表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/12

バーレンハイム公爵家兄妹はかく語る・兄編(前編)


 彼に対する印象は、生真面目で堅物。それはおよそほかのひとたちと相違ない認識だろう。

 爽やかなはずの造形をした美貌は、にこりとも動かないために怜悧な印象さえ与える。

 才に優れ、ひと並ならぬ努力も惜しまないという彼は、伯爵家である生家の家督こそ継がないらしいが、彼の父君が持つもうひとつの肩書、騎士団長を継げるのは彼しかいないと言われている。まだ学園にさえ入学が叶わないような、この年で、だ。


 おなじ年齢であるため、はなしを聞けば気に留めたりもするけれど、実質私と彼とに直接的な接点はない。その才と努力とが認められ、早くからはなし相手も兼ねて王太子殿下の近衛のひとりに抜擢されているため、王家の方々が参加される催しものなどで顔くらいなら合わせることもあるが、その程度だ。


 だからそんな彼に声をかけられたときはとても驚いた。


 彼はまず家格の差によるマナーについて詫びる前置きをし、それから失礼を承知でと続け、私の妹であるリーリアが倒れたので医務室へと運んだ旨を報告した。



「妹君の努力はとても素晴らしいと思います。けれど、過度にご自分を追い詰めてしまっているように思えるのです」


「そうは言っても、あの子は未来の王太子妃。努力などいくらしても足りないくらいではないかな」


「ご本人もそう仰ってました。そのお考え自体はとても尊く、またその信念をもってしてすべてに臨まれるこころ構えは敬意を表してあまりあるほどです。ですがそれは、ご本人以外が押しつけるべきものではないのではありませんか?」


「……どういうことだろうか」



 王太子妃として相応しくあれ、というのは周囲に求められて当然。リーリアはそういう立場にいるのだから。

 だというのに、目の前の男はただひたすらにまっすぐ私を見据え、否を告げる。


 家格の違いを理解していようと、それよりももっと大事なものがあるのだと訴えんばかりのまっすぐさだ。



「王妃殿下や教育係が妹君に厳しく接することは相応に必要な部分もあるのでしょう。けれどそれらに耐え、身を削って努力を続ける妹君を、さらに追い詰めるような真似はなさるべきではないと私は思います。周りがあのかたを追い詰めてしまうのであれば、せめて家族くらいは安らげる場になって差し上げてほしいのです」



 ……それはとても貴族らしくはない、理想論だ。民の上に立ち、その生活の責を負う身であると思えば、甘さひとつが大きな過ちへと繋がることも否めない。

 公爵家の嫡男という立場の私は、ものごころつく前からそう刷り込まれてきた。だからというだけではなく、私自身もそう思っている。


 だけど。……それなのに。


 リーリアの顔を思い浮かべようとした私は、愕然とした。


 家族なのに。あの子は、私の妹だというのに。



 私には、あの子の姿が朧気にしか思い出せなかったのだ。



 その事実は、私をひどく打ちのめした。

 リーリアを甘やかすべきではない。それは確かにそうあるべきではあるのだろう。必要な厳しさというものは、確かにあるものなのだから。


 だけど……だけどそれは……。


 家族としての情を与えなくてもいいという理由には、決してならないのではないか。


 すこし指摘されただけでも思い至れたそれに、いままでの自分と妹との関係性、交流のありかたを思い返し、ことばを失う。まっすぐな視線を向け続けてくるファーシルは、まるですべてを見透かしているかのようで……反論など、なにも出てこなかった。



「差し出た真似をいたしました。申しわけありません」



 ことばとともに頭を下げるその姿にも、芯の通ったまっすぐさを感じる。そんな姿と対峙するには、迷いを抱いたこの身では余るようにさえ思えた。

 ああ、いや、などという要領を得ない返事をする私に、ファーシルは最後まできっちりと礼をして去っていく。私はその背をしばらくぼんやりと見やっていた。


 なにを考えればいいか、その内容を脳裏に浮かべる余裕もなく、本当にただぼんやりと。しばらくそうしてふと我に返ったのは、ファーシルの姿が完全に見えなくなってからだった。そこでようやく私は医務室へと足を運ぶことへと思い至れたのだ。


