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オンラインゲーム・ギャングスタ  作者: 神立雷
第一章 VRゲームのランカーは、不遇職の初心者少女
13/22

VRゲームのランカーは、不遇で初心者な、エンジョイ勢




     ◇◇◇



「……オイオイオイ、どうなってんだよオイ」


「どういうことー? 早くメタモれってー」




 完璧だった。そのはずだった。

 事前の検証と準備。

 思うがままに動いた初心者。

 滞りなく進んだボスのHP削り。

 残っているのはとどめを刺させるだけで、失敗は万に一つもないとマツダイたちは考えていた。


 しかし、それは起きた。



「…………ぁ……」



 マツダイたちの目に映る、ぴくりとも動かなくなったスゥの姿。

 それは彼らにとって、まったく想定外のことだった。



(……なんで動かねぇんだ。どういうつもりだ、あの女)



 目の前にはモンスター。そして自分はそれを狩りにきたプレイヤー。

 だったら普通は攻撃をする。ゲームとは、VRMMOとはそういうものだ。


 しかしスゥは、動かない。

 その表情には、ただ怖いと。それだけを映して固まっている。

 それはマツダイたちにとって、不可解で仕方がないことだった。



「なァにをやっててんだよ、ぱぱっとスキルうちゃあ終わンのによォ~! 紙にもそう書いてあっただろうがよォォ~!」


「食われたら全部ポシャるってー、マジで頼む、動いてくれよパイパイデカ美ちゃんよー」




 あわてる仲間たちの声。それを聞くマツダイだって当然焦っていた。

 頭が疑問符でいっぱいになり、苛立つ気持ちが抑えきれない。


(なんで何もしねぇんだよ……クエストの紙見てアレを殺しに来たんだろ? だったらそうしろよ。何をやってんだよ、クソ。早くやれよ、やれってマジで。頼むから)


 マツダイはVRMMOガチ勢だ。

 だからこのゲームのことは何でもわかっているし、どんな時だって適切に行動できる。


 しかし、そんな彼であっても、今はただ焦り、願うだけだ。

 目の前の出来事は見ていても、その原因がさっぱりわからなかったので、そうするほかなかった。




「モンスターぶん殴ってぶっ殺すのがMMOだぞー? そうすりゃヘビも消えるんだぞー? 早く殴れよー、スキルでぶっ殺せってー」


「何しに来たんだあの女はァ……ヘビぶっ殺すクエストやりに来たんじゃねェのかよォ!」


(なんで突っ立ってんだ。なんでボス見て……なんで……)



 マツダイにはわからない。

 なぜスゥは《変身(メタモル)》をしないのか。

 なぜ攻撃しないのか、なぜ突っ立ったままなのか。

 そして、なぜ。



(なんで、泣いてんだよ)


「……アレ? な、なんか泣いてねェ? どうしたんだよ、何かあったかァ? どこかに頭ぶつけたのかァ……?」


「……そういやこのゲーム、涙も出るんだったっけなー。泣くやつひっさびさに見るから忘れてたわー」



 なぜスゥは、涙を流しているのか。

 その全部が彼らには、これっぽっちもわからなかった。


(ガタガタ震えて、ビビって、泣いて……意味わかんねぇ。たかがゲームで、たかがVRだぞ)


 マツダイたちには理解できない。

 きっとこの世界の大多数だって同じだろう。


 大きなスクリーンでホラー映画を見て、身の危険を感じる者はいない。

 モニターに映ったアニメキャラクターに、本気で求婚する者はいない。

 なぜなら皆、それがエンターテイメントだと知っているからだ。

 偽物だと知ったうえで、作り物として出来が良いやら悪いやらを楽しんでいるのだ。


 だったらゲームも同じだろう。少なくとも、それがこの世界の常識だった。

 どれだけリアルであったとしても、()()()は実際にいる訳ではなく、自分の体もまた現実のものではない。

 全部がそれっぽく見せられているだけで、全てが偽物でしかない。

 例え目の前にいるのが、大地を揺らす巨像であったとしても。

 それはただの映像で、世界に投影された虚像でしかないのだ。



(食われても消える訳じゃねぇし、本当に死ぬ訳でもねぇんだぞ。それで泣くとか……はぁ? 馬鹿じゃねぇの? 馬鹿だろマジで)



