(料理というものを知らない)先輩と後輩の3分クッキング
「先輩と〜」
「後輩の〜」
「「3分クッキング〜!」」
「で、先輩って料理したことあるんですか?」
「ないに決まってるだろ。お前は?」
「ないに決まってるじゃないですか。家族が作ってくれない時はずっと出前取ってますよ」
「どうするんだよ……」
「どうも出来なさそうですね」
「調べることも禁じられてるからなぁ……材料だけは山ほどあるけど」
「ふむ、では仕方ないですね」
「諦めるのか?」
「笑わせないでください。この私が諦めるとでも?」
「まあ、確かにそうだな……すまん。何か良い案があるのか?」
「いえ、ないです。ノープラン」
「ないのかよ! え、マジでどうすんの?」
「早とちりしないでください。プランがないことは諦める理由になりません。要するに、プランを作れば良いのです」
「それは……つまり……どういうこと……?」
「私たちで料理とは何か考えて、まともなものを一から想像しよういうことです」
「というわけで、まずは調理が簡単そうなサラダを作るために野菜を持ってきました」
「なるほど、良い考えだな。して、サラダはどう作るかだが……切るだけ、だよな?」
「はい、サラダは切った野菜を盛り付ければ完成でしょう。しかし……」
「しかし?」
「土から生えている葉っぱが、綺麗なわけないですよね」
「確かに……! じゃあ、どうするんだ? 水で洗ったりするのか?」
「水に流しただけで菌が取れると思いますか? 外から帰ってきた時、先輩は何をつけて手を洗うんです?」
「はっ、石鹸……!? いや、ダメだろ。腹壊すよ。流石にそれくらいは分かる」
「まあ、そうなんですよね……というわけで、私は第二案を用意しています」
「……焼き、か?」
「ふふ、やるじゃないですか。そうです、焼いてしまえば高温で菌は死にます」
「しかし、焼くと言ってもどれで焼けば良いんだ……?」
「さまざまな形状のものがありますね……とりあえず、飛び出て落ちてしまったら元も子もないので、底が深いこれを使いましょうか」
「なるほど、名案だな」
「なあ、これ本当に合ってるのか? 焦げ臭いんだが」
「間違ってはいない……はず、です。たぶん」
「ずいぶん自信がなくなってきたな! どうする? やめるか?」
「いえ、待ってください……もう少しで、何か……そうです!」
「お、何を思いついたんだ?」
「熱さで菌を殺すだけなら、熱い水につければ良いんですよ!」
「お前……天才かよ! 早速やろう!」
「ちょうど、この底は深いやつは水を溜めれますし、これ使いましょうか」
「そうだな。ちょっと水汲んでくる」
「お願いします!」
「お前、絶対これだよ! なんか菌が死んでる気がする!」
「そうですね……して、どうやって取り出しましょうか、これ」
「嬉しくなって適当に切った野菜いっぱい突っ込んじゃったけど、確かに取り出す方法考えてなかったな……」
「先輩が火傷覚悟で腕突っ込んで取ってくれません?」
「嫌だよ! 沸騰した水に腕を突っ込む勇気はないよ!」
「仕方ないですね……これ、使いましょうか」
「それは……ゴム手袋?」
「これで少し熱さが軽減されると思うので、先輩が腕を突っ込んで……」
「だから嫌だって! え、そんなに俺の腕火傷させたいの?」
「冗談です。案は考えてますよ」
「……火傷しないよな?」
「箸を使いましょう。これで手を火傷せずに済みます」
「考えてるなら最初からそれを出してくれよ……」
「というわけで、サラダ完成です〜!」
「ううん……なんか全体的にしなっとしててあんまり美味しくなさそうだけどな……」
「まあ、良いのです! どうせサラダなんてドレッシングの味ですから!」
「農家さんに怒られろ!」
「農家で思い出しましたけど、ご飯が必要ですね」
「あっ、確かに。ご飯は確か炊飯器で炊くんだよな?」
「ええ、私もそこまでは知識を持っています。あとは、どうやって炊くか……そもそも炊くって何……って話をしましょうか」
「炊く……漢字的には、火を欠くな訳だが……」
「うーん、炊飯器の近くで火をつけたり消したりするんでしょうか。意味あるんですかね、それ」
「それが炊飯器の起動スイッチとか?」
