前編
さて、ここから本編です。
三編か二編ほとで終わらせたいと思っているのであっさりと読めると思います。
温かい目で読んでいただけると幸いです。
このまま昼寝がしたいな。
令嬢らしからぬコトを思い浮かべながら日向で紅茶を嗜んでいく。幼い頃から令嬢として無駄の無い教育を受けさられた彼女にとって、思考が別のところに飛んでいても作法を完璧に熟すのは朝飯前であった。
「フローリア」
低く落ち着いた声が私の名を呼んだ。
「お父様」
私と同じ翡翠の色を持った瞳がじっと此方の様子を伺ってきている。答えるように微笑むと、彼方も微笑んで「紹介したい人がいるんだ。付いて来なさい」とサッと私に手を差し伸べてくれた。
「わかりましたわ」
無論断る手段も理由もない私はその手を取った。手を取った後はお父様に連れられて、多くある客室の一つの前で止まった。お父様に「少し待ってなさい」と言われてた私は素直に扉の前で待っていると父から合図があったので客室に足を踏み込んだ。
「失礼します。…あら?シェイド叔父様?」
そこには幼い頃から見慣れた顔があった。シェイド叔父様はお父様の学友であり、今でも深い付き合いのある間柄だ。父に負けず劣らずの美貌を持ちながらも独身であり、ある程度歳を取った今でも淑女令嬢からの人気は留まることを知らない御方である。私も幼い頃から娘のように可愛がってもらっている記憶がある。私としても彼は第二の父のような、もはや身内のような感覚だ。彼が紹介したい人なのか。嫌、違う。彼のことはもう知っているしな。…と首を傾げようとした瞬間にシェイド叔父様の背後にいる影を捉えた。
「フローリア久し振りだね。見ない内にお母さんに似て美人になって。あぁ、紹介しないとな。アーラン出てきなさい。彼女なら平気だよ」
私の視線に気がついたのか、挨拶を簡単に済ませた叔父様は背後に隠れていた誰かに声を掛けた。影的には背は低くく私と同じくらいだと思われる。
「…ど、どうもアーランと申します…」
私は自分の目が驚きを表すように見開いることを感じた。それもその筈、アーランという名の少年は黒髪黒目というこの世界は珍しい色合いを持っていたからである。この世界には魔術が存在する。個人差はあるものの多くの人間の体内には摂取したエネルギーを魔素に変えられる力を持っている。体内にある魔素を元に術を編み込んで使われるのが魔術である。しかし魔素を保有量は生まれたときにほぼ決まる。そして、魔素の保有量は髪色や瞳の色合いに影響を与えるのだ。
つまり黒髪黒目を持つ少年はこの世界でも指折りの魔素の器を持っているという訳である。彼等のようなことを「黒持ち」という。因みにシェイド叔父様もアーランの程ではないが髪色に黒が入っている。
「シェ、シェイド叔父」
思わず興奮したような声で叔父様の名を呼んでしまった。案の定というべきか、隣にいたお父様からは「落ち着きなさい」という小言が返ってきた。
「まぁ約束だからね」
そんな親子の会話を横目に叔父様はにっこりと微笑みながら言った。実は私は家族や近いしい友人たちからは「魔術馬鹿」と言われる程魔術書を読むのが大好きで、国の筆頭魔術師であるシェイド叔父様にも様々な話を聞かせて貰っていた。そのなかでも私が一番興味を持ったのは「黒持ち」と呼ばれた人々だった。私の魔素は平均並みであり、どう頑張っても魔術としては中級くらい出来たらいいだろう辺りであった。しかしこの世界は中級以上の魔術の存在も知っていた。だが私にはそれが実現することは不可能だ。そこで叔父様にも「黒持ちで私と同じくらいの歳の子を保護や知り合いなれたら、是非とも私に紹介して欲しい」と約束したのだった。黒持ちなら人並み以上の魔素を持っているし、SA級、超特別高難度魔術を実現することだって夢ではない。仲良くなって、出来ればその魔術を見せても貰えることが出来たらと思っていた。
「あ、ありがとうございます!…ん、失礼しました。私の名はフローリア・サラ・ルーティと申します。以後お見知り置きを、と思います」
まさかこんな早く約束が叶うなんてと思いながら、こんな飄々とした欲望塗れなことを悟られる訳にはいかないと少年に最大限の人好いの笑みを浮かべる。お父様がいる辺から何となく白けた視線が来ているようにも感じられるが今は知らぬ存ぜぬが勝ちだ。
「怖い…とかお…もはない…の?」
「何がですか?」
「その…僕の…髪色や瞳…」
彼は顔を下に向けたまま、無意識だろうが髪先に触れていた。そこで何となく察する。「黒持ち」というのは割と地方や国によっては差別対象になる。高すぎる魔素は時として何も知らない人々にとって恐怖の対象になることがある。私の国クロッカにも悲しいことに一定数そのような差別意識を持った人々がいるのも事実だ。だが、「黒持ち」は高い魔素を持ち、難易度が高い魔術を構築することも可能なので国としては重宝する人材でもあるのだ。「黒持ち」に関する恐怖と国防の狭間は未だに解決の目処は立っていない。必ず論争になる案件と言っても過言ではない。
「そうですか?寧ろ綺麗ですし、神からの祝福…私としても幸運の存在…待ち人ような…」
「待ち人?幸運?」
「失礼しました…つまり私は貴方の存在は怖くない、逆に愛しむものだと思っていますの」
「愛しむ!?」
彼は少し驚いたのかほんのり穂を紅くして、私の方を見た。私としては至極真っ当なことを言ったつもりなのだが…だってそうだろう。自分の力ではなし得ないような魔術を生で見せてもらいたいという打算的な思いはありつつも、仲良くなりたいとも考えている。仲良くなりたいなら愛しむことが大切なはずだ。と、掻い摘んで話すと彼は「あぁそうことか」と安心したような残念そうな複雑な声を漏らした。
「これからよろしくお願いしますね…えーと、アーランさまではよろしいでしょうか」
「いや、アランで。…呼び捨てでいいから」
「では、アランで。私のこともリアとお呼び下さい」
そんな初めての出逢いはアランが10歳。私が8歳。のときである。これから彼とは長い付き合いになると漠然とそう思ったのだった。