 空を見てきれいだの、海を見ておおきいだのとはしゃぐ奴らがいるのは、マツダイだって知っていた。

 そんな感想を持つ気持ちも多少はわかるし、何とか理解もしていた。


 しかしそれは、あくまで“出来の良い映像”を見た感想だと認識していた。


 “本物みたいな偽物だ”という意味の感想だと。

 全部が作り物だという前提をわかっていて、そういうものとして()()()()()()()見ているのだと。

 そう思っていた。


 仮初の命の危険に怯え、偽物の化け物に恐怖して、仮想の体で涙を流すプレイヤーがいるなんて、マツダイたちは思いもしていなかった。




     ◇◇◇




「……早く殺せよォ、なんで泣いてんだよォ」


「んー……ヘビが怖い、とか? それで泣いてるとかー」


「はァ? いやいやいや、ンな訳ねェって。この前はアイアタルの眷属にがっつりスキルぶっ放してたじゃねぇかよォ」


「でもなんか泣いてんじゃん。ボス見ながらさー」


「……マジでワケわかんねェ、たかがゲームだぞ。ゲームで泣くとか理解できねェわ」




 “たかがゲームなのだから”。

 意外にも彼らガチ勢は、常々そう考えていた。


 人生の限られた時間の大部分をゲームに注ぎ、本気で真剣に全力でゲームで遊ぶ、現実を捨てた廃人たち。

 そんな彼らを“ゲームの世界で生きている”などと称する者はたくさんいたが、それはまったく的外れであった。


 彼らVRMMOガチ勢は、誰よりも強く、ここがたかがゲームの世界であると考えている。

 全部が全部が作り物で、感動も恐怖も歓喜も憤怒も、意図的に与えられたものだと信じ切っている。

 そうだとわかった上で、誰よりもゲームという遊戯をしている。


 だから彼らは、馬鹿にする。

 周囲を貶し、不正をして、迷惑をかけ、悪事を働く。

 他人を殺し、仲間を刺し、命を捨てて、世界を壊す。


 現実ではほとんどしないが、ここはゲームの中なのだから。

 だったらどんなことだって、下らないゲームの範疇であるはずだった。



(……たかがゲームに、本気で心を動かしてんじゃねぇよ)



 結局VRMMOなんて、集団で見る夢で、いつかは消える幻覚で、全部が全部はただのデータでしかない。

 それが彼らの正しさだった。

 たかがゲームをたかがゲームと馬鹿にして、そのうえで本気で攻略をするのが、ガチ勢なりの『エンジョイ』なのだ。




「オ゛……ヤベェ。マップ見ろオイ、誰か来てんぞォ~イ」


「あー、あー、マジかー? ボス出てんの見られたかー?」


「数6。速さ的に徒歩移動、足並みそろってるし多分ボス狩り勢だなァ」


「どうすんだー? これで『正義の旗』とかに掻っ攫われたら全部台無しだってー」



「来てる奴ら殺すかァ?」


「ここでー? 流れ弾一発でボス死ぬぞー?」


「……ア゛ァ~……そうだよなァ~…………アァもうマジダリィ! だからエンジョイ勢って嫌いなんだよなァ~! ゲームしに来といてゲームをしねェからよォォ~ッ!」


「ただの映像にビビって動けねーとか、Living(リ ) ()Hearts( ハ)どころか戦闘があるゲーム自体向いてないわー。おとなしく動物ゲーとか着せ替えゲーやっとけってー」




 だから彼らにはわからない。

 ゲームをしに来たはずなのに、ゲームをしようとしない少女が。

 ただの映像信号に怯えるスゥが、わからない。


 ゲーム初心者のスゥが、ガチ勢たちの見ている世界が何もわからないように。

 ガチ勢である彼らには、スゥの気持ちがこれっぽっちもわからない。


 初心者変身師(メタモラー)の『スゥ・ラ・リュンヌ』は、恐怖でボスを殺せない。

 それはこの世界を数値でしか見ていない彼らにとっての、唯一の計算外だった。




「つーか、オイオイ。向かって来てる奴らクッソ加速してンぞォ? これ移動スキル使ってんなァ!」


「そんなん確実にボス狩り勢じゃん。我々のボスに手ぇ出すなよ、いやらしいー」


(なんだよ……なんなんだよもう…………マジで訳わかんねぇ)




