012 直感する。これはプロの仕事だ
島の平原に現れた遺跡はある夜、忽然と消えた。朝になり、入り口の周りで野営をしていた転移者たちは、呆然とするもの、穴を掘り出すもの、スキルで探そうとするものなどさまざまだったが、誰一人として消えた遺跡を見つけることはできなかった。
これは遺跡消失事件として島の歴史に残る出来事である。
【71日目 朝 記録者:デシイチゴウ 晴れ】
朝起きると、地下室ができていて、らーちゃんが空飛んでました。
デシです。
店長と副店長不在ということで、昨日は適当に夜営業を切り上げて閉店したのです。当店は営業時間がございません。なんとなく早朝から開けて、気が向いたら翌日まで続けて営業もいたします。店員の体力と気分次第、それがよしのスタイルです。
はい。現実逃避終わり。
状況を確認しよう。
ウチの店は個室とか特にないので、寝る時は店内の適当な場所で寝る。師匠との旅は野宿が多かったから、室内で寝られるだけでボク的には贅沢だ。
さて、昨夜未明の時点ではまだ師匠たちは帰ってきていなかった。そういえばらーちゃんもいなかった気がする。そんなの気にせず寝たんだけども。
で、朝。長椅子の上で目を覚ましたら、店の奥に地下行きの階段ができていて、らーちゃんがハニワに乗って店内を飛行しているわけですよ。
あの、ごめんなさい。ボクの処理可能な領域をすでに振り切ってます。なんだよこれ。
もう当事者に聞くしかないだろこんなの。どこだよ当事者。
発見。師匠、ナナリアさんともに爆睡中。
師匠なんて嫁入り前とは思えない雑な寝方してるけども、いつものことなので放置。腹を出して寝ないでください。もうため息も出ませんよ。
ナナリアさん、タオルに包まればいいだけなの羨ましいなぁ。寝姿の差が、隣に転がっているヒトと同じ世界に存在しているものとは思えないレベルです。これが育ちの違いなのか……。
他に事情聞けそうなヒトだと、じゃみーさんは……朝稽古か狩りかな。いないっぽい。
となると残るは、
「らー!」
ご機嫌そうなシロクマ帝国第八皇子。どう見てもハニワに乗ってるよなぁ。師匠の作ってた謎オブジェだよなぁ。なんで空飛んでるんです、それ。
「らーちゃんー?」
「らー!」
呼んでみると、らーちゃんはハニワに乗ったまま、ボクのすぐ前で空中静止した。なにこの便利な乗り物。
「でしー? おはようらー」
お目目キラキラ、まるまるモフモフが謎のハニワにのってパタパタ手を振って挨拶してくれる。なにこの可愛い生き物。あと、なんで空飛んでるんです、それ。
「おはようございます。昨日のことなんだけど、らーちゃんはなにか知ってる?」
「ちかとあそんできたらー! たのしかったらー!」
チカって、誰ー!! 知らないヒト増えてるー!?