 このとき私の足を動かしていたのは、妹を慮る気持ちからではなく、倒れたと聞いた以上、おなじ公爵家の人間としてあの子を家に連れ帰るなりの対処をしなければという義務感だったように思う。


 はっきりとした自分の意思、今後のリーリアに対する態度の方針も決めきれずにいた私は、実際にリーリアに会った直後になってようやく、自らの進みかたをしっかりと決めるに至れたのだ。



「失礼するよ。リーリア、加減はどうだい?」


「お兄様……? どうしてこちらに……」



 どうして。それが感情的な意図を気にしてのものであるならば、このときの私ではこたえを示せなかっただろう。だから必然的に、事実を事実として伝えることしかできなかった。



「さきほどファーシルからリーリアが倒れたと聞いてね」


「……ファーシル様が……」



 うん? なんだろう。なんとなく、いつものリーリアらしくないような気が……。


 いや、いつもの、などと言えるほど近く接してきたわけではないし、イメージがなんとなく違ったというだけだろう。どこがどうとさえ言えないくらいの些細ものなのだから、単なる気のせいかもしれないし。



「それでわざわざいらしてくださるなんて……。お手間をとらせてしまい、申しわけありません」


「いや、気にすることではないよ。妹のためなのだから、兄として当然だろう」


「……ありがとうございます」



 そのときのリーリアの顔を、私はきっと一生忘れない。それこそが、私の背を押す決定打となったのだから、当然だ。

 妹のため、それが家族である以上義務としての意味合いが強くなることを、リーリアが察せないはずはなかっただろう。他家にはもしかしたら情が勝るところもあるかもしれないけれど、バーレンハイム家は多くの貴族にこそ類することに違いはない。


 だというのに。



 リーリアは、笑ったのだ。それはもう、それとわかるほど、うれしそうな満面の笑みで。



 すべての感情を押し込める術を幼い頃から叩き込まれ、それを確実に身につけてきたはずの妹。そんな彼女のこのような笑顔、私はいままでに一度たりとも見たことはなかった。


 家族なのに。……妹、なのに。


 思わず茫然としてしまった私に、リーリアはやや置いてから、はっとわずかに目を瞠る。



「申しわけありません。貴族としてあるまじき態度でした」



 それが感情を露わにしたことに対してだということは、すぐにわかった。そして直後に涼やかな表情を取り戻したリーリアの姿こそが本来のあるべき姿であるということも。


 だけど……私にはそれが、ひどく寂しいものに思えたのだ。


 貴族として、あるべき姿。それは理解している。そう、理解しているのだ。

 私も、もちろんリーリアだって。



 ならばそれは…………建前だけでもいいのではないだろうか。



 うん、そうだ。そうだな。私とリーリアであれば、表裏を使い分け、表できっちりと取り繕うことなど容易いことだ。

 よし。ではこれからはそうしよう。

 家族くらいは安らげる場で、というファーシルのことばと、さきほどのリーリアの笑顔が頭をよぎる。私はリーリアからあのような笑顔を向けられ続ける兄であることを選んだのだ。


 だからそう。まずは。



「いいや。いいんだ、リーリア。私の前で気負う必要はない。私はいつだってリーリアの味方である兄でいたいんだ」


「お兄様……」


「だからリーリア。リーリアには、そのままの私の妹でいてほしい」



 もちろん、公の場以外に限ってしまうはなしだが。そう伝えてほほえみかけ、その頭をやさしく撫でてやる。

 こんな兄らしい行動、考えてみればいままでしたこともなかったな……。そう思えば、リーリアが驚いて目を見開いたことも頷ける。


 うん。これからはもっとこういう、兄らしいことをたくさんしていこう。


 そうこころの中で新たに意気込んだ私は、これがファーシルのことばをきっかけにしたということについては、いまはあえて黙っておくことにした。

 そうしてしばらくして、兄妹として仲がよいと自他ともに認められるようになった頃、ようやくそのはなしをした私は、頭を撫でたときにリーリアが驚いたのは、それがファーシルの取った行動とおなじだったためだと教えられ、密かにファーシルに対抗心を抱くことになるのだが、このときはまったく気づくこともないのだった。




