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部屋が硬い感じに包まれて、天井が脈打つように蠢いた。それが心臓の鼓動と同期して、ぐるぐるとまわりはじめた。そう思った瞬間、歯が割れていた。それに先立つこと数時間、ジクジキしていた右顎上の親知らずの痛みは、半分の鎮痛剤色でけだるく眠りを誘っていた。頭の先から足の爪先まで直進する硬直〈ぴきん〉がそのとき訪れ、「ぎゃっ」という悲鳴が喉奥から自然に漏れた。おそるおそる右手の人差し指の先をその歯に近づけると、細い針金が突き刺さった……ような気がした。
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少なくとも、そのときはそう思った。
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土曜日の夜九時半。
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鍵をかけてアパートの戸を閉める。階段を降りる。路上に出る。大通りを抜ける。坂道を昇る。街灯を見つめる。蛾が止まっている。砂を踏む。公園に着く。
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ネットに入ってもフォーラム形式じゃ意味がない、とはミライの思い。基本的にはいつもROMだったし、それに、そのことが他人に知られるのが怖くもあった。気が触れていると自覚するのもよろしくない。だが〈気〉が、いったい何に触れるというのか? ブログの中には精神科医の相談所もあったが、そのLSIは掌上にあり、見える、確実に存在する。せめて、それが見えなくなれば、自分が狂っているという自覚にも納得がいっただろうが……