「チカ、さん? てどなた?」
「そこにいるらー!」
パタパタ指差す先は、謎の階段だった。
そっかー。いるのかー。やっぱりそこかー。なんかねー、わかってたー。いくしかないよねー。
ボクは本日最初のため息ひとつ。ふたつ。みっつ。おっけー。いこうか。
「チカさんのところ、案内してもらってもいい?」
「おっけーらー!」
よーし、らーちゃんがいれば大抵の相手は問題なく対処できる! ボク一〇〇人分以上の安心感! 安心ついでに聞いておこう。
「ちなみに、らーちゃん、その飛んでるやつ、なに?」
「すぎたー」
店内に新しい名前が、増えました。ハニワの、スギタさんです。誰だよホント。
店奥の階段の前に立つ。石造りの階段が地下へと続いていて、結構深いっぽい。暗いな。明かり持ってくるか。
「らーちゃん。ちょっと明かりとってくる……」
ね、と言おうとしたところで、らーちゃんが地下に向かって声をかけた。
「ちかー、まっくらー」
「はいはい、なのだわー」
穴の奥から女の人の声が返ってきて、暗がりに明かりが灯る。いまのがチカさんらしい。声の感じからすると温和そうな感じだ。年齢不詳な感じの声。
「おっけーらー! ありがとらー!」
らーちゃんはそのままハニワに乗って地下へ。ボクも後に続く。入ってすぐ、ボクは驚いた。
階段だけじゃなく壁から天井まで綺麗に石が組まれている。一晩でできたとは思えないほどしっかりした作りだ。
直感する。これはプロの仕事だ。一ヶ月以上もかかってほぼ一人作業でこの店を組み上げたボクにはわかる。建築スキルとか持ってないけども。チカさんはきっと建築関係者に違いない。ボクがやったらいったい何日かかることやら。
通路を照らす柔らかい光は、天井そのものが発光しているみたいだった。そういう材質の石なんだろうか。それともスキル? なんにせよこれも素晴らしい仕事だ。チカさんはよほどしっかりしたヒトなんだろう。
ゆるやかなで歩きやすい階段を四十段くらい降りると、平坦な通路に出た。綺麗に真っ直ぐ伸びる通路は、左右にいくつかの部屋があるみたいだった。
らーちゃんはふよふよと進んで、一番手前、右側の部屋に入った。
そこには。
たくさんのハニワがありました。
店内のハニワが集結! ここは古墳か? 玄室ですか?
「らーちゃん、ここにチカさんいるの?」
「すぎたー」
「そっかー」
いたのはスギタさんでした。玄室じゃなくて、ここはスギタ家だったようです。備品倉庫かな。うん。
そうするとチカさんは別の部屋か。
「私になにか用なのだわ?」
「うっひぁ!?」
急に声がして、頭を抜けるような裏返った声が出た。慌てて見回すけど、姿は見えない。
幽霊? いやいや幽霊ならボクだって元の世界では”見える異能者”だったから、たぶんそれはない。
透明人間? 小さすぎて見えてない? そうか!
「ハニワか!」
「ちかー。でしー」
らーちゃんがパタパタ手を振ってボクを指差す。
「あ、キミがデシイチゴウなのだわね。私、岩ダンジョン族族長の娘、ミイスティアチカリスジュゲムなのだわ」
ハニワじゃなかったようです。
なんですって? なんか情報量が玉突き事故起こしてるような自己紹介をスラスラとされたような気がしますよ。
「あの、とりあえず、いろいろお話聞いてもいいですか?」
どこに向かって話せばいいやらわからないけど、呼びかけてみると、ミイスなんとかチカさんは昨晩の出来事を説明してくれた。
チカさんは話好きなのかちょくちょく脱線して、結構な長話だった。ボクはその場で立ったままチカさんの話を聞いていた。話の途中で、らーちゃんは長い話に飽きたのか、スギタに乗って遊びにいったみたいだった。
話の長さもさることながら、チカさんから聞かされる師匠の奇行が……話のなかでもハニワが飛び始めたあたりから、頭痛が痛い気分になってきたのだけれど、ボクはとにかく現実に目を向けた。
「つまり、この地下空間そのものがチカさんなんですか?」
「そうなのだわ!」
たぶん自慢げなんだと思う。世界は広いなぁ。生き物ってなんだろうなぁ。あと、プロの仕事とかいってすみません。ここ、人生そのものでした。
「見て回ってもいいですか?」
