東京悪夢物語「コインロッカー」
東京悪夢物語「コインロッカー」
しまった、
終電に間に合わない、
走れ、走れ、
はあ、はあ、はあ、
プシュー
ドアが閉まる。
ガタゴトン、ガタゴトン、
間に合わなかった、
仕方がない、
今日は、漫画喫茶でも泊まるか、
地下鉄の通路を歩いて行く。
「あの〜」
……
「そこの人〜」
……
「そこのグレーの背広の人〜」
私か?
辺りを見回す。
私以外、誰もいない。
空耳か?
「あなたです〜あなた、」
誰だ?
「そうです〜あなた、」
どこだ?
「ここですよ〜横のコインロッカーですよ、」
コインロッカーを見る。
誰もいない。
確かに、コインロッカーの方から声がした。
「一番右のコインロッカーですよ〜」
そばに行ってみる。
「助けて下さい〜」
「何ですか?」
「何でこんな所に入っているのですか?」
「いや〜、出られなくなってしまって、」
「そうなんですか、」
「それは大変だ、今、駅員を呼んできます、」
「苦しい〜」
「えっ、大丈夫ですか?」
「早く助けてください〜、ゴホ、ゴホ」
「じゃ、駅員を、」
「間に合わない〜苦しい〜」
「大丈夫ですか?」
ガチ、ガチ、ガチ、
取っ手を開けようとしたが、開かない。
「ダメだ〜苦しい〜」
「左端のコインロッカーに鍵があります〜」
「それで、開けて下さい〜」
慌てて、左端のコインロッカーに行く。
ガガッ、
錆びていて開かない。
「開かないです、」
「お願いします、苦しい〜」
ガン、ガン、
コインロッカーを叩く、
ガン、
開いた、鍵がある。
「今すぐ開けます、」
「ありがとうございます、早く〜」
「はい、」
カチャ、カチャ、
カチャン、
「あっ、」
うっかり鍵を落としてしまう。
どこだ、
「何やってるんだよ、」
「えっ?」
「早くしろよ、」
「苦しいんだよ、早くしろよ!」
「す、すいません、」
よく見ると、このコインロッカーかなり狭い。
とても人が入れる大きさじゃない。
おかしい?
「早くしろよ、早くしろよ、」
ガン、ガン、ガン、
中から激しく揺さぶる音。
「早く開けろよクズ、殺すぞ!」
ガン、ガン、ガン、
……
私は、恐る恐る尋ねてみた。
「お前は、誰だ」
ピタ、
静かになる。
……
「すいません〜お願いします〜」
「頼むから開けて下さい〜」
「お前は、誰だ!」
……
ガン、ガン、ガン、
「早くしろー!出たら、絶対、喰い殺してやるからなー」
ガン、ガン、ガン、
「ぎゃー」
私は、慌てて鍵を左端のコインロッカーに投げ入れ、
そこから逃げ出した。
通路を走り、
階段を駆け上り、
外に出た。
はっー、はっー、はっー、
何だったんだ?
振り返る。
駅の中はすっかり、真っ暗だった。
数日後、
そのコインロッカーの前を通る。
何も聞こえない…
構内の掃除の人が来た。
コインロッカーを綺麗に掃除する。
ガタ、ガタ、
左端の壊れたコインロッカーを開けようとしている。
開かない、
あの〜
そこの人〜