プロローグ2
「ここが『不死者討伐組合』か……」
俺が足を運んできたのは、王都ノアの端っこにある、なんだか住宅と商店で混み混みしている一画だ。
地図によれば、俺の目の前にあるのが件の組合のオフィス。
薄汚れたこの区画の中にあっては清潔感があり、良かったあなどとのんきなことを思った。
両開きの木製のドアを開けると、目に飛び込んでくるのは三つの窓口。いずれも不死者関連の依頼の受付や相談の窓口となっているらしい。
今開いているのは右側の一つだけで、あとの二つは受付係が席を外しているのか、誰もいない。
俺はその右側の窓口へと歩いていく。
「いらっしゃいませ」
俺が近づいてくるのを確認した受付のお姉さんが、営業スマイルで挨拶をくれる。それに「あ、あぁ……ども、ハヨッス……」と快活な挨拶を返してから、
「あの、すみません。本日面接に伺ったハウンゼンと申します」
「ああ、ルキフグス・ハウンゼンさんですか?」
「はい」
「少々お待ちくださいね」
と言って、お姉さんは奥の方へと入った。
しばらくして、お姉さんは戻ってきた。
「お待たせしました。こちらへどうぞ」
「あ、はい」
俺が通されたのは、テーブル一つを挟んで三人掛けのソファが向かい合って置かれた一室だった。
出入り口の向かいに開けられた窓からは、午後の日差しが入り込んできている。
俺はお姉さんに勧められてソファーへと腰を下ろした。一見上等そうに見えたこれも、座ってみると案外固い。
よく見ると最初は清潔そうに見えた漆喰の壁もところどころかびていたり剥げたりしているし、テーブルもガタが来ているらしく、手を乗せただけでミシミシと嫌な音が鳴った。
就活生とはいえ客人を招き入れるのだから、この部屋ですらオフィス内で相当上等なのだろう。
組合の経営難がうかがえる。
やっぱり来ない方がよかったかなあ。
そんなことを考えていると、出入り口のドアがコンコンコンと三回ノックされる音が響いた。
「は、はいっ!」
俺が立ち上がってそちらへ向くと、開いた扉から壮年の男性が姿を現した。
「こんにちは。どうぞ座って」
「あ、失礼しまっす!」
男性は俺の向かいに腰を下ろして、俺が最前送った履歴書を眺め始めた。
髪は真っ白で、同様の色の髭がたくましく蓄えられている。
金色の目は鋭い眼光を放っており、それだけで彼の只者じゃない風格が分かる。
「ルキフグス・ハウンゼンくんでよいのかな」
「はいっ」
「じゃあさっそく面接始めさせてもらうけど……」
そう前置きをして投げかけられた質問は、志望理由やどんな仕事がしたいかなどといった、テンプレートなものばかりだった。あとは不死者と戦うにあたっての危険に対する覚悟など。
俺はウケのよさそうな言葉を選びながら、無難に答えていった。
一通りの問答を終え、面接はあっけなく終わった。
「よし、お疲れ様。結果は後日手紙で通知させてもらうので、しっかり受け取ってください」
「はいっ」
俺はおっさんに連れられて、入り口まで案内してもらった。途中、窓口で書類整理をしていた先のお姉さんが、俺に対してにっこり笑って手を振ってくれたので、なぜか根拠もない手ごたえを感じた。
後でお姉さんを食事にでも誘おう。
その思いを胸に、俺は『不死者討伐組合』を後にした。
* * *
一週間後、まんじりともせず家にいた俺に、伝書鳩が一通の手紙を運んでやって来た。
夏の蒸し暑さが徐々に終わりに近づく季節、晩夏の名残と初秋の涼しさを運ぶ風とともに。
はちきれそうな心臓の高まりを覚えつつ、俺は封蝋を押された紙を開封した。
拝啓
貴下におかれましてはますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
先日の面接の結果ですが、採用内定としましたことをご報告いたします。
今後のスケジュールにつきましては、採用責任者の方からご連絡を差し上げますので、ご了承ください。
今後ともよろしくお願い申し上げます。
敬具
「や……」
窓から伝書鳩が飛び去った。
「やったああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!」
お父さん、お母さん。
僕はついにこの日を迎えることができました。
その後、実家の両親と親しい友人たちに内定報告を送り、ソフィアにも口頭で伝えた。彼女は「やったあ! おめでとうございます!」と、わがことのように喜んでくれた。
エリクセンやミシャとたちとも久々に連絡を取り、、さっそく祝いの席が設けられた。会うこと自体久々だったので、お互いの近況を報告し合い、それからは学生らしくパーっと馬鹿をした。ちなみに王宮の文官内定という嘘は貫き通しておいた。
そうして秋が終わり、冬が来た。
冬が溶け、春になった。
ここから、俺の長い長い社会人生活が始まった。