これは単純に好奇心だった。だってダンジョンとか初体験だし。ちょっとワクワクする。
「いいけど、痛いから、本当に痛いから、壁に穴開けたりとかしないで欲しいのだわ……」
壁に穴って……。いったい何されたんだろうか。昨晩のこともそこらへんはあんまり話してないし、詳しくは聞かないでおこう。
ボクはスギタ家を出てさらに奥へ。
「あ。ここって、ちゃんと空気流れてるんですね」
通路に出てふと気がついた。空気が動いているのを感じる。井戸掘りしてるときに、酸欠で死ぬかと思ったんだよな。師匠は土器製作に夢中で気がつかないし。やっぱりちゃんと換気口とか開けてくれてるのかな。
「変なこというのだわ。呼吸しないと苦しいのだわ?」
呼吸、してるんだ。岩ダンジョン族。生きてるもんね。そうだよね。……そうなのか? もう建築云々考えるのやめよう。
二つ目の部屋は、壁とは色の違う岩の扉がついていた。把手もなければ、引き手もない。押すのかな。ボクが手を伸ばすと、
「開けるのだわー」
自動ドアだったー。すごいなー! 岩ダンジョン族! あれ、チカさんが開けてくれたなら人力か? ……って、
「寒っ!?」
部屋のなか、極寒です。この島気候が温暖だから寒さとか忘れてましたよ! 薄着でいていい場所じゃないぞ。こんなのまるで、
「店長に言われて、『凍結』ってスキルを取ってみたのだわ! これで侵入者も氷漬けにできるのだわ! ふふん!」
チカさん、ここ、ただの冷凍庫です。顔見えないけど、絶対ドヤ顔してますよね。でもここ、ただの冷凍庫です。
あと、侵入者閉じ込めても、壁壊されるやつです。チカさんが痛いやつです。お店の地下ですし、まず侵入者こないと思いますけども。あー、食材置いてあるなー。そっかー。もう使用済みかー。
「次、いってみようか……」
なんか、この時点でイヤな予感というか、可哀想な予感というか。ひしひしと感じる。この先の部屋を見たら、ボクはいろいろ後悔するかもしれない。
次の部屋は手動のスライドドアだった。岩の扉がスムーズに動くのは謎技術すぎるんですけど。岩ダンジョン族、人体の神秘なんだろうな。それでいいやもう。
「あー……ここはー」
ほら、予感的中してきた。
「この部屋は水責めができるのだわ!」
うん。お風呂だー、ここー。湯船と洗い場っぽいところもあるー。結構広いし。これはもう大浴場というやつでは。
「店長に言われて『水操作』のスキルも取得してみたのだわ! 上から水とかお湯をかけることもできるのだわ!」
しかもシャワー付きでした。え、チカさんにお願いしてお湯出してもらうの? 恥ずかしいんですけどそれ。チカさんはそういうの気にしないヒトなのか? いやいやそんなことはないだろう。気がついていないところをみると、こちらはまだ未使用なのか。
「昨日作ったのは、次の部屋で最後なのだわ」
ボク、すでに心が辛いです。師匠、この子は師匠と出会うには純粋が、ピュアが過ぎるのではないでしょうか。
最後の部屋は重そうな岩の扉だった。実際は重そうに見えるだけで、軽々と押し開けられたんだけども、おや。意外と普通の、
「うん? 階段?」
ゆるやかに、上に続く階段があるだけの部屋に見える。裏口とかなのかな。どこかに繋がってるとか。
「ここ、なんの部屋なんですか?」
「えっと、店長はノボリガマって言ってたのだわ? 火責めに使う部屋だから、『耐熱』スキルも取っておけってオススメされたのだわ! これで侵入者もイチコロなのだわ!」
ただの趣味の部屋だー!! 師匠ー!! アンタこんなピュアな子の体内に火入れする気満々かー!!
ボクのなかで後悔の言語の範囲を超えました。
チカさん、なんか、ごめんなさい。
「どうしたのだわ?」
「いえ、なんでもないです。ボクは、チカさんがいいなら、いいかなって思うことにしました」
ボクの良心が自己防衛機能を申請。承認されました。
これはもう、お店の施設です。設備投資です。それで納得しよう。うん。
「よくわからないけど、わかったのだわ?」
本日、新しく店員さんが増えました。とても気立ての良い働き者のお嬢さんです。
岩ダンジョン族の族長さん。申し訳ない。
とりあえず、うん。お風呂、入れてもらおう。




