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011 なら覚えるなよ、そんな自爆スキル

 この島において、転移者同士の争いは滅多に起こらない。

 メリットがない。

 相手の強さがわからないうえ、自分の世界の常識が通用しない。得られるものも特にない。

 地位も財産も名声もこの島では無意味で無価値だ。

 争いが起こるとしたら、腕試しかはたまた不幸な事故くらいだろう。


【70日目 夜 記録者:凪見ユノ 夜!】


 自分で奥の手というやつは大きく二種類。

 策士か阿呆か。

 きっと後者だな。こいつ。

 おそらくは魔力。強力な力場が、空間を捻じ曲げているように感じた。空気が小刻みに震え、直後ドームの中央あたりの空間が音もなく裂けた。

 斜めにジグザグとした亀裂はこじ開けられるように広がり、奥から何かが現れる。

 五メートルはある岩の塊。岩の小山といってもいい。それが中途半端な高さで浮いていた。


『サモン・ゴーレム』だったか。


「召喚術」ってのがたしか取得一覧にあった。「陰陽術」で事足りる気がして取ってなかったんだが、こういうのができるのか。ちょっと面白そうな気もする。ああでも、さっき秘術とか言ってたし、岩ダンジョン族とやらの固有スキルなのか?

 しかし……なんだろう、コレ。


「脚のない、カニ?」


 それだ。ナナリア、いい線いってる。小山のようなボディからハサミのついた腕が二本突き出ている。浮遊するのに無駄に魔力を使っていそうな、実に非効率なオブジェだ。


「ガシガシ歩かれたら私が痛いのだわ!」


 なら覚えるなよ、そんな自爆スキル。相性悪すぎだろ。


「あー、面倒くさいから最初に聞いておくけど、これが奥の手でいいな? さらに奥の手とかあるなら先に出しておけよ。面倒くさいから」


 大事なことなので二度言っておく。


「これ以上召喚すると壁とか天井に当たりそうでイヤなのだわ! 痛いのはノーなのだわ!」


 断言しよう。策士ではない。阿呆の方だ。こいつ、本当になんでゴーレム召喚したんだ。


「覚悟するのだわ!」


 戦闘開始はいつだって唐突なものだ。

 正々堂々も卑怯もあったもんじゃない。勝つか負けるかのみが存在する。これは私の持論。

 必要なものは覚悟だ。

 カニ型ゴーレムが両腕を大きく広げる。すでに向こうさんの一方的な間合い。だが。


 遅いな。


 身体強化をした私の脚力は、一息でゴーレムの懐まで身体をねじ込んだ。

 密着。手を伸ばさずとも届く距離だ。この距離は既に相手の間合いではない。

 しかし、有利を失ったはずのダンジョン娘は、待ち構えていたかのように叫んだ。


「甘いのだわ!」


 声に合わせて、カニゴーレムの本体正面が歪む。刹那、三本目の腕が飛び出した。

 私のすぐ眼前だ。


「そちらのスピードは把握済みなのだわ! 腕が二本と侮ったあなたの負けーー」


 勝利の美酒に手をかけようとしていた声をさえぎり、鈍器同士がぶつかり合うような、重く硬質な音が三本目の腕を跳ね上げた。

 ダンジョン娘は絶句していた。


「ふんっ」


 今度は私が笑ってみせた。なぜか背後でナナリアのため息が聞こえる。

 私の周囲の空間を切り裂くように、球状に飛び交う無数の影。埴輪だ。


「杉田を一体しかいないと侮ったお前の負けだな」


 私の背中の荷物には計七体の埴輪が入っていたのだ。踏み込むのと同時に残った六体をすべて式神化して展開。「陰陽術」スキルで土を一時的に金属へ変換。

 名付けて「杉田ファンネル」。


「杉田の無念は杉田で晴らす! いっけぇ! 杉田ぁ!」


「らー!!」


 ……らー!?