 そうして彼らのボス狩りは、ここで失敗を迎えることになる。

 数値上はすべて完璧であったが、たったひとつの誤算によって、すべての計画が崩れ落ちる。




「ンだよもォ~! せっかく必死でお膳立てしてやったのによォ~!」


「あーあ、時間とアイテム無駄にしたわ。ホントしょーもなー」


(……なんでそんなこともできねぇんだよ、クソエンジョイ勢が)




 ゲームしかして来なかったガチ勢には、他人の心がわからない。


 他人の心がわからないから、こうなってしまう可能性なんて、考えつきもしなかった。




     ◇◇◇




「オラッ、クソネコォ! どうすんだァ!?」


「横取り勢PKすんの? それともボス殺んの? どうする? どっちにしたってもう行くっきゃねぇぞー」




 ミニマップ上のどんどん近づいてくる青点は、そこにプレイヤーがいる証だ。

 それが近づくスピードは早く、もう時間がない。やるなら覚悟を決めるしかない。


 馬鹿じゃねぇのか、とマツダイは思った。

 命のかかったデスゲームじゃあるまいし、何を涙を流しているのかと。

 ふざけんじゃねぇ、とマツダイは思った。

 ここまで必死に用意したのに、これじゃあ全部台無しだと。


 そしてマツダイは、心の底からガッカリした。

 変身師(メタモラー)の可能性を見せてくれたスゥ。

 それによって少しだけエンジョイ勢を見直していた。

 だから彼女たちに“ボス討伐者”の称号をくれてやろうとしたとのに、蓋を開ければこんな結末だ。


 せっかく一発で倒せる状態でボスを連れてきてやったのに、ぴーぴー泣くのをするばかりで、施しを受け取ることすらできていない。

 かけたカネと時間と労力が全部ムダになり、頭の中はスゥへの憎悪で染まった。



(はぁ……萎えたわ…………ほんとエンジョイ勢って下らねぇ)



 他人を人とも思わない、冷たく非情なガチ勢の思考。

 そうだからこそこの状況があり、だからこそ彼らには初心者のことが理解できない。


 それに、理解しようとも思わない。

 なぜなら彼らは、エンジョイ勢が嫌いだから。


 ゲームの世界を中途半端に楽しんで、勝っても負けてもヘラヘラして、努力もせずにおいしい思いだけしようとして。

 そのくせ最後は、決まって言うのだ。

 “ゲームに本気になるのは馬鹿だ”と。


 自分もレベルを上げに来ているくせに、レベルを誰より上げたガチ勢たちをあざ笑い。

 自分もカネを稼ぎに来たはずなのに、誰よりカネを稼ぐマツダイたちを見下してくる。

 そんな奴らをどうして好きになれるものか。


 だからガチ勢にはエンジョイ勢が理解できないし、理解したくもなくて、心の底から大嫌いなのだ。



「……もういい、しょうもねぇ。俺が殺すわ」


「ア゛ァ~?」


「あーそー」



 そんなエンジョイ勢のせいで、全部が全部無駄足となった。

 そうして結局、ボス討伐者ランキングに載って晒し者になることが決定した。


 マツダイはEAKと椎茸強盗にそれを伝えると、死刑台にのぼる気持ちで[【The Weeder】アイアタル]の元へ歩き出す。




「ア゛~…………しゃあねェ! 全員同時にボスぶん殴ってよォ、ヒキ負けした奴がババ引こうぜェ!」


「んだよもー、結局こういう感じかよもー。恨みっこなしだぞクソ共ー」


「え」



 ボスに向かって歩く黒猫。それと横並びで、茶色いスライムとヤギ頭のガイコツが歩きはじめる。


 本来トーナメントで負けた自分の役割、ボスの討伐。

 だがなぜだろうか、仲間は一緒にやると言っている。

 そんな2人の行動に呆気にとられたマツダイは、何とも言えない気持ちになって彼らから目線を外した。



 そして、その視線の先で。


「スゥちゃんを怖がらせる悪~いヘビは、朱がやっつけちゃいますからね」


 その目に、朱色を映した。




     ◇◇◇




「出発っ! 進行ぉーっ!!」



「……は? ちょっと待って……え? えー?」


「はァァ~? えっ、何アレ? 何してんのアレ?」


「……にゃんだ、あいつ」




 蒸気工師(スチームパンカー)。それは()()()()()だ。

 なぜなら元々、そういう存在として実装されているのだから。


 汽車を動かすため、蒸気機械を動かすため、ただのそのためだけにいる存在。

 それは鍛冶師が鉄を打つためにいるように、裁縫師が糸を紡ぐためにいるように、蒸気工師(スチームパンカー)は蒸気で何かを動かすためにいるのだ。


 そして、そうだから。

 その[スチームエンジン・オブ・クロックワークス]は、そうして使うものではない。


 そうして使うものではない、はずだった。



「てぇぇぇやぁぁあああああーっ!!」



 小さな少女が空を飛ぶ。不遇職のエンジョイ勢が、ヘビに向かって飛んでいく。

 その速さも強さも勢いも、マツダイは見たことがないものだった。

 