-----


 貴族らしさというものを追いやって、兄妹として確実に信頼関係を築いてきた私とリーリア。それは私たちの間だけではなく家族全体にも影響を広げ、そうして目に見えてどんどん家族仲がよく明るく穏やかになっていけば、使用人たちにとっても働きやすい環境になっていったようだ。

 貴族として、などという凝り固まったかたちに固執しなくとも、その責務はきちんと果たすことができるし、むしろそうした明るい空気にあったほうが仕事の進みも良いと両親も察したらしい。家族ということばの認識が、こうも変わるものだとは思っていなかった。


 我が家はいつの間にか、皆笑顔の絶えないような、そんな場所に変わっていたのだ。


 言うまでもないかもしれないけれど、もちろん外では全員きちんと公爵家として恥じない立ち居振る舞いを見せている。

 そして同時に、内外ともに貴族然としていた我が家が変わったように、私にはほかにも変わったことがあった。


 それは。



「ユリス様」


「ヴィアナ」



 名を呼べば愛らしく顔を綻ばせるひとりの美しい令嬢。伯爵家の次女である彼女は、私の愛しい婚約者だ。

 彼女との婚約は親同士が決めた政略的なものだった。貴族として当然とも言える、互いの家に利があるからこそ結ばれた契約。そこには愛なんて求められてはいない。


 そう。変わったのはそこだ。


 私にとっても、多くの貴族たちの例に漏れず義務的であったはずの婚約が、気づけばこころから望むものへと変わっていた。

 いつから、と、明確な線引きはできない。けれど私の意識の変化は、間違いなく家族仲の変化とともに起きたものだろう。

 公爵家嫡男として相応しくあろうと常に身構えていたときと比べ、対外的にのみそう繕うだけで済むいまは、驚くほど精神的に余裕を持つことができている。そうなると周囲に向ける意識も変わり、結果としてヴィアナと向き合うだけの時間も多く取れるようになったのだ。


 そうして彼女ときちんと向き合えば、彼女のいいところが次から次へと見えてくる。


 未来の公爵夫人として知識や教養、そして我が家の中のことも理解し身につけようと努力を惜しまない姿。私や私の家族、使用人たちにまで気を遣い、やさしさに満ちた接しかたをするその姿。

 そうした内面的なものももちろん、外見ももとがとても愛らしいことは言うまでもないのだけれど、その上で彼女は私の好みに合わせようとしてくれたり、私のためにと自分磨きにも余念がないのだと、とある情報筋から聞いている。


 本当に、どこまでも愛おしい婚約者なのだと、こころから胸を張って言えていた。



「あら。リーリア」



 中庭を散策しながら談笑をしていると、ふいにヴィアナが視線を移す。その視線を追えば、隣接する廊下にリーリアの姿を見つけた。

 彼女のほうもこちらに気づいたらしい。にこやかな笑みを浮かべて歩み寄ってきた。



「お義姉様」



 ヴィアナと挨拶を交わし合うリーリアは、ヴィアナのことをお義姉様と呼び、とても慕っている。ヴィアナもいずれ義妹となるリーリアを、ほんとうの妹のようにかわいがっていた。

 仲の良いふたりの姿には、時折私が置き去りにされている感覚を抱くこともあるくらいだ。

 時にはふたりでお茶会をすることもあるというし、驚くことにそこに母まで混ざることもあるとも聞いている。義理の家族となるとはいえ、そこまで溶け込んでくれているヴィアナには感嘆するしかない。

