後編
最終回!ラスト!
「え?」
フローリアはアランから発せられた言葉に信じられなく、いや信じたくない気持ちでいた。アランから言われたのは端的に言うなら魔王撲滅に行くことだった。
無論、魔王が復活したのではないかという話は聞いていた。フローリアの親友でもあるガーネット第一王女からも魔王を示唆していた内容を聞いていたのである程度の覚悟をしていた。だが思ったよりも本人に聞くとショックが大きかったようだ。
「大丈夫なの」
「わからない」
お互いに書類整理をしていた所為か、アランの表情が見えにくくなっていた。アランはここ1年での間で多くの魔術を展開していった。幻とまで言われているSA級魔術を何十種類も使いこなしている。その功績が讃えられ、彼は見事叔父と同じく筆頭魔術師として役職につくことになった。学園の方には自身の研究室を開拓してリアは助手として彼のサポートに入った。
「アラン」
「何だ」
「こっち見なさい」
「…っ」
泣きそうな辛そうな顔つきが見えた。そこに変わらないアランの姿が垣間見えて少しほっとする。アランは何だかんだこういう争いごとが苦手なタイプだ。冷徹だと世間では言われているが、あくまでも見た目で彼の内面を表したものではない。
「私は泣くわよ」
リアは一言ポツリと呟いた。貴方が死んだら…とは言えなかった。元来はこのような場面でのそのような言葉には言霊が付きまとうと相場は決まっている。
「…そうか」
「そうよ」
何処か嬉しそうに微笑む彼を横目で見ながら、少しだけ不機嫌気味に返した。もう少しで可愛げのある反応すればいいと自分のことを自分で叱責していた。
_数週間後、すぐ彼に魔王討伐の司令が渡った。
パレードは盛大に取り行われた。聖剣を抜くことが出来た勇者と剣に腕のある騎士団長、精霊術に特化した神官…そして魔術師。リア自身、魔王とは絵本に出てくる悪物の代表格くらいであった。王都に身を置いていた所為か、魔王への危機感という焦燥感というものを感じていなかった。だが、聞くところによると地方の方はかなりやられているらしい。魔王が放つ魔素は食物を駄目したり、人を不安にしたり情緒不安定になるらしい…魔王の魔素に侵された地方を見てきた人達は彼処は地獄絵図だと口を揃えて言っていた。そのことが余計にリアに不安を過ぎらせた。
それからは私もの取り巻く環境が少しずつ変わっていった。まずは彼が討伐に行っている間は研究室も使わられないので彼の部屋の管理という目的で私は月一しか学園に足を運ぶことができなくなった。おかげで淑女のレッスンや家庭教師の時間が増えた。また魔王の魔素を恐れ、あまり外に出ることもできなくなった。何となく街にも活気が失われつつあるように見えた。唯一の救いとしては、新聞でアランたちの討伐情報が載せられていた。カメラはあまり好きではない彼は端っことか途切れ途切れにしか映ってなかったけれど、彼が無事であることがなりよりも嬉しかった。
_それからまた3年の月日が流れた。
彼から定期的に手紙が来ていたのでそこまで寂しさというものがあるもののそこまで悲観するようなことはなく日々が過ぎっていった。彼から一言、「帰る」という手紙を見たときの私の喜びと言ったらもう何とも言葉で表すことができなかった。周りいた使用人たちは少し呆れたけど…3年間彼と離れて過ごしてわかったことがあった。私はアランが好きだ。恋愛として。幼い頃からアランのことは好きだった。だけど、今は少し違う。もう婚約者だし、今更感はあるけど彼に言おう。そう思った。今回のことで私は学んだ。言えるときに言わないと後悔することになる。私は油断していた。アランとは幼馴染兼婚約者だし、帰ってきたらすぐに会えると信じていた。…ええ、そういう意味では舐めてましたよ。「勇者」という称号や魔王と倒すということがどういうことなのかと理解しきれていなかった、私が悪いですよ…不貞腐れても意味は無い。
「こんなにも…会えないなんて…」
「あと数ヶ月の辛抱じゃない」
目の前で優雅に紅茶を嗜んでいるのは親友のガーネット王女である。アランは魔王討伐に成功し、王都に帰ってきた。帰ってからが怒涛であったようだ。まずは彼らは魔王討伐を出来たことを周辺諸国にも知らせるために各国を転々とすることになった。それを約3ヶ月ですることになったんだけど…隣国のジュリアナ王女に気に入られちゃたらしくて中々帰ることが難しくなっているようだ。勇者の一人で稀代の魔術師と呼ばれていアランは黒髪黒目を見ても容姿端麗である。まぁ何かとそれで…王女が気に入り隣国の王族としてもノリ気らしい。…私、婚約者なんだけども?というツッコミを心中入れた私は悪くないと思う。
「あちらは極寒になっているだろうな…それに彼奴だったら数ヶ月どころか一週間以内には帰ってきそう」
「そうかしら…王女さまに求婚されているのよ」
