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敦君はいつだって楽しそう

作者: 下菊みこと
掲載日:2021/12/31

「日向ー!見てくれよ!こんなところにエロ本捨ててあった!」


「敦君はいつだって楽しそうだね」


「当ったり前だろ!人生楽しまなきゃ損じゃん!」


「まあそれはそう」


ー…


「日向ー!見てくれよ!俺赤い羽根募金しちゃった!」


「敦君、偉い偉い」


「あははは!だろー?」


「ところで私のプリン知らない?」


「…」


「はい、目を背けない。こっち向いて」


「…」


「何か言うことは?」


「ごめんなさい」


「よろしい」


ー…


「日向ー!見てくれよ!子犬拾った!」


「あれまあ。おじさんなら飼うの許してくれそうだけど、連れて帰るの?」


「ん!可愛いし、見捨てらんねーよ」


「そっか。動物病院予約しちゃうね」


「おー」


ー…


「日向ー!見てくれよ!あん時の子犬正式にうちの子になった!」


「よかった!名前はどうするの?」


「敦!」


「自分の名前付けるの!?」


「だってカッコいいだろー?」


「謙遜って言葉知ってる?」


ー…


「敦君大きくなったねー」


「だろー?」


「いや、敦君も大きくなったけど、今のは子犬の方の敦君に言ったんだよ」


「紛らわしいなー」


「自分で名付けておいてなんて理不尽な」


「子犬の方は敦ちゃんな」


「はいはい。敦ちゃんは可愛いね!」


「くぅーん」


「なんかジェラシー」


「もう、敦君たら」


ー…


「日向ー!見てくれよ!俺敦の散歩してんの!偉くね!?」


「偉い偉い」


「だろー?」


「ところで今日病院だったよね?結果は?」


「ん?あー、再発してたわ」


「…え?」


「明日からまた入院。日向、寂しがるなよ」


「…私は…別に…」


「そっか。なら良かった。敦のこと頼むな」


「そんな言い方しないでよ。まるで最期みたいな…どうせ今回も早期発見だったんでしょう?またすぐに退院出来るんだよね?」


「…あー。えっと」


「…敦君?」


「ごめん。色々手遅れらしい」


「…!」


「…だから、終末期医療のとこ行く。…見舞い、来てくれよな」


「…」


「日向?」


「…ごめん、今ちょっと…無理。帰る」


「日向!…ごめん」


「…っ!」


ー…


「日向ー!見てくれよ!俺早くも同室の爺さん達と仲良くなっちゃった!」


「何楽しそうに将棋してんの?バカなの?心配して損した」


「あははは!ごめんごめん、でもほら、人生楽しまなきゃ損じゃん!」


「まあ、それはそう」


「爺さん見てー、俺の彼女ー」


「まだ彼女じゃないし!」


「まだ?もしかして脈あり?」


「そうだよ!気付くの遅いよ!」


「…え?マジで?」


「マジで!」


「…好き!付き合って!」


「敦君のバカ!言うのが遅い!好き!」


「日向、愛してる!」


「私だって愛してるよ!」


ー…


「日向ー!見てくれよ!隣の爺さんから梨貰えたー!」


「はいはい、今剥くから貸して」


「日向って器用だよなー」


「いっつも敦君に付き合わされてるからねー」


「でも楽しいだろ?」


「まあ、それはそう」


ー…


「日向ー!見てくれよ!外泊の許可出たから久しぶりに敦の散歩してんの!」


「偉い偉い」


「だろー?」


「ところで、明日も自由なら一緒にデートに行きませんか?」


「マジで!?行く行く!」


「わんっわんっ!」


ー…


「日向ー!見てくれよ!俺この間のデートの写真印刷したんだよ!これ日向の分!」


「ありがとう、敦君!」


「いやー、デート楽しかったなー。次はどこ行く?」


「今日遊園地行ったから、水族館行こ」


「おー、いいぜー」


ー…


「おじさん!敦君が急変って!」


「うん。日向ちゃん、最期に会ってやってくれ」


「…はい!」


桜吹雪の中、一緒に駆け回った。夜空に打ち上げられた花火を、一緒に手を繋いで見た。秋晴れの日に、一緒に栗拾いに行った。雪が降る中、一緒に寄り添って温めあった。いつだって一緒にいるのが当たり前で、居なくなるなんて考えたこともなかった。


「敦君、敦君聞こえる!?日向だよ!ねえ、聞こえる!?」


「…」


「ねえ、大好きだよ、愛してる!ずっとずっと大好きだよ!いつも一緒に居てくれてありがとう!こんな気持ちを教えてくれてありがとう!ねえ、私、敦君が本当に大好きなの!愛してるの!…置いていかないでよぉ…っ」


「…日向」


「…敦君!?」


「ごめん、俺、いつも泣かせてばっかりだ…」


「そんなことない!いつも明るくて、優しくて、笑わせてくれた!私はそんな敦君が大好きなの!」


「日向」


「なに…?」


「笑顔、見せて」


我ながら下手くそな笑顔だったと思う。涙でぐちゃぐちゃで。なのに敦君はいつもみたいに笑った。


「ん。やっぱ日向の笑顔が一番好きだわ」


とびきり優しい笑顔の後、少ししてぴーっと、機械が鳴った。それが何を意味するかなんて明白だった。


「…日向ちゃん。息子を最期まで、本当にありがとう」


「…はいっ」


一番泣きたいのはおじさんだろうに。それでもおじさんは私を気遣ってくれた。敦君のお父さんだけあると思う。


ー…


それから数日。敦君の葬儀も終わった。私はおじさんから許可を得て敦ちゃんの散歩をしている。


「わんっ」


「敦ちゃんは元気だなぁ」


敦ちゃんは可愛い。私の心の隙間を埋めるように寄り添ってくれる。


「わんっ!わんっ!」


これからは、敦君が居ない日々が日常になるのだろう。君と私の日常の物語は、ここでお終い。けれど、いつかきっと、逢いに行くから。私が歳をとって、沢山のお土産話を持っていけるその日まで待っていて欲しい。

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[一言] とても せつない話で涙がでます。
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