 ものすごくご機嫌そうな声がした。聞き慣れた、可愛い声だ。

 ナナリアがめちゃくちゃ焦った声をあげる。


「ちょっとユノ! らーちゃん! ハニワ! 乗ってる! なんで連れてきてるのよ!」


「知らん! 勝手に入ってきたんだ、たぶん!」


 連れてきた覚えはまったくない。いままで静かにしてたということは、寝ぼけて紛れ込んでたのか。ぐっすりさんだったのか。

 可愛いなぁ、じゃなくて。さすがの私も想定外だ。


「なんでもいいから早く止めなさい! 危ないでしょ!」


「言われなくても……」


 杉田が一体、私のコントロールから外れている? 制御不能? 暴走? 思考を高速でめぐらせーー。


「らー!」


 らーちゃん、私の術上書きしてるなーこれー。まじかー。

 シロクマ帝国第八王子にして、極大魔法の魔導書、ブラン・グランの申し子、恐るべし。

 全力で術の制御を取りに行けばなんとかできる……うん。間に合わないやつだ、これ。


「どーん!」


 私にもよくわからないが、らーちゃんの超強化魔法で金色と化した杉田の体当たりは、一撃でゴーレムを砕いたのだった。それはもう、粉々に。

 杉田。仇、取ったぞ。らーちゃんが。


「ぐぬぬぬぬ、負けたのだわ……」


 完膚なきまでの決着に、ダンジョン娘はあっさりと負けを認めた。奥の手って自己申告してたしな。奥の手、粉微塵だし。

 勝者ことらーちゃんは杉田が気に入ったらしく、びゅんびゅんと高速で飛び回っている。とりあえず楽しそうだからそのままにしておこう。

 さて、なんかもう予想はできてるんだが、一応聞いとくか。


「ダンジョン娘は転移者なんだよな?」


 すべての答えはここに収束したように思う。遺跡でもなんでもない。こいつがただの転移者であれば『手紙』が届かないのも納得だ。

 ついでに「気配察知」もなんとなく想像はつく。察知するべき相手の身体の中で察知も何もないだろう。


「変な名前つけないで欲しいのだわ! ちゃんとミイスティアチカリスジュゲムって名乗ったのだわ!」


「わかったわかった。ミゲムでいいか?」


「チカリスでいいんじゃない?」


「ちかー!」


「よし、地下っぽいしチカにしよう」


「あなた達、ちゃんと呼ぶ気まったくないのだわ……。転移者はよくわからないけど、なんか石板便が届いたと思ったらこんなところにいたのだわ?」


 石板便て、郵便みたいなものだろうか。ダンジョン族の通信手段って石板なのか……。岩ダンジョン族だからなのか? ダンジョンに石板が放り込まれるんだろうか。

 ダンジョン娘改めチカは、ダンジョン族なる生き物が生活している世界からの転移者だった。岩ダンジョン族の他にも、城ダンジョン族やら、森ダンジョン族やらいるらしい。他の生物と共生している平和な世界なんだとか。

 ナナリアが島の事情を簡単に説明すると、チカはみるみると、それはもうどんよりと、沈んでいった。


「遺跡と勘違いされてたら、ずーっとこんなことしてないのダメなのだわ? 毎日相手してたら身が持たないのだわ……」


 深刻そうな声に、ナナリアも親身になって考えているようだ。


「チカは移動とかってできないの?」


「できるのだわ。地下部分を伸ばして移動するか、他の空間の中に潜り込んで運んでもらうのだわ」


 動きがほとんどシャクトリムシだな。地上部分から見ると入り口がうぞうぞ動いてるように見えるんだろうから、なかなかに怪異だ。


「それならさ、こういうのどうかな? ウチの店の地下に来てもらうの! それなら他の転移者が入ってくる心配もないでしょ? ウチも倉庫とかいろいろ使えそう! いいでしょ!」


 ナナリアよ。それはもう、言葉の最後のあたりがメインだろ。確かに最近店が手狭な気はしてたんだよ。そろそろデシに増築させようかと考えてたくらいだ。

 善意二割、打算八割。しかしチカには渡りに船だろう。安全安心は高級品なのだ。ナナリアが後光を背負っているようにすら、見えたのではないだろうか。

 チカは涙ながらに即答、承諾。

 直後、らーちゃんの乗った杉田がドームの壁に突き刺さったりしたのだが、些細な話である。断末魔みたいな声してたけど。


 かくして、この日、我が喫茶店よしのには変幻自在の地下エリアが誕生したのだった。

 あとで何ができるか詳しく聞いとこ。

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