある。森ダンジョンがどんなのかはわからないけど、森で迷っていることは間違いない。


「ふむ。では試してみるか」


 じゃみーさんがひょいと地面に降り立ち、軽く拳を振り上げると、ただ真っ直ぐに大地に突き立てた。


 次の瞬間、ボクには地面が爆発したように見えた。

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