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敦君はいつだって楽しそう

作者: 下菊みこと

「日向ー!見てくれよ!こんなところにエロ本捨ててあった!」


「敦君はいつだって楽しそうだね」


「当ったり前だろ!人生楽しまなきゃ損じゃん!」


「まあそれはそう」


ー…


「日向ー!見てくれよ!俺赤い羽根募金しちゃった!」


「敦君、偉い偉い」


「あははは!だろー?」


「ところで私のプリン知らない?」


「…」


「はい、目を背けない。こっち向いて」


「…」


「何か言うことは?」


「ごめんなさい」


「よろしい」


ー…


「日向ー!見てくれよ!子犬拾った!」


「あれまあ。おじさんなら飼うの許してくれそうだけど、連れて帰るの?」


「ん!可愛いし、見捨てらんねーよ」


「そっか。動物病院予約しちゃうね」


「おー」


ー…


「日向ー!見てくれよ!あん時の子犬正式にうちの子になった!」


「よかった!名前はどうするの?」


「敦!」


「自分の名前付けるの!?」


「だってカッコいいだろー?」


「謙遜って言葉知ってる?」


ー…


「敦君大きくなったねー」


「だろー?」


「いや、敦君も大きくなったけど、今のは子犬の方の敦君に言ったんだよ」


「紛らわしいなー」


「自分で名付けておいてなんて理不尽な」


「子犬の方は敦ちゃんな」


「はいはい。敦ちゃんは可愛いね!」


「くぅーん」


「なんかジェラシー」


「もう、敦君たら」


ー…


「日向ー!見てくれよ!俺敦の散歩してんの!偉くね!?」


「偉い偉い」


「だろー?」


「ところで今日病院だったよね?結果は?」


「ん?あー、再発してたわ」


「…え?」


「明日からまた入院。日向、寂しがるなよ」


「…私は…別に…」


「そっか。なら良かった。敦のこと頼むな」


「そんな言い方しないでよ。まるで最期みたいな…どうせ今回も早期発見だったんでしょう?またすぐに退院出来るんだよね?」


「…あー。えっと」


「…敦君?」


「ごめん。色々手遅れらしい」


「…!」


「…だから、終末期医療のとこ行く。…見舞い、来てくれよな」


「…」


「日向?」


「…ごめん、今ちょっと…無理。帰る」


「日向!…ごめん」


「…っ!」


ー…


「日向ー!見てくれよ!俺早くも同室の爺さん達と仲良くなっちゃった!」


「何楽しそうに将棋してんの?バカなの?心配して損した」


「あははは!ごめんごめん、でもほら、人生楽しまなきゃ損じゃん!」


「まあ、それはそう」


「爺さん見てー、俺の彼女ー」


「まだ彼女じゃないし!」


「まだ?もしかして脈あり?」


「そうだよ!気付くの遅いよ!」


「…え?マジで?」


「マジで!」


「…好き!付き合って!」


「敦君のバカ!言うのが遅い!好き!」


「日向、愛してる!」


「私だって愛してるよ!」


ー…


「日向ー!見てくれよ!隣の爺さんから梨貰えたー!」


「はいはい、今剥くから貸して」


「日向って器用だよなー」


「いっつも敦君に付き合わされてるからねー」


「でも楽しいだろ?」


「まあ、それはそう」


ー…


「日向ー!見てくれよ!外泊の許可出たから久しぶりに敦の散歩してんの!」


「偉い偉い」


「だろー?」


「ところで、明日も自由なら一緒にデートに行きませんか?」


「マジで!?行く行く!」


「わんっわんっ!」


ー…


「日向ー!見てくれよ!俺この間のデートの写真印刷したんだよ!これ日向の分!」


「ありがとう、敦君!」


「いやー、デート楽しかったなー。次はどこ行く?」


「今日遊園地行ったから、水族館行こ」


「おー、いいぜー」


ー…


「おじさん!敦君が急変って!」


「うん。日向ちゃん、最期に会ってやってくれ」


「…はい!」


桜吹雪の中、一緒に駆け回った。夜空に打ち上げられた花火を、一緒に手を繋いで見た。秋晴れの日に、一緒に栗拾いに行った。雪が降る中、一緒に寄り添って温めあった。いつだって一緒にいるのが当たり前で、居なくなるなんて考えたこともなかった。


「敦君、敦君聞こえる!?日向だよ!ねえ、聞こえる!?」


「…」


「ねえ、大好きだよ、愛してる!ずっとずっと大好きだよ!いつも一緒に居てくれてありがとう!こんな気持ちを教えてくれてありがとう!ねえ、私、敦君が本当に大好きなの!愛してるの!…置いていかないでよぉ…っ」


「…日向」


「…敦君!?」


「ごめん、俺、いつも泣かせてばっかりだ…」


「そんなことない!いつも明るくて、優しくて、笑わせてくれた!私はそんな敦君が大好きなの!」


「日向」


「なに…?」


「笑顔、見せて」


我ながら下手くそな笑顔だったと思う。涙でぐちゃぐちゃで。なのに敦君はいつもみたいに笑った。


「ん。やっぱ日向の笑顔が一番好きだわ」


とびきり優しい笑顔の後、少ししてぴーっと、機械が鳴った。それが何を意味するかなんて明白だった。


「…日向ちゃん。息子を最期まで、本当にありがとう」


「…はいっ」


一番泣きたいのはおじさんだろうに。それでもおじさんは私を気遣ってくれた。敦君のお父さんだけあると思う。


ー…


それから数日。敦君の葬儀も終わった。私はおじさんから許可を得て敦ちゃんの散歩をしている。


「わんっ」


「敦ちゃんは元気だなぁ」


敦ちゃんは可愛い。私の心の隙間を埋めるように寄り添ってくれる。


「わんっ!わんっ!」


これからは、敦君が居ない日々が日常になるのだろう。君と私の日常の物語は、ここでお終い。けれど、いつかきっと、逢いに行くから。私が歳をとって、沢山のお土産話を持っていけるその日まで待っていて欲しい。

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[一言] とても せつない話で涙がでます。
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