前半は何言ってるのかわからなかったけど、とにかく彼が早く帰ってくるということを言いたいのだろう。隣国のジュリアナ王女は精巧の人形のように美しいと聞く。私とてブスではないと思うけど…絶世の美女を引き合いだしたら負けるくらいのルックスである。たぶん彼の性格上、私に何も告げることなく婚約解消なんてことはしないだろうけど…信頼関係や親しみという面では彼に嫌われていないと思ってる。しかし恋愛面に関しては私自身もこんな感じなので彼が私に恋愛感情を持っているかはわからないのだ。「勇者」という言葉がどれだけ強力なのかが身に染みている。叔父様は内緒にしてくれているけども、彼にお見合い話が様々な国から来ているのを私も知っている。国内ではそこそこの貴族だろうが、周辺国などの王女たちを引き合い出されたら勝ち目が無さすぎる…はぁ。
「だからこそだと思うけど…あぁそうだ」
「どうかされて?」
「婚約解消だけではしないでよ」
私はまだ命が惜しいし国を守る義務があるからな…と言ってるが私が婚約解消を告げたところでアランが国を壊すということはないだろう。そもそも婚約解消するつもりもないけど。せっかく自分の思いに気がついたのだからアランに伝えたい。会えてないけど。
「…はやく帰ってこないかなぁ」
「それって俺のこと?」
最初幻聴かと思った。だって、3日前にくらいに隣国や周辺諸国にいると聞いたのだ。早くても一週間くらいは掛かるし…え?何?何が起こってんの。私の手前にいたガーネット様は紅茶を持ったまま固まっている。
「…アラン?」
「そうだよ。久しぶり、リア」
アラン…思わずアランに手が伸びる。彼の顔に私の手が触れた瞬間に暖かさを感じて…思わず涙が出る。急に泣き出した私を見て、アランは慌て始めた。驚かせてから悪いという謝罪&土下座から始まり…私のところに早く帰りたくて転送魔術を完成させたことや魔素を保管できるようなアイテムを作り一人で転送での魔術を可能したことなど話してくれた。隣で聞いていたガーネット様は「私は野暮だから抜ける。1時間だけよ」と言って一旦自分の部屋に戻っていった。
「…アランよね?」
「うん」
「本当に?」
「偽物だったら困るよ」
「そうよね」
「…ねぇ…アラン」
「ん、なんだ?」
「寂しかった…討伐してるときはいつ死んでしまうかもしれないどうしようって思って…それで私にとってねアランは必要不可欠だって思って、好きだって思って。あ、恋愛的な意味だよ。それを伝えようとしたら…社交界で隣国の王女から求婚されてるらしいって言われて…私、そんな美人でもないし王女様と戦えるような材料ないし…どうしようって婚約解消されたらどうしようって…あと数ヶ月は帰って来れないというしあっちの人達って気が強いからアランが既成事実でも作られたら…っていやなことがグルグルと…」
「リア、ストップ!!ちょ、ちょっと待って」
今とんでもない言葉が聞こえた気がするとアランが顔を紅くさせた。そんな紅くなるような……。
あ。
今私、好きって言った?恋愛的意味だよとか念押しして…あ、穴はどこ?物凄く入りたい…誰か私を…。どんどん私も体温が上がっていく。もっとちゃんとした場面でしっかりと伝えたかったのに。急にアランが現れるから何かパニックって余計なことを…。
「そうか。そうか。リアは俺のこと…」
「うぅぅ、それはその」
「フローリア・サラ・ルーティ」
「は、はい!」
「愛してる」
へ?アイシテルって、愛してるってことでしょうか。そんなことを思っている間にアランはポケットから何かを取り出して私の指に嵌めた。
「これって…」
「結婚指輪だ」
「散々待ったし、もう我慢できない」
「え。何を?」
「色々と」
「色々!?」
色香を纏わせた彼の微笑みが何処か熱が篭っていることは気のせいじゃないだろう。彼からは逃げられない。逃げようと思ってないけど。その後の彼は早かった。自分の持っている魔素を最大限におど…活用して、周辺諸国や自国さえも黙らせて強行突破した。結婚式は彼からの告白を受けた3ヶ月後には行われた。貴族同士の結婚というのは1年くらい掛けて用意されるもののはずなんだけども。まぁ、よしとしよう。ガーネット様は相変わらず呆れてような笑みを零した。
私が知っている彼は冷静沈着な訳じゃない。私が泣けば大慌てするし、喧嘩して口を1日聞かなった…ほぼ半日で大泣きして土下座してくるし…そこが可愛いと思っている私も大概だろうけどね。
私も愛してる。
誰も知らない勇者の物語。fin
ラストは何となく慌てた感じで終わりましたが…なんとか終わって良かったです。
最後まで呼んで下さりありがとうございます。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
これからもよろしくお願いします。