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火曜日は、規模が百倍以上違う大手企業H社の中研に行った。大企業が参入しにくい医療分野──単項目の測定機の場合──で共同開発機種があるというのが名目だ。実際は、悪党に会いに行ったのだが…… アポの時間をわざとずらして…… ところが、あいにく悪党は部署にはいず、突発会議の終わりはまだ一時間近くも先らしい。幸い、H社には知り合いが何人かいたので、腰は低いが管理大好きの第一開発部長の目をかすめて、だべりと情報交換を行った。
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本の記述に、つい最近の個人的経験を見つけたときには妙な既視感を味わうが、そのときの会話には二重の感情がシンクロした。まったく考えてみなかった仮定ではないが(ナノテクのことだ!)、現実感が希薄だった。同時にぞくりと背骨に冷や汗が伝い、自分以外の外部環境が希薄になった……ような気がした。色が消える感触。恋人の伴侶に殺される夢を見るときの方が、まだ救いがあるようだ。
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「せっかくだから次長の話を聴いてかない?」
簡単な解析ソフトをもらい、アポの時間に打ち合わせをして帰ろうとすると、悪党がいった。
「営業部員向けの講義だけどね」
「部外社が聞いてもいいわけ?」
「たぶん、平気だと思うよ、まぎれこんでても」
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悪党の次長はある物理場の検証をした世界ではじめての人物で、それで有名になって以来、その手の講義を頼まれることが多くなったらしい。