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「なんてことがあったんですよ」

「それを私に直接教えてくれるのか」

 私はセアラ嬢に呼び出されて、彼女からお茶会の顛末を聞かされていた。ロニーも同席させられて、その話を聞いている。

「私、なんだか腹立たしくなってきましたわ! どうして、彼女達のご機嫌を窺って親交を遠慮しなくてはいけませんの⁉」

「そういう思惑が水面下であったのか……」

 確かに高位貴族だけでなく下位貴族から声をかけられることもなかったのだ。身分差で遠慮されているのかと思っていたが、それ以外にも理由があったのだ。


「ロニー、あなたは私の知らない情報を知っているでしょう。洗いざらいしゃべってしまいなさい」

「そんな大層な情報は持ってないよ」

 水を向けられて、ロニーはその薄い表情にうんざりした色を見せていた。はあ、とため息を一つ吐いてから口を開く。


「オスニエル家は冷遇されてはいても、積極的に取り潰されることはない。お取り潰しもされずに緩やかな自滅を願われているのは、つぶせない理由があるからだ」

 私とセアラ嬢はおとなしくロニーの次の言葉を待つ。

「まずフィルの母君が王家の婚約者に選ばれるほどのお家柄であること。なおかつ、オスニエル家がその王家の元婚約者と婚姻してもおかしく無い家柄であること。オスニエル家は度々王家から王子や王女が降嫁されてくる家柄だということ」

「ああ」

 なんだそれかという思いで相づちを打てば、じろっと冷めた目で見られる。


「やっぱり、ご存知じゃないですか」

「そりゃあ、自分の祖母の話くらい知ってるよ」

「まあ、それだけじゃなくて、降嫁された王女殿下は一説によると暗殺されかかったらしいんですよ。女性でありながら先帝陛下を押し退けて王位継承権第一位になるほど優秀だったので、それを疎まれたとか」

「犯人は王配予定だった元婚約者だって。王宮にはいろいろ思惑があるんだね」

「ええ、そうなんですか⁉」

「やっぱり、知ってる……」

 祖母から聞いたことを言えば、セアラ嬢は驚き、ロニーにはあきれた目を向けられる。


「どうしてその方はご自分の婚約者を暗殺しようとされたんでしょう」

「そこは教えてもらってない」

「……その時の暗殺方法が毒沼の毒だったとか」

「あ、それは違う。沼のほとりに咲いていた毒花から抽出した毒だ」

「私より詳しいじゃないですかー」

「いや、自分の祖母の話だし」

 ロニーはセアラ嬢の方を向く。セアラ嬢はむっとしたままの表情はそのままに胸を張っていて、不満げな様子は収まっていなかった。


「私が知りたかったことは、そう言うことじゃないですわ」

「じゃあ、なんなんだよ」

 二人の気安げな口調が、少し羨ましくもある。

「私は、人の噂に振り回されて、勝手に運命を決められるのは嫌ですわ」

「そんなこと言って、君は人の噂話が大好きだろう」

「でも、その噂の出方が気に入らないんですわ! 誰かの思惑が後ろにあるような噂は情報そのものがねじ曲がっていて美しくないですわ! 私は、誰もがフラットに同じ情報を得られる世界が欲しいんですの!」

「おお……!」

 セアラ嬢の叫びは新聞部らしいものだった。

「君ねえ。貴族社会や階級社会そのものになたを振るうような危ない発言をしてしまってるんだけど」

「そうかしら? すでにこの世に新聞というものが存在しているんだから、これくらいの感想は普通でしょ」

 平静でいながらも、苦言を呈するロニーに対し、セアラ嬢は一歩も引かない。


「フィル様はどうお思いになります?」

 こちらを振り返られて、はっとさせられた。

「……私も、君の考えはいいと思う」

「やめてくださいよ」

 セアラ嬢に同調すれば、ロニーにうんざりとした声を漏らされる。


「噂っていうのは、無責任で罪のないのがいいんですよ。だって、その場で楽しく盛り上がりたいじゃないですか。楽しく盛り上がってそれでおしまい。なのに、後からあれを言いふらすのはまずかったとか、責任を追及されるなんてしんどいじゃないですか。しかも、それで人の人生が狂うなんて後味が悪い! まして、この情報をあの人は知らなかったとか、あの人には教えないようにしましょうとか、そう言うの気分が悪い! みんなが同じ情報を知って、盛り上がればいいじゃないですか! 盛り上がれないようなら、その情報が悪い!大体……」


 セアラの熱弁は長く続いた。


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