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バラバラの精神状態のまま出社した。月曜日が来たからだ。試薬原料の納期が遅れたので、長期プロジェクトの方に手を延ばすことにする。膜の自立振動を利用した何かのセンサ。それが実際何になるかは自分←ミライにも想像がつかない。とりあえず食塩の濃淡で人工脂質膜のふるえの測定を続ける。種類と成分を変えたそれらの膜をいくつか組み合わせれば、味覚センサができあがる。それが、この闇プロジェクトの表の顔。つまりは逃げ手だ。
一週間に一度か二度、暇を見つけては値を読む。測定値はバラバラで、いまのところ意味をなしているようには、とても見えない。だが、もちろんそれがわからないだけという可能性もある。把握にはそれに見合った認識が必要なのだ。対象と電荷が対数回帰のシグモイドで、三桁か五桁が比例関係という、これまでのセンサとは同列に扱えない……と考えてみる。モンテカイロしても良いが、悪党に相談して多重フーリエ解析を試してみようかとも考えた。振動制禦の境界条件も考慮しなくてはいけない。
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老概を数年前から実行中の会長から呼び出しがあって、いつものように不快になった。開発して市場に出ているセンサ類その他に対する合同委員会だったが、営業出身者のいい分は、単色と合成した同色以上に客観性に欠けている。結果が同じに見えれば、原因が経験からの推定しか思いつけないのだ。もっとも、そういった会社の不快な日常もLSIを記憶細胞センシングから遠ざける利点は持っている。