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プロローグ

拝啓


 貴下につきましては、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。

 さて、先日行った面接についてなのですが、厳正なる選考の結果、誠に残念ながら貴意に添いかねる形となりましたことをお伝えいたします。

 大変申し訳ありませんが、何卒ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。


 末筆ながら、ルキフグス・ハウンゼン様が今後より一層ご活躍されることをお祈り申し上げます。


敬具


   *  *  *


「はあ……」


 通算83枚目の不採用の手紙を読み終わった俺は、深いため息をついた。

 絶望する俺を見届けた後、伝書鳩が窓から飛び立っていく。




 学園を可もなく不可もない成績で卒業することが確定した俺は、実家が事業を営んでるわけでもなし、大多数の学生と同じように就職活動に精を出していた。


 ……いや、「精を出していた」なんていうのはほかの就活生に失礼かもしれない。

 なにせ、俺が学園付属の図書館で厭世的な小説を読み漁っている間、同期は皆会社説明会に参加したり、インターンシップに参加したりと、少しでも満足のいく就活ができるように尽力していたのだ。

 一方の俺はといえば、採用活動が解禁されてから慌てて動き出す有様で、しかもプライドばかりはめっぽう高いものだから、冒険者ギルドの事務職や大規模商会など、花形と言われる職種ばかりに応募していた。


 もちろん、結果はお察しの通りなわけで。


 やっと自分の存在の矮小さを自覚してから他の業界に手を出してみたりもした。

 武具屋や酒場、さらには門番など。


 でも駄目だった。

 社会不適合者の俺を雇い入れてくれるところなんか、どこにもなかった。

 83社の企業は、すべて俺を不採用としたのだ。


「流石にこたえるなあ……」


 同期でも仲の良かったエリクセンやミシャなどは既に大手企業から内定を得ている。

 彼らから時折「就活どうだった?」という手紙が届くが、やはりプライドが邪魔して王宮の文官に内定したなどというあらぬことを書いてしまった。「今度みんなで集まろう」と声をかけられたが、一体どの面下げて会いに行けばいいというんだ?


 目頭が熱くなる。

 それでも泣くのだけは癪だったから、必死でこらえた。

 一人暮らしの身で、誰かに見られているということもないのに。


 涙はこらえたが、喉が渇いた。

 下宿の表へ出て井戸水を汲んでいると、宿の女将の娘――ソフィアが入り口から出てきた。


「あ、ルキッフさん」

「ソフィアちゃん、こんにちは」


 ソフィアは微笑みながらこちらへ歩いてくる。

 今年で14になるらしい、年の割に大人びた少女だ。

 働き者で、女将さんも「この子になら安心して宿を任せられるよ」と太鼓判を押していた。

 きっと将来は良く働いて家族を支える女性になるのだろう。


「手伝いますよ」

「あ、ああ。ありがとう」


 慣れぬ手つきでロープを引っ張っている俺に代わり、ソフィアは慣れた手つきでするすると水の入ったバケツを引っ張り上げる。


「はい」

「ありがとう」


 バケツからコップで水を汲み上げ、ぐいと飲み干す。渇いた喉は潤ったが、心の渇きは相変わらずうずいている。


「ソフィアちゃんはこれから買い出し?」

「はい。ルキッフさんは?」

「俺は……これから面接かな」


 俺が何気なしに言うと、彼女は「あっ……」という声を上げて、気まずそうな顔をした。


 やめてくれ、それは俺に効く。


 本人が気にしていない風を装っているのに他人にそんな反応をされるのが一番ツラいのだ。


「だ……大丈夫ですよ! ルキッフさんなら今度こそ!」

「次で84社目だけどね」

「…………大丈夫ですよ!」


 かなり長いタメの後に彼女は言い切った。とても良い子なのだ。


「ありがとう。頑張るよ」

「ち……ちなみに、次はどちらを?」

「ああ、『不死者討伐組合』の狩人職だよ」

「えっ、ふ、『不死者討伐組合』!?」


 その名を聞いた途端、彼女は露骨にうろたえた反応を示した。


 無理もない。


 『不死者討伐組合』――通称アンデッド・ハウンドは、その名の通り「不死者」と呼ばれる、何かの原因でこの世に縛り付けられた霊魂を浄化することを生業とする組合である。


 冒険者ギルドと違って相手取るのが不死者ということもあって、穢れの多い職とされており、一般人からの敬遠心が強い。


 だから屈指の不人気業であるのだが、その中でも事務職と狩人職では天と地ほどの差の印象がある。


 事務職であればまだ良い。冒険者ギルドと同じように各地から寄せ集められる依頼を受領し、誰かに発注すれば良いのだから。

 そこには実質的な冒険者ギルドとの差はない。


 だが、現場職となると事情は一変するわけで。


 だからこそ、俺が『不死者討伐組合』の狩人職に応募したという話を聞いた途端にソフィアの顔がこわばったのだ。


「あの……もし採用内定が出れば、そこに決めるのですか?」

「そのつもりだよ」


 だって他に選択肢ないし。


「でも、いくらなんだって――」

「ソフィアちゃん」


 俺はことさらキメ顔をつくってソフィアの目を見つめた。


「は、はひぃっ!」

「確かに、『不死者討伐組合』の、特に狩人職なんかは危険が多いし、世間体としてもよくないかもしれない。けどね。それでも、『職業に貴賎なし』だ。働くことはとても尊いことなんだよ」


 もちろんこれは口からの出まかせだ。本心ではない。というか労働なんてクソくらえだと思っている。不労所得が欲しい。

 それでもソフィアには響いたみたいで、「は、はいぃ……」と顔を真っ赤にしながら、彼女は弱々しく首肯してくれた。


 素直な子で助かった。

 もしここで「でも貴賎はなくても好き嫌いはありますよねえ?」なんてことを言われた暁には、大人の腕力を見せてやらないといけなかった。

 本当に助かった。

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