何が起こった?
僕とレオはなるべく音を立てないように校舎の入り口の方に近づいた。
僕は念のため自動防御魔法を発動させて腕に付け、レオは剣を持っている。
しかし、校舎の入り口に近づくと、意外にも先ほどの帽子を被った男性がまだそこにおり、僕らは難なく見つかってしまったのだった。
「おや、君たちはこの魔法学校の生徒かね?」
「あー……はい、そうです。どちら様ですか?」
僕らは男性に怪しまれないように作り笑いをしながら挨拶を返した。
「いや、私は中央センドダリアの外交官でユウキと言う者だよ。校長先生に用があってね。」
「あ、そうなんですか。いらっしゃいませ。ははは。」
ユウキ氏はくるりと巻いたあごひげを頻りに触っては校舎の中を見ている。
どうやら勝手に中に入ってよいものかどうか、と考えあぐねているといった様子だった。
「どうだ、アスラ?」
「いや、全然普通な雰囲気だよね……。」
校長先生のお客様ということなら疑う方がおかしいだろう。
直接当人と話すことになるとは思わなかったし、ここは退散しようと思っていたところ、ユウキ氏は僕の方を見て何かに気付いたように声をあげて言った。
「おやや! 君はもしかして中央センドダリアのコウタ議員の息子さんじゃないかね?」
「え、父を知ってるんですか?」
コウタというのは僕の父の名前である。
「知っているとも。コウタ議員にはよくお子さんの写真を見せてもらっていたんだ。だから君のこともわかったよ! 大きくなったね!」
「あ、ありがとうございます。」
「そういえば、もう一人、娘さんもいたよね。」
「はい、ステラもこの魔法学校の生徒です。」
「そうか、そうか。コウタ議員には、よく自慢話を聞かされたよ。」
「そうなんですか。」
ユウキ氏は父の知り合い……。
どうしよう?
僕はもうこれ以上はユウキ氏に突っ込んで聞いてはいけない気がしてしまっていた。
今のうちに完全に疑念を晴らしておきたいという気持ちもあるのに。
僕が迷っているとレオが僕の代わりにユウキ氏に質問をした。
「あの。ユウキ殿はこの魔法学校の剣術大会はいらっしゃらなかったんですか?」
「ああ、招待はされていたのだけれども、急な用事があってね。丁度中央センドダリアに帰っていたのだよ。」
「そうでしたか。すみません、変なこと聞いてしまって。さっき話題に出てたこいつの妹のステラがその剣技大会で優勝したものですから。」
「ほお、そうだったのか。それは凄いな!」
レオが僕が聞きたかったことを聞いてくれた。
やはりユウキ氏に疑う余地は無い気がした。
話しやすい人柄のように見られるし、嘘は言ってないと思った。
……僕は、憑依者と聞いただけでユウキ氏を疑ってしまった自分を恥じた。
そしてユウキ氏に心から謝った。
「あの、ユウキさん。ごめんなさい。」
「んん? どうしたのかね。」
「実は……僕、ユウキさんのこと最初、怪しいって思ってしまっていて……。」
「なんだね、そうだったのかね。それは仕方ないことだよ。私は学校の部外者だからね。」
「本当にごめんなさい。」
「よいよい。……ところでなんだが、もしも都合が悪くなければでいいのだが、校長先生のところまで案内してくれないかね?」
「あ、はい。もちろんです。こちらです。」
ユウキ氏を疑ったことを後悔していた僕は元気が無くなっていたが、それを察したレオがポンポンと何も言わずに僕の肩を叩いてくれた。
レオがいてくれてよかった。
僕らはユウキ氏を校長先生の部屋の前まで案内した。
校長先生の部屋は校舎の一番上の階の奥の方にある。
初めて訪れた人は案内がなければ辿り着くのは難しいかもしれない。
「やあ、どうもありがとう。」
ユウキ氏は帽子を脱いで僕らにお辞儀をしてお礼を言った。
「いえ。」
僕とレオもお辞儀を返した後、部屋に入るところまで見送ろうとした。
ユウキ氏が校長先生の部屋の前の犬とも猫とも似ている動物の絵の前でノックをしようと手をかける。
とその時、その犬とも猫とも似ている動物が急に大きくなったかと思うと大きな口を開けて僕らをバクリと飲み込んだ。
「は?」
僕は何が起こったのかわからなかった。
次に僕の目の前に広がったのは汚い埃まみれの床と灰色の石の壁、汚れた窓、ガヤガヤと外から聞こえる音、明らかに魔法学校とは違う部屋だった。
空気が違う。
魔法学校の異空間の外に違いない。
「いらっしゃいませ、外交官どの。実は、お尋ねしたいことがありましてね?」
急にその声がして僕らの前にその男が座っていることに気付いた。
男は黒いフードとマスクで顔を隠している。
やっと僕は周囲の様子を把握できた。
その男とユウキ氏が対峙し僕の横にはレオがいる。
「お尋ねしたいのはアレの場所なんですけどね? って、ありゃ!? なんだお前らは!?」
黒いフードの男は僕とレオを見るなり大声で怒鳴った。




