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010 また情報量が交通渋滞起こしているのが出てきたぞ

 この島における加工品はそのほとんどが木器、石器、土器である。金属は一部の転移者がスキルで生産することはあるものの、需要はそこまで高くない。こと戦闘において、金属に頼らなければならないような転移者はいないのだ。どんな道具でもふるえば一騎当千。それが彼ら転移者である。

 ちなみに、一説によると最も需要が高い金属器は「鍋」らしい。


【70日目 夜 記録者:凪見ユノ 満月←毎日満月ですよね、師匠】


 転移ポイントは「転移者と転移者が触れているもの」のみが対象となっているようだった。

 一度試しにナナリアを投げ込んでみたが、しっかり入り口に戻されたのを確認した。服だけこっちに残ったら面白かったんだが、そこは実証済み。妖精姫は無言のまま戻ってくると、私の頭に乗って、深々とため息をついただけだった。烈火の如く怒鳴り散らすかと思って身構えていたんだがな。丸くなったものだ。

 一方、人造御霊こと踊る埴輪型式神の杉田は転移の対象外だった。もしか対象が生命体なら人造御霊も転移されてしまうやもと考えたが、どうやら杞憂に終わったようだ。

 杉田がゆっくりと通路を飛んでいく。私は杉田と視界を共有し、それを中空に「投影」。ナナリアも見られるようにサービスしてやっていた。


「便利ねー」


 ナナリアが頭の上で実に感情のこもっていない感想を述べた。まったくもって棒読みである。サービス終了してやろうか。さっき適当に名付けた「無限満月回廊の術」は杉田の視界を通しても有効で、実に快適な旅を……。


「行き止まり?」


 ナナリアが棒読みではない声を出した。

 たしかに通路が終わっているのが見える。ここから一〇〇段くらい下ったあたりだろうか。


「この遺跡、なんにもないってこと?」


 終点はたしかに一見してただの行き止まりに見えた。甘いな。


「この手の通路は行き止まりに見えて実は幻影か、仕掛けがあるってのが相場なんだよ。これだから箱入り豆電球の王族様はーー」


 私は意気揚々と杉田を直進させ、


「あ、ぶつかった」


 ナナリアは棒読みだった。

 ガツンとした感覚が私のおでこにも伝わってきた気がするが、あくまで錯覚だ。式神とそこまで感覚共有していたら利点がまったくない。そんなことよりも。


「おい、まさかこれで終わりとかではないだろうな!?」


「私に聞かないでよ! 仕掛けがあるのが相場なんでしょ!?」


 そんな会話を始めた時だ。ぞくりと嫌な感じが背筋を抜けた。止まっているはずの杉田の頭のすぐ上に天井があった。天井が落ちてきている。そう直感した。


「くっ!?」


 杉田を高速で引き戻す。が。


「あれ? 消えちゃったわよ?」


「投影」が解除された。私の全身に衝撃が来たように錯覚もした。つまり。


「杉田ぁああ!」


 私は膝から崩れ落ちた。この島で最初に作った埴輪の杉田。少しばかり体は右に曲がっていて、左手の角度が気に入っていた杉田。そんな杉田はもう、いない。


「……なんか、いままで付き合ってきたなかで一番ショックを受けている気がするのは、気のせい?」


 頭から降り、目の前で浮いているナナリアは半眼で呆れたように声をかけてくる。ここは慰めるところではないのか。

 質問には答えない。愚問である。私の心に黒いものが生まれる。全身に力を巡らせ、ゆらりと立ち上がった。


「よし。遺跡、壊すか」


「アンタ、それ本気でしょ!?」


「そうなのだわ! 勝手に壊さないでほしいのだわ!」


 ん?

 聞き慣れない声に私の怒りが一時停止した。ナナリアも首を傾げている。

 女の声だ。年齢不詳。年上にも年下にも思える。どこから聞こえてきている? 


「ここ数日わけのわからない連中ばかり来ていたけど、あなた達は特に危険なのだわ。なんか変なものぶつけてくるし。壊すとか言い出すし」


 周囲に姿はない。影もない。相変わらず「気配察知」も使えない。

 しかも妙なことにこの声は、聞こえてくる方向も絞れない。遺跡中を反響しているようにも思う。


「ねえ、ユノ。あのさ」


 ナナリアが少し顔を引きつらせて言った。


「この遺跡、喋ってない?」


 喋る? 遺跡が? とうとうこの王族は頭の中まで豆電球になってしまわれたのだろうか。


「こうなれば、実力行使なのだわ!」


 謎の声に気合いがこもった。これは、殺気だ。

 私がそれを感じたのと天井が落ちてきたのは、ほぼ同時だった。


「なんなのだわ……あなた」


 謎の声、略して謎子は(おのの)いていた。

 なんなのと言われても。落ちてきた天井を片手で止めただけだろうに。


「私、声の方に賛成……」


 ナナリアが引きつった顔のまま今度はこちらを見ている。こっちもこっちで何を今更。


「じゃみーだってこれくらい余裕でするだろう」


「クマと一緒って……」


 当店自慢、剛拳不敗のコーヒーマスターほどの剛力ではないにしろ、「身体強化」をすれば岩の一つや二つ軽いものだ。じゃみーなら一撃粉砕している気もするしな。


「ぐぬぬ……」


 謎子が踏ん張るような声を出すと、天井の重量がグッと増した。力押しとは芸がないぞ。追加「身体強化」っと。

 ビシッと乾いた音がして、私の指が天井に食い込んだ。


「いっだぁあ!?」


「うおぁっ!?」


 謎子が叫び、急に天井が引っ込んだ。右腕ごと引き上げられそうになり、私は慌てて手を離す。


「なんてことしてくれるのだわ! 痛いのだわ!」


 抗議の声に、ナナリアの言葉がフラッシュバックする。


「謎子! お前まさかこの遺跡なのか?」


「勝手にヒトに変な名前つけないでほしいのだわ! あと遺跡でもないのだわ! 私は由緒正しい岩ダンジョン族族長の娘! ミイスティアチカリスジュゲム!」


 うわ、また情報量が交通渋滞起こしているのが出てきたぞ。なんだその学名みたいな名前。


「ここからは全力でお相手するのだわ!」


 謎子改め、学名ダンジョン娘が叫ぶと、途端、周囲が一変する。

 壁がたわむ。生き物のように蠢き、床が沈む。

 空間が爆発的に広がると、通路だったものは巨大な円形へと姿を変えていた。半径一〇メートル強の半球ドーム、といったところか。闘技場のようにも思えた。


「ナナリア。国の知り合いにこんなのいたりするか?」


「しないねー。ウチの国中探してもいないねー」


 だよなぁ。もちろん私の知り合いにもいない。


「私の奥の手いくのだわ! 岩ダンジョン族に伝わる秘術『サモン・ゴーレム』なのだわ!」

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