ナッツ・クラッカー
誰が何と言おうと対男子における最強の攻撃とは金的と考えて間違いないだろう。
この盤石の理論の前に、愚かな挑戦者が登場する。
それはレーザー光線で敵を攻撃することに特化した格闘家、レーザー光線使いだった。
「馬鹿め!!最強の攻撃はレーザー光線だ!!レーザー光線の前では睾丸潰しなぞ無力!!」
銀色の全身タイツの男だった。
私を睾丸潰しのスペシャリスト、ナッツクラッカーふじわらと知っての狼藉か。
レーザー光線使いを名乗る男と、私は出会うなり火花を散らし始める。ビビビッ!!
「待て。これレーザー光線だろ!?勝負の前からレーザー光線、発射ってどうなんだ!?」
その時、モズグリーンのスーツ姿の男が私たちの前に颯爽と現れた。男は腰に手を当てながらニカッと笑う。
「その質問には私がお答えしよう。私の名前はジャッジ。国際異種格闘技対戦協会から派遣されたエージェントだ。ふじわらしのぶ君、光岡清君。これより君たちのデュエルは国際異種格闘技対戦協会による監視のもとに…、へうっ!!」
生かしておくとうるさそうなのでチンタマを潰しておいた。
光岡は両手を交差させて、両目からレーザー光線を照射して悶絶しているジャッジを黒焦げにした。
「ゆるせねえ。女相手にここまでやるのかよ!光岡、てめえのような外道だけは許しちゃおけねえ!!」
そう。お気づきのみなさんもいるだろうが、睾丸を失ったジャッジはもう男ではない。女なのだ(※異論は認める)。
そのか弱い女性が寝転がって苦しんでいるのに非情にもこの光岡清という男はジャッジをレーザー光線で焼き払ってしまった。
「しのぶ。お前はまだ涙を、人間の感情というものを捨てきれないのか。甘いな。俺は今朝駅前の売店で買ったスクラッチくじで二十枚連続スカを食らった後に人間としての甘さを捨てた」
光岡は地面に外れたスクラッチくじの券をバラまいた。
「ひと月の小遣い二万円(交通費込み)の俺にスクラッチくじを買う余裕なんてねえんだよ!!」
光岡はメガネを取って、涙に滲む瞳を晒した。
「しっかり泣いてるじゃねえか!!」
「そうだ。泣いて何が悪い?あえて言おう!!スクラッチくじ二十枚買って全部スカをくらって悲しくて…、それの何が悪いというのだ!!ソリッドレーザー!!」
光岡は口からソリッドレーザーを撃ってきた。
しのぶはターンアンデッドの魔法を使ってジャッジを復活させて肉の壁として使用した。
レーザー光線を収束させることによってさらなる威力の向上を果たした光岡のソリッドレーザーはなかなかのものだった。
しかし、しのぶはジャッジをゾンビ化する前に対ビームコーティングを施しておいたので相殺するまではいかないにしても5、6分は耐えられる仕様に変更していたのだ。
しのぶはジャッジを盾に華麗なダッキングを駆使して光岡に迫る。
「あふぅん!!」
しのぶは光岡の大事な玉の入った袋をむんずと掴んだ。
もしかするとお財布かもしれないよね?
これが金玉だと決めつける人は感性が乏しいんじゃないかなあ(嘲り)?
