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「ここもきれい……これって百合の花?」

「デイリリーだ。一日でしぼんでしまうんだ」

「ええ!」

 一日でしぼむと言っても、かわるがわる蕾がつくので、花の咲く時期の晴れの日は花を楽しめる。

 デイリリーの群生地が見えるところで昼食にすることにした。

「いい天気。風が気持ちいい」

 デイリリーの黄色い花が風に吹かれてそよいでいる。

 ロードリック嬢がしみじみとした声でそうつぶやく。散策を開始した時には上機嫌で声も高らかに喜んでいたが、幾分落ち着いた調子になっていた。


「少し疲れさせてしまったかな。歩いてばかりだったし」

「え? いいええ、まだまだ元気ですよ!」

 気遣えば笑顔がポーズと共に返ってくる。力こぶでも作るかのようなポーズだが、令嬢が服越しに作って見せてもまったく見えはしなかった。

 そんな愛嬌を見せる彼女を好ましく思いながら、昼食の準備を進める。


「果実水とワイン、どちらがいいかな」

「まあ、そんなオスニエル様が自らがお食事の準備を?」

 本当はメイドを伴っていたのだが、ロニーが足を止めてしまったので彼の世話用に置いてきたのだ。

「今は私がホストだからな。昼食にも領地の名産を使っているから説明させてほしい」

 昼食と言っても、外で食べるために簡単な軽食である。私がするのは取り出して並べて説明をするだけであった。



「坊ちゃん、私はこの先の道が崩れてないか見てきますんで。ゆっくりしてて下せえ」

「ああ。頼んだよ」

「……あの方はお食事は」

「彼は移動中に食べるように携行食を持っている。というか、それが彼の仕事のやり方だから」

 仕事中に体を完全に休めてしまうと再び動くときに体が冷えすぎてしまって難儀するそうだ。それゆえ、野山を歩くときは立ったまま食事をとれるようにしているのだとか。

 こんな話もロードリック嬢はしっかりとこちらの顔を見て聞いてくれる。新聞部だから人の話を聞くことに慣れているのだろうか。

 私はあまり女性と話が弾んだ経験がない。こんなに自分の話を聞いてくれる女性がいたことに驚きを覚える。



「こちらは山羊乳のチーズを使ったサンドイッチだ。山羊乳は癖はあるが脂肪分が少なくてあっさりしている。独特の癖は人により好みがあるが、この香草と実に合うんだ。ハムの味も引き立つ」

「ん、んん~~!」

 一口食べたロードリック嬢の目がきらりと輝く。口に合ったようで安堵する。

「チーズも、ハムも美味しいです! こんなジューシーで味の濃厚なハム初めて!」

「隣国はハムとか腸詰め肉が有名だろう。この地も隣接しているから作り方が伝わっているんだ。それに、豚も丁寧に育てている」

「ええ~、美味しい……!」


「こっちはコケモモのジャムと牛乳から作ったバタークリームのサンドイッチだ。この地の牛乳は臭みも少なくてまろやかだ」

「……あっ、この強い酸味のあるジャムがどっしりしたクリームと凄く合ってます! 美味しいー」

 美味しい美味しいと食べてくれて、本当に良かったと思う。


 見守っていると、食べているロードリック嬢と目が合った。

「すみません。こんなにがっついてしまって、はしたなかったわ」

「いやいや。美味しいと言ってくれて本当にうれしいよ」

 令嬢らしく淑やかに食べられれば、こんなに安堵した気持ちにはならなかっただろう。


「なんだか、とても気を抜いてしまうというか……自然体になってしまいますわ。この済んだ空気が気持ちいいせいかしら」

 恥じらってはにかむさまも愛らしい。

「気持ちよく過ごしてもらえるのなら、本望だよ。そういう心をのびやかに過ごせる場所を提供できたらと思っているんだ」

「そうですか……」

 その後しばらく、食事をしながら景色を眺めて過ごした。特に会話がなくても目の前に広がる景色に目を楽しませていると気にはならなかった。




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