「ずいぶん面倒臭い起動方法をしてるんですね……」
「まあ、百聞は一見にしかずだ。とりあえず炊飯器見てみようぜ」
「いやーそうしたいのは山々なんですが、どれが炊飯器か分かるんですか?」
「確かに……炊飯器自体が分からない俺らはどうすれば良いの?」
「ふむ、詰みですね」
「諦めるなよ! あんなに諦め悪い感じ出しといてさ!」
「嘘です。要するに、ご飯はお米です」
「そうだな」
「そして、お米は多分そのままでも美味しいでしょう」
「なんだその暴論! え、本当にそれでいくつもりなのか?」
「もう覚悟は決めました」
「えぇ……」
「次は汁物ですが……これはさっき野菜を殺菌してた水に味噌を入れたら良いでしょう。お湯に味噌。つまり味噌汁になるはずです」
「なんかお前適当になってない?」
「気のせいですよ」
「そうかなぁ……」
「最後にメインですね」
「肉か魚だな」
「まあ、選ぶとしたら肉でしょうね」
「その理由は?」
「焼くイメージが強いから」
「確かに! 肉は焼けば終わりだもんな、多分」
「魚はどれを生で食べるとお腹壊すかが分からないですし、焼き方も難しそうなので今回はパスで」
「じゃあ、肉だけど……どれが何肉なんだ? どれ焼く?」
「分からないので、とりあえず全部焼けば解決ですね。この鉄板を使いましょう」
「やっぱりお前適当になってきてるよな」
「気のせい気のせい」
「「完成〜!」」
「……で、本当に良いのか?」
「良いのです! 何も知らずに始めたにしては上出来でしょう!」
「そう、なのかなぁ……」
「そうです! 変に疑っても良いことなんてありませんよ! 美味しいと思って全部食べれば美味しいのです!」
「適当さを勢いで押そうとしてない?」
「気のせいです!!!」
「「いただきます」」
「……うん。まあ、サラダはなんというか……」
「しなっと、してますね……まあでもドレッシングが美味しいからいいでしょう」
「良い……か。食べられないほどじゃないしな」
「そういうことです。次、ご飯いきましょうか」
「いや、かってぇ! やっぱ無理だぞこれ」
「限界を越えるのです……! 噛み砕いてやる……!」
「いや、どこで全力出してんだよ……まあ、飲み込むか……腹壊したりしないよな?」
「まあ、この際少々の腹痛は許容しましょう。私は諦めました」
「あれだけ諦めない感じだしてたのに……料理には屈しちまったか」
「そうですね。次、味噌汁です」
「これは……飲めないことも、ないけど……」
「なんというか、薄いし苦いですね……」
「野菜の悪さ全部と、年寄りに配慮した味の薄さを足したらこんな感じになりそうだな……」
「まあでも、これも飲めなくはないから合格ですね」
「合格基準低いなぁ……」
「次、お肉ですけど……これ、本当に食べて良いやつですかね?」
「お前がこうしたんだろ! 食べたくないなぁと思ってるのは俺も同じだけど」
「うーん、このいろんな肉が混ざり合って焦げまくった塊に果たして美味しさの概念はあるのでしょうか……」
「ないだろうなぁ」
「ええいままよ!」
「お前、漢だな!」
「女です! 今日一美味しくないです!」
「俺の分もお前に上げるとかダメか?」
「ダメです。ちゃんと食べてください。一緒に地獄を味わいましょう?」
「嫌だなぁ……ま、でもそういうものか」
「一気! 一気!」
「馬鹿、やめろ……って、うげぇ。ガチで不味いなぁこれ!」
「一気! 一気!」
「いつまで言ってんだ。お前と同じく、ちょびちょび減らしていくよ」
「むう、まあ良いでしょう」
「なんで不服そうなんだ……」
「はぁ、はぁっ……食べ終わりましたよ!」
「お疲れさま……いや、本当にキツかったな」
「キツかったですね。悟りが開そうです」
「もう一生料理はしなくていいや……」
「……私は、また先輩と料理したいですけどね」
「え? お前またこのダークマター食べるつもりなのか?」
「違いますよ! こう、料理だけは別の人に食べさせるとかして……」
「悪魔かよ! まあ、そうだな。今度は普通に調べて美味しいものを作ってみようぜ」
「そうですね……約束です。約束ですよ!」
「分かった分かった。じゃあ、最後に」
「「ごちそうさまでした」」