自慢の妹なんで剣姫と呼んでやってください
「ようこそ、私の魔法学校へ。この魔法学校は今までも多くの魔法使いの先輩たちが巣立っていった伝統ある学校です。そして共学になって、魔法使い学科、騎士学科、神官学科を新設してから今年でちょうど十年を迎えます。これまでに騎士、神官になった先輩たちもそれぞれの場所で活躍しています。君たちもこの魔法学校の名に恥じない生徒になってください。」
講堂の中心の台の上で校長先生がそう演説すると拍手が巻き起こる。
僕も拍手をしておいた。
けど、まだ僕は席の後ろの方で立ったままだった。
続いて先生たちが紹介される。
どうやら、その中の青い髪の女性が魔法使い学科の担当の先生のようだった。
「私は瑠璃色の魔法使いルカよ。魔法使い学科の担当ね。得意なのは氷魔法だけど、回復魔法以外なら何でも教えられるわ。」
青い髪のルカ先生はそう言うと持っていた杖をかざして講堂に雪を降らした。
再び講堂に拍手の音が響く。
魔法、凄いな。
実を言うと僕は魔法を使ったことがないどころか、あまり見たこともなかった。
なんせ家から出たことも数えるほどしかないし、家の中には魔法を使える人間がほとんどいなかったからだ。
……僕にもあれができるようになるのだろうか?
「僕は神官学科担当のポポスです。回復魔法は僕が得意かな。あと普段は研究室にいますから用があったらそちらに。どうぞよろしく。」
白衣を着た少し太った感じの男性は神官学科のポポス先生。
ポポス先生はルカ先生とは違い、特に目立つようなアピールをしなかった。
「私は騎士学科の担当のグレートだ。私も何かやった方がいいかな? 見よ! この筋肉!!」
騎士学科のグレート先生は急に服を脱ぐとその肉体をアピールするポーズを決めた……。
さっきのルカ先生が降らせた雪のせいもあるだろうけど、明らかに講堂の温度が数度下がったと思う。
パチ、パチ、とわずかながらの社交辞令的な拍手が聞こえる……。
「よしそれじゃあ次は生徒の中から代表で何人かにも何かやってもらおうかな。親睦も深まるだろうし。まずは騎士学科からステラくん!」
校長先生が急にステラの名前を呼んだので僕は慌てて壇上を見た。
遠くの騎士学科の席でステラが立ち上がり、そして中央の台の上に上がるのが見える。
さっきは様子が変だった気がしたけれど大丈夫そうだ。
台の上は光の魔法で照らされていて、ステラのその白い髪が光を反射してより一層際立って見える。
おお、という声が生徒たちの間から聞こえる。
そうです。
あれが僕の妹なんです。
僕は密かにステラのことを尊敬していたし、ステラがこうやって注目を集めることを誇らしく思っていた。
僕にとってステラは自慢の妹なのだ。
ステラはグレート先生から剣を受け取るとピッと構える。
ピリリと空気が一変する。
みんなが息を飲み、講堂は静寂に包まれる。
ステラはそこから演舞を披露した。
我が家に代々伝わる『ガラストラスの剣』の型だ。
あそこまで美しく舞えるのはステラだけだと僕は思う。
ステラが舞い終わると今までで一番大きな拍手に講堂は包まれた。
やっぱすごいよステラは。
「じゃあ次は魔法使い学科から……。」
校長先生がそう言い終わらないうちに、入試一位と言っていたファーが当然自分が呼ばれるものだと先に立ち上がった。
「アスラくん! ちょうど立ってるね! こっちに来てくれるかい!?」
「は!?」
校長先生が僕の方を指さす。
いっせいに生徒たちが僕を見る。
ファーが耳まで真っ赤にしながらもの凄い形相で僕を見ているのがわかる。
なんでだよ!?
「アスラくんは、先ほどのステラくんのお兄さんなんだよ!」
ちょっと校長先生!
何言ってくれてるんですか!?
くそぉ、ステラの名前を出されたら、僕はステラに恥をかかせられない。
でも魔法?
校長先生はどういうつもりなんだ!?
僕は恐る恐る、壇上に上がった。
双子だから顔が似ているとか、女みたいな顔してるとか、余計な声ばかりが生徒たちの方から聞こえてきて、僕の緊張感が最高潮に達する……。
席に戻っていたステラの方を見ると、ステラは不安そうな顔で僕を見ている。
そして正面を見ると、ファーがまだ僕を睨みつけている。
もう!
そんな顔をするなら変わってくれよ!
「大丈夫。魔法はイメージだよ。やってごらん。」
校長先生が僕にそう囁いた。
本気か?
僕は魔法を見たこともないのに?
いや、魔法ならさっき見せてもらったか……。
雪を降らす魔法……。
僕は目を瞑り手をかざしてイメージをした。
雪って何で出来てるんだ?
氷?
水?
確か小さな水が凍って固まって結晶を作る……。
水分は空気中から集められる。
凍らせるには熱を奪う必要がある……。
あれ、なんで僕はそんなことを知っているんだ?
いつの間にか僕は集中していて、余計な雑音は何も聞こえなくなっていた。
それよりも、自分の中から何か大きな手が出て前方の空間に何かを描いているという感覚がある。
これが魔法なのか?
いや、なぜか僕はこれでいいんだという確信を持っていた。
自分の中で何かが確かに存在感を持ってきている。
その時僕の耳に、生徒たちの、おおお、という声が聞こえた。
「アスラ!!」
ステラの僕を呼ぶ声も聞こえる。
わかっている。
僕は目を開けてみた。
すると目の前には大きな雪の結晶が出来上がっていた。
他にも講堂の空間のあちらこちらに大小様々な雪の結晶が出来上がり浮かんでいる。
そう。
これは僕が魔法でやったのだ。
目の前の大きな氷の結晶はキラキラと光っていてとても綺麗だった。
結晶に反射した光の魔法が七色の光になり周囲を照らしている。
これを僕が作ったという実感と、信じられないという気持ちが同時に起こっている。
「すごい。」
僕は思わず声に出した。
「はい、どうもありがとう。アスラくんでした!」
パチパチパチパチ!
校長先生のアナウンスをきっかけに僕は盛大な拍手に包まれた。
「ほらね。出来ただろう?」
校長先生が僕を見てふふふと笑って言う。
拍手が鳴り止まない。
僕がこんな舞台で大勢から拍手をもらうことなんて今までなかった。
僕は照れを感じながらも高揚感を持っていた。
みんなに褒められるっていうのは、こんなに気持ちいいことだったのか。
……しかし、この魔法はどうすれば消せるんだろう?
僕は手を下ろすことができないでいた。
「よく出来たわね。……? もういいわよ?」
ルカ先生がいつまでも動けないでいる僕の異変に気付いて近づいてきた。
「あ、あの、先生。僕、これ止め方わからないんですが……。」
「え?」
急に僕の力がふっと抜けてしまうように消えた。
目の前の氷の結晶が形を失い、パラパラと周囲に振り落ちる。
僕は立っていられなくなり、その場に倒れた。
「ちょっと!? 大丈夫!?」
どうやら僕はルカ先生の腕の中で気を失ったようだった。
何故か遠のく意識の中で僕を呼ぶステラの声が聞こえる。
そして校長先生の声も……。
「うーん。少し荒療治になってしまったかな。でもこれで彼も目覚めたはずだ、転生者として。まさか双子でなんて私も想像してなかったよ。」
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