 おそらくとても気を遣ってくれていることだろうと労りの声をかければ、彼女は笑顔で「いいえ、ユリス様。わたくしもとても楽しませていただいております。気を遣ってくださっているのだとすれば、それはお義母様とリーリアのほうですわ」と返してくれた。リーリアや母からもまた、ヴィアナに対する好意的なはなしばかりを聞いているので、彼女のことを大切に思ってくれているようだと感じている。


 きっととても良好な関係を築けているのだろうと、そう思えた。



「リーリア、これからお城に?」


「ええ」


「ああ、だったらリーリア。ファーシルに会うことがあったら、礼を伝えておいてもらえないか? この間は助かったと言ってもらえれば伝わるはずだ」



 すこしの談笑のあとヴィアナに問われ、リーリアが頷く。それまでのんびりとふたりの仲睦まじい姿を見ていた私は、リーリアのこたえにひとつの頼みごとを伝えた。

 リーリアは私の頼みに一度きょとんと瞬いたあと、すこしだけ眉尻を下げて笑う。困った兄だと言いたそうなその表情に、彼女はすべてを理解しているのだろうと悟った。



「わかりました。ですがあまりファーシル様にご無理をさせないでくださいね」


「わかっているよ」



 リーリアが倒れたあの一件以来、私はすこしずつファーシルと接する機会が増えていった。我が公爵家を変えるきっかけをつくった男だ。興味も持つというものだろう。

 生真面目で堅物という彼のイメージは、彼と接するうちにだいぶ薄らいだ。いや、真面目には違いないし、堅物だと感じる片鱗も確かにあるのだけれど、だからといって融通がきかないというわけではないし、なによりはなしやすい。

 真剣なはなしから、他愛ない雑談まで、幅広く意見を交換したり冗談を言いあったりもできる彼は、私にとって間違いなく友と呼べる存在になっていた。

 時には剣の稽古にも付きあってもらう間柄にもなっていて、はじめこそ堅い姿勢を崩さなかったファーシルも、いまでは私的な場所でさえあれば砕けた近しい態度へと変えてくれている。


 彼は不思議な男だ。ひとを惹きつけるなにかを持つ。


 だからなのだろう。彼の周りにひとが絶えることはなく、その悉くが彼を慕う声を上げているのは。

 去りゆくリーリアを見送って、今度またファーシルに手合わせでも願いに行こうと考えた。



「ほんとうに、リーリアは健気ですわね」



 私とおなじようにリーリアを見送ったヴィアナが、ぽつりと漏らす。それがなにを示すかわからないわけではないし、この邸のもの全員……それこそ私の家族はもちろん、使用人たちも余すことなく同意見であるため、このはなしが外部に漏れる心配は万にひとつも存在しない。



「そうだね……。兄としてはリーリアにもしあわせになってもらいたいところではあるけれど……」



 ファーシルは、実はどうやらリーリアに懸想しているらしい。一応リーリアは王太子殿下の婚約者という身ではあるから、はっきりとそうだとくちにしたことを聞いたものはいないようだけれど、その行動からだれしもが察していた。

 彼は彼のその広い交友関係ほぼすべてにおいて、リーリアのことを褒め尽くしているらしい。

 それは私や、私の家族に対しても例外ではないのだから、ひと伝えに聞くそのはなしも、おそらく誇張でもなんでもないだろう。

 リーリア本人に対しても、その行動、努力を直接褒めることもあるという。それだけの熱量が、好意以外からくるものだとはだれから見てもとても思えなかった。

 もちろんそうしてリーリアの良いところをあちこちではなして回っていることなど、ファーシルがリーリアに伝えたりなどしていない。けれどこれだけ多くに語っていれば、当人が知るに至ることなど当然とも言えるだろう。

 リーリアはそういったはなしが耳に届くたびに、邸の中では頬を染め上げ恥じらっていた。兄の欲目かもしれないけれど、それはとても愛らしい姿でほほえましくなる。

 ただ、リーリアは自分の置かれている立場を、だれよりも痛いほど理解していた。だからこそ外ではしっかりと王太子殿下の婚約者として振る舞い、その仮面を決して外したりなどしない。仮面を外せる邸内でのリーリアの様子を見ていれば、リーリアもまたファーシルに好意を寄せていることなど一目瞭然だったりするけれど、仮面は見事にそれを押し隠してくれていた。


