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賢斗は僕であって僕ではない

 ジリリリと目覚まし時計が鳴り響く。

 うるさいな。

 僕は乱暴に時計の頭を叩いてその音を止めてまた布団に入る。

 どうせ、五分後にはまた鳴るだろう。

 寝ぼけた頭でも、僕は時計を完全には止めてしまわないようにという意識だけは持っていた。

 遅刻はしたくないけれど、もう少し寝ていたい。

 十七歳。

 難しいお年頃なのだ。


「賢斗! いい加減起きないと朝ご飯食べてる時間もないよ!」


 僕の部屋のドアを開ける音と共に、懐かしい少女の声が聞こえる。

 ……懐かしい?

 なんで懐かしいんだっけ?

 昨日も僕は彼女の声で起こされたはずだ。

 僕は寝ぼけた目で彼女を見る。

 彼女の顔はぼやけていてよくわからない。

 おかしいな。

 僕にとって彼女は一番身近で一番大切な存在だったはずなのだが。


 僕は制服に着替えて朝食のパンを食べて高校に行く。

 彼女と同じ高校だった。

 この高校に受かるために僕は必死で勉強をした。

 今じゃもうあの努力も何だったのかっていう成績だけど。


「賢斗は明日どうするの?」

「どうって来週テストだぞ。勉強するしかないだろ。」

「げげげげ、真面目! それでどうしてあの点数になっちゃうのよ?」

「うるさいな! 俺だって聞きたいよ!」


 ははは。

 『俺』って。

 そういえば僕は昔俺だった気がする。

 これは昔の夢かもしれない。

 賢斗は僕のことだ。

 思い出してきた。

 彼女はそれなら一緒に勉強しようとあの時僕に言ったのだ。


「ねえ、賢斗。良かったらさ、一緒に勉強しない? わかんないところあったらさ、私が教えてあげるよ。」

「え? いいの?」

「しょうがないじゃないの。あの成績じゃ進学できないよ?」

「うん。じゃあお願いしようかな。……もしかして、二人きり?」

「……うん。明日、家に私しかいないから。」


 僕はこの時、とてもドキドキしていた。

 彼女は毎日のように僕の家に来ていたけれど、僕が幼なじみだった彼女の家に行くのはきっと小学校以来だ。


「それじゃ、明日ね……!」


 彼女が僕に手を振って、家の前で別れる。

 彼女の家、彼女の部屋……。

 僕は鮮明に思い出せる。

 でも今、目の前で手を振っている彼女の顔を僕は思い出せなかった。

 彼女……名前は何だっけ?


 ねえ?

 君はいったい、誰なんだ?

 僕?

 僕は賢斗……。

 いや、違う。

 僕はアスラだ。

 僕は賢斗だったけれど、今は賢斗じゃない。

 賢斗はもういない。

 そして彼女ももう……。

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