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 私の里帰り兼彼女達の取材旅行はつつがなく終わった。最終日までロニーは我々と合流せず、一人で絵を描いていた。

 そのため、私とロードリック嬢はこの旅の間ずっと二人で過ごすことになった。もちろん、付き人はいる状態である。


「フィル様、今回は本当にありがとうございました。楽しかったです!」

 ロードリック嬢はすっかり気安くなった。

 私は、表情が硬いせいか女性には一歩引かれることが多かったのだが、ロードリック嬢のその気後れのしない性格のおかげで、彼女とはついぞ会話に困ることはなかった。

 ひとえに彼女の気遣いのなせる業だろう。記者としてこれほど向いている性格もあるまい。

 私は、自然に彼女に尊敬の念を抱いていた。

「素敵な記事を書きますね!」

「ああ、頼んだよ」

 我々は笑顔で別れた。心地良いひとときだったと思う。



 二人をもてなした経験をもとに、領地の観光地化に何が必要かと改めて考える。我が領地は美しい景観が自慢だが、健脚向けのコースばかりだ。体力のない女性に対して優しくない。もう少し、改善策が必要だと感じた。


「フィル様、よくお越しくださいました」

「ああ。君の意見が聞きたくてな」

「私も草稿を見てもらおうと思ってたんです」

 私たちはそうやって何度も交流を重ねた。目的がはっきりしているせいか、我々の会話にぎこちないところもなく、話は弾んだ。



 その日も、彼女に思いついた点を聞いてもらおうとむかっていた。見つけたロードリック嬢は他の令嬢と向かい合っているところであった。

「ロードリック家は人脈作りに苦労なさってますの」

「いえ、そんなことはございません」

「ならば、どうしてあの方とお近づきになろうとなさるのかしら。お噂はご存じでしょう」

「あの方とはどの方のことです?」

 令嬢達の皮肉に対してロードリック嬢は真っ向から言い返している。反論しているという風ではなく、本気でわからずに問い返しているように見えた。


 そして、私には令嬢たちの言うあの方がだれを指しているのかは明快に分かった。


「セアラ嬢は目がお悪くていらっしゃるから、そう言う判断が苦手でらっしゃるんですよね」

「まあ、おかわいそうに」

「そんな容姿が損なうような眼鏡がなくては生活がお出来にならないんですもの。きっと、今までも不都合はいろいろとおありだったんでしょうね」

「本当におかわいそう」

 令嬢達はついにはあからさまにロードリック嬢をこき下ろしだした。


 もう見ていられない、とそこに割って入る。

「失礼。ロードリック嬢に用があるのだが、お話はまだ続くのだろうか」

「え、オスニエル様⁉」

「彼女を借りて行っても構わないか?」

 じっと令嬢達の顔を見れば、彼女達は引きつった顔で一歩二歩と後ずさる。やはり、私の顔は令嬢達には怖がられるようなものらしい。

「異論はないな。では、彼女を連れていく。失礼する」

 何も言葉が返ってこなかったので、強制的に切り上げてロードリック嬢をそこから連れ出して離脱したのだった。




「すまない。ロードリック嬢」

「え? どうして謝られるのですか」

「もう少し言葉を選ぶとか、彼女達に反論をするとかもっとスマートな返し方があると思うんだが、私にはあれが精いっぱいで……」

 反省の弁を述べると、くすくすと笑われた。

「助けてくれただけで嬉しいですわ」

 笑ってくれたので、私の方が救われた気持ちになった。


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