週末にみんなで出かける約束をした
僕が授業を終えて寮の部屋に帰ると、レオとタイムはもう帰っていてくつろいでいた。
まだ寮の夕飯まで時間がある。
僕は制服を脱いで着替えをする。
「アスラ。今週末、ステラたちと街に遊びに行くことになったぞ!」
レオが僕に楽しそうに言った。
「え? あの後、そういう話になったの?」
「ああ。ステラもメイノもあんまり行ったことないって言うからさ。アスラもそうだろ? 俺はこの街の出身だから遊べるところ案内できるぜ。」
「へえ、それは楽しみだな。」
レオとファーはここ東の国イーストラの出身で、タイムは僕とステラと同じく中央センドダリアの出身。
メイノは西の国ウェスカの出身だと聞いていた。
「ファーも来るかな?」
「ステラは誘うって言ったぞ。」
「そうか。」
僕は今まで友達と遊んだこともなかったし、外の街に行く機会も全然なかった。
それにステラたちも一緒だ。
僕は今から週末が楽しみになっていた。
あと三日かな?
いや、今日はもう終わったからあと二日か。
よーし、あと二日頑張るぞ。
そして、待ちに待った週末が来た。
「この格好で大丈夫かな? 変じゃないかな?」
僕はどんな服装で街に行けばいいのかわからず、レオに聞いた。
家から持ってきた私服はそんなに多くない。
これは僕が持ってる服の中で一番フォーマルな服だった。
「いや、いつもの普通の格好で大丈夫だって。パーティに行くんじゃないんだぞ。」
「……そうだよね。ちょっと着替えてくる。」
「アスラ……、浮かれているねえ。」
「って、いや、タイムも! いつもの格好って言ったって女の子も一緒なんだぞ? そんなヨレヨレのシャツってありえねーだろ!?」
「あ、これ……、ダメかな?」
「あーもう! アイロンかけてやるから貸せって!」
結局、僕は着る服をレオに選んでもらった。
……はあ、緊張してきた。
街の人からどう見られるだろうか?
「アスラたち、遅いよ!」
僕らはすっかり支度に時間がかかってしまって、待ち合わせ場所の校門でステラたちを待たせてしまっていた。
「ごめん、ステラ。ファー、メイノ。」
僕は待ってくれていた女子たち三人に謝った。
「待たせて悪かったな。こいつら全然服選べねーんだから。」
「あ、それ言わないでよ、レオ!」
レオが自分のせいじゃないと僕とタイムを指さして言った。
僕らの掛け合いがおかしかったのか、機嫌を損ねかけていたステラがつられて笑う。
「はぁー、メイノちゃん可愛いね……。」
「ありがとうございます、タイムくん。」
メイノが笑顔で応える。
タイムはさっきからメイノだけ見ている。
たしかにメイノはふわっとした白いワンピースにつばの広い帽子を被って、持っているバッグも白で揃えていて可愛い。
「ステラ、似合ってるね。」
「そうかな……? これ、頭、ファーにやってもらったの。」
ステラは水色のシャツに紺のパンツ姿だ。
小さいバッグを肩にかけて、その白く光る髪を編んで丸めて頭の乗せている。
はぁ、垢抜けた我が妹君の姿に驚かされる。
少し離れたところにファーも立っている。
ファーは足首が隠れるくらいの長さのある茶色いスカートとクリーム色のTシャツだった。
何気なしに僕はファーに近づいて言った。
「ファー。ステラの頭キレイにまとめてくれてありがとう。すごいね。」
「別に大したことじゃ……、ステラが可愛いからどんな髪型もよく似合うのよ。」
「そうなのかな? あんなステラは初めて見たよ。」
「ふーん。」
今日はファーと普通に話せている気がするけれど、ファーはステラたちの方を見たままで僕とは目を合わせようとはしてくれない。
「よし、それじゃ街の通りまで行くぞ。魔法車を手配してあるから、ほら乗ってくれ。」
レオが用意してくれていた魔法車で僕らは街まで移動した。
僕とステラは通り過ぎる外の景色が珍しくてずっと見ていた。
レオがいろいろ解説してくれる。
公園や広場、劇場や博物館の前も通った。
僕とステラは、中央センドダリアにいた時は、家の外で連れて行ってもらえるところと言えば劇場や博物館や図書館だけだった。
だから僕はそういう施設が好きだ。
東の国のそれにも興味がある。
また今度行ってみたいと思った。
魔法車は大きな通りまで来て僕らを降ろした。
人通りも多いし様々なお店が並んでいる。