 さすがは公爵家の令嬢だ。我が妹ながら、感嘆する。


 まあ、うん。外でもすこしばかりファーシルをお茶に誘ったりなどすることはあるけれど、それも一応婚約者のいる淑女としての体裁を逸脱しない方法を選び、見咎められるようなかたちを取ったりはしていない。私は概ねダシに使われているけれど、かわいい妹のささやかなしあわせのためだ。そのくらいよろこんで受け入れている。

 そんなリーリアはともかく、ファーシルはさすがに咎められたりしないだろうかとハラハラした時期もあった。しかし周囲は断然ファーシル贔屓の空気にある上、国王陛下や王妃殿下でさえ黙認してくださっている節がある。


 ……いや、まあそれはそれでフォーレン殿下が王太子で本当に大丈夫なのか不安にもなるのだけれど。とはいえ、それは私がくちを挟んでいいような問題ではないことくらい重々承知している。リーリアを思えば、こころ苦しいことこの上ない。


 せめて殿下がそういうこころの機微を汲めるようなかたであったなら、まだリーリアの相手として見ることができる可能性もあったかもしれないけど、それは所詮空想でしかない。現実、あのかたはどこまでも自分だけしか見えていないからな……。

 ファーシルが懸命に更生を試みてくれているようだけれど、あれは無理だろう。いっそのこと、一刻も早く陛下たちが見限ってくださることを祈ったほうが、よほど建設的にさえ思える。



「そういえば、ユリス様。ご存知でしょうか」


「うん?」


「実は密やかにファーシル様を応援し隊なるものが存在するそうですわ」


「ファーシルを、応援したい?」


「はい。その名の通り、ファーシル様の恋路を密やかに応援する者たちで結成された、いわば同志連合のようなものなのですけれど、ファーシル様と関わりのある貴族のご子息やご令嬢をはじめ、その親や、ファーシル様を知る使用人たちまでも、それはもう幅広く加盟しておりますの」



 ええ……さすがに知らなかった……。



 ファーシルの人望がとても厚いことは知っていたけれど、そんなに誰彼構わず味方につけるとは……恐ろしいほどのひとたらしだな、ファーシル。まあ、私もそのひとりに間違いはないから、あまり他人事でもないよなあ……。



「基本的にはこころのうちで応援をしているのですが、ときには不自然にならないよう細心の注意を払いつつ、援護することもございますの」



 ちなみに名称は、応援したいと部隊をかけて、応援し隊となるらしい。命名者が気になるところだ。



「……ちなみにそれ、ヴィアナは……」


「申しわけございません。ずっと隠しておりましたが、実はわたくしも隊員のひとりなのです」



 ああ、うん。はなしの流れからそうなのだろうなとは予想はできていたけれど。



「ちなみに、我が家の家族や使用人たちはもちろん、ユリス様のご両親や公爵家の使用人たちも隊員でございます」



 ……………………。


 …………こ、ことばも出ない…………っ!


 全然知らなかった事実に茫然とする私に、ヴィアナはにっこりと愛らしくほほえみかける。



「悟られないように行動することが大前提になりますもの。それで、ここからが本題なのですけれど、ユリス様。ユリス様も、隊員になられませんこと?」



 うん、まあ、いろいろとショックを受けたことは事実だし、かなり驚いたことには違いないけれど、どうあれその誘いへのこたえならいついかなるときであろうとも変わらないだろう。



「もちろん。よろこんで加盟させてもらうよ」



 むしろ設立者でなかったことが悔しいくらいだ。

 こうして私は、リーリアとファーシルのことが決して咎められないことに、きっちり裏事情があった事実を思い知ったのと同時に、王太子殿下の人望のなさも改めて知ることになったのだった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