「ちぇぇぇぇすとぉおおおおおおっ!!」



 無茶苦茶な勢いで蒸気を吐き出すスチームエンジン。

 それを抱える初心者少女が、前例のない飛び方で、誰も見たこともないスピードで、初めて見る大きなヘビに突っ込んでいく。


 少女に猫目が釘付けなマツダイ。

 その頭に、不思議なことが思い浮かぶ。



(……誰もやったことないし、そんなやり方どこにだって書いてないし、どうなるのかもわからないのに。……お前はどうして、そんなに思いっきりできるんだ)



 ガチ勢であるマツダイは、必ず『ぶっつけ本番』をしない。

 いつだって、事前情報をきちんと揃え、検証やテストを十全にこなしてから、いよいよを持って本番を迎えてきた。


 それは何も仮想世界だけの話ではなく、現実世界でだって同じだった。

 知らないことには手を出さない。わからないなら先へ行かない。

 “怯え”は“利口”であると考え、挑戦から逃げ、冒険を避け、無謀を嫌って生きて来た。


(なんでお前は、後先を考えないでいられるんだ。なんでお前は……怖がらないんだ)


 だからマツダイには、朱のことがさっぱり理解できなかった。

 前例のない未知を、ためらいもなく全力でやってしまえる彼女が、まったく知らない生き物に見えた。



(……なんでそんなことできるんだよ。ただのエンジョイ勢が)



 ボスに睨まれたスゥの()()()が理解できなかったマツダイは。

 今度はボスに突っ込む朱の、その()()()()()()を、理解できなかった。




     ◇◇◇




<< おめでとうございます >>

<< 『ココノハ大森林』の領域守護者[【The weeder】アイアタル]が 朱朱朱朱(あけしゅあかしゅ)によって殺害されました >>


<< これにより――…… >>



「…………ウッソだろオイ」


「信じらんねー……」


「いや、お前……朱朱朱朱(あけしゅあかしゅ)…………えぇ……」




 目的は達成された。

 ボスは倒され、自分の顔は知られず、新しいエリアは開放されて、すべては良い結果でおさまった。


 しかしそれでも、計算外はたくさんあった。

 恐怖で動けなくなる初心者もそうだし、蒸気で空を飛んだ初心者もそうだ。


 だがその中でも一番の計算外は。

 マツダイのインターフェイスにはっきり残る馬鹿げた戦闘記録(5999ダメージ)だった。



「お前…………5999って…………」



 彼らガチ勢はこのゲームのトップだ。

 だから何でも知っているし、どんなことでもできると言えた。


 だけどそれは知らなかった。

 そしてきっと一生思いつくこともなくて、“自分でもできた” なんてとてもじゃないが言えなかった。



「……いや、最高与ダメージランキング2位って………………」



 計画は成功した。

 ボスは死に、彼らは名前が晒されず、新しいエリアにも行けるようになった。

 しかしそれでも、予定は丸ごとぶち壊されていた。


 プライドが高く、他人を認めず、トップの自負を持つガチ勢のマツダイ。

 そんな彼は今、初心者で不遇職でエンジョイ勢な彼女に対して、確かな敗北感を感じていた。



「……そこまでしろとは、言ってねぇよ…………」




     ◇◇◇




     ◇◇◇




 その日、Living(リビング) Hearts(ハーツ)の公式ホームページは、稀に見るアクセス数を記録した。


 主に閲覧されたページは、『領域守護者討伐数ランキング』と『最高与ダメージランキング』。

 その両方には『クラン無所属 朱朱朱朱(あけしゅあかしゅ) 蒸気工師(スチームパンカー) レベル1』と一緒に、元気に笑う赤髪赤目の少女の顔が表示されていた。




     ◇◇◇




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[一言] この客観性の高い文章がたまらない (=´∀`)
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