とても賑やかなところだった。
「この街で休日に一番賑わうのはこの『メリーの通り』なんだよ。」
「へええ。メリーって?」
「いや、なんか昔そういう人がいたとかなんとか……。詳しいことは知らねえけどさ。」
「あ、あのお店で売ってる食べ物は何? ぐるぐる巻きだ!」
僕はのぼり旗がいくつも立っているお店が目についた。
たくさん人が並んでいて、なんだが良い匂いがする。
「あれはスネイクケーキだな。ヘビみたいに長い餅なんだけどいろんな味があるんだよ。」
「おー、ミックスフルーツ味なんていうのもあるって!」
「ははは、じゃあ先に食べ物買うか。みんなもそれでいいか?」
レオがみんなに聞いた。
「私はいいですよ。チョコ味にしようかな。」
「もう、アスラ、はしゃぎすぎじゃない? 私はレッドベリー味がいいな。」
「……私はマスタード・チリ味にするわ。」
ステラたちも僕と一緒にお店の前の行列に並んだ。
僕がミックスフルーツ、ステラがレッドベリー、メイノがチョコで、ファーがマスタード・チリ、レオがシュガーで、タイムは生クリームにした。
「歩きながら食べるの?」
「ああ。食べやすい形になってるんだよ。」
「歩きながら食べるの初めてだよ。うまく食べれるかな。」
慣れてるのかレオたちはパクパクとスネイクケーキを食べながら歩く。
でも、僕とステラはついつい口に入れる時に立ち止まりがちになった。
でも楽しいなあ!
「ねえ、アスラ。ファーは優しくて良い子なのに、どうしてアスラはファーとケンカしてるわけ?」
みんなから遅れがちになり、少し距離が出来た時にステラが僕に聞いた。
「ステラから見てそう見えるならやっぱりそうなのかな? ……はぁ……そんなの僕が聞きたいよ。」
どうせファーを怒らせるようなことをしたんでしょとステラは呆れ顔で言った。
「あとでファーと二人きりになれるようにするからちゃんと謝りなさいよ。」
「うん。全然心当たりが無いんだけどね。わかった。謝ってみる。」
「おーい、アスラ、ステラ! 遅いぞー!」
レオたちが立ち止まって僕らを待ってくれていた。
僕らは慌てて追いついた。
その後、レオの案内で雑貨店や服屋などを見て回ったり、カフェでお茶を飲んだりした。
そろそろ帰ろうかというところで、レオとタイムがトイレに行ったタイミングで、ステラとメイノも席を外した。
ステラが僕にアイコンタクトを送る。
つまり、僕がファーに謝るのは今だということだ。
アイスティーを飲みながら窓の外を見てるファーに僕は声をかけた。
「ファー。もしもだけど、僕が何かしてしまったなら謝るよ。」
ファーはそのキリリとした瞳で、僕の目を真っ直ぐに見て聞いた。
「何? どうして謝るの?」
僕は不意打ち的にファーと目が合ってドキッとした。
不思議そうに僕に問いかける目。
僕を睨んでいる目ではない。
これが本来の、みんなが見ているファーなのだ。
僕はファーが少しカミエラ先生に似ているように思ってしまった。
「いや、なんか僕と話す時いつもファーは怒ってるのかと思って……。」
「別に怒ってない。……ねえ、それよりもあなた、あの時のあの魔法どうやったの?」
ファーは僕から目を逸らさない。
僕はドギマギしてしまい挙動不審になる。
「あの魔法って? 入学式の? どうって……? なんだろう? 校長先生に言われた通りにやったらできたっていうか……。」
「校長先生の? ……そうか、そういうことだったのね。」
「そういうことって?」
僕の言葉を聞いたファーの眉間に皺が寄って、ファーの顔はいつもの僕を睨み付ける目に戻ってしまった。
僕はわけがわからず、冷や汗が出た。
「あんな魔法、いきなり使えるわけない。ずっと納得できなかった。校長先生が仕掛けていたのね。……そんなのってズルじゃない! ……私、ちょっと凄いって思っちゃってたのに!」
「え? どういうこと?」
何故か怒りだしたファーは席を立って帰ってしまおうとした。
「待って! ファー!」
「アスラ、何やったの!?」
ファーを追いかけようとした僕を制止して、ステラが慌ててファーの後を追っていった。
なんでなんだファー。
やっぱり怒ってるじゃないか……。
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