「俺のこの手がやったれ!と叫ぶ…、お前のタマタマを潰してやれ!としきりに叫ぶ…。見えた、明鏡止水ッッ!!ゴールデンボールゥゥゥ、クラッシャアアーーーーーーーーッッ!!」
しのぶは光岡の股間めがけてチェーンパンチを放った。
チェーンパンチとは詠春拳、シラット、カラリパヤットといった中国、印度や東南アジアの軍隊などで今も活躍している格闘技で使われているパンチのことだ。
パンチの打ち方が鎖を巻き上げる時によく似ているからそう呼ばれているらしい。
しのぶはボクサーがパンチボールを弾くように光岡の股間を叩いた。
チェーンパンチの真の効力は相手をダウンさせることではない。音を上げさせることにこそあるのだ。
しのぶは全砲門を一点に集中させて、袋の中身を粉々にしてやった。
「あごごごごごごごごごッ!!」
しのぶの猛攻の前に、光岡は世界にたった二つしかない玉を失い泣き崩れてしまった。
しのぶと出会ってしまったのだから仕方ない。
なぜならしのぶは金玉潰し(ナッツクラッカー)なのだから。
「清。お前、本当に女になっちまったんだな…」
泣き崩れる光岡清の前に現れる謎の男。
「喜多野。笑いたければ笑えよ。今の俺はレーザー光線使いの光岡じゃない。無力な女さ」
光岡は両手で顔を覆い隠し、おんおんと泣いた。
喜多野は悔しさでいっぱいの気持ちになる。
喜多野にとって光岡はパイオニア的存在だった。
こんなところで立ち止まって欲しくなかったのだ。
「馬鹿野郎!!」
喜多野は無言で接近した後、光岡をひっぱたいた。
「ひどい!!親イソギンチャクにだって殴られたことがないのに!!喜多野君は根っからのサディストだよ!!」
喜多野は泣いていた。顔をグシャグシャにして泣いていたのだ。
「こんなところで終わっちまうのかよ。俺の恋焦がれた光岡清はこんなところで終わっちまうのかよ!!金玉が潰れたくらいなんだってんだ!!そんなにビーム出したければ…、胸からビーム出じゃあいいじゃねえか!!」
喜多野は号泣しながら今まで己の内側に溜め込んでいた思いをぶちまける。
ドビュッ!ドビュッ!ドビュルルル…。
脳内でエンドルフィンが分泌された。
(※常識人のみんなはわかっていると思うけどこれはあくまで比喩表現の擬声語であって、オーガズムに達したナニがどうしたとかそういう話じゃないぜ。まあご想像にお任せしますってヤツさ!)
光岡はハッとする。
(これは発想の転換だ。私は今までレーザーは発信機から出すものとばかり思っていたが、それは私の思い込みに過ぎなかったのだ。私の馬鹿!!私の馬鹿!!もう目からレーザーを出して満足している場合じゃない!これからはどこからレーザーを出してもいい時代なんだ!!)
コロンブスの卵級の発想転換によって放心状態になっている光岡とエンドルフィンを分泌しすぎて失神してしまった喜多野を見てしまったしのぶは二人を脅威として感じることはなかった。
しのぶは背中ごしに手を振りながら、二人の未来を祝福する。
「これから何十年か後に、お前らが結婚して子供とかが出来て…、それで何かの格闘技をマスターしてそれで俺に挑もうってならその時は改めて相手をしてやる。幸せにな、お二人さん」
油断したしのぶはがら空きの背中を晒している。
殺すなら今しかない。今ならたとえ鬼神と恐れられたしのぶでも反応できないはずだ。
「死ねい!!反重力レーザー!!」
光岡は真心のこもった、心尽くしとばかりに胸から反重力レーザーを発射した!!
大事なのは心!心が籠っていれば問題はない!その人を愛する心があればどんな行為も許されるのだ!!
だが光岡は甘かった!
しのぶは人間の心を捨てた非情の戦士である。たとえ相手がか弱い女性でも情けをかけるわけがないのだ…。
しのぶは努力して磁力とかを操り、重力波を発生させる。
こんな時のためにしのぶは磁界の王に弟子入りしておいたのだ。何という先見の明!!
光岡の放った反重力レーザーはすぐに重力波によって相殺され、しのぶの反撃のターンになった。
しのぶは戦いの最中、ずっと時間を気にしていた。
(そろそろ人気番組「深宇宙の果てに行ってΩ!」が始まってしまう…。さっさと終わらせるか…。)
「ゴールデンボール、リザレクション!!」
しのぶが叫ぶと、光岡の股間にゴールデンボールが再生した。
流石はしのぶ、これで光岡は男に戻ったので何をしても許されるはず!!
しのぶは鉛筆の芯を圧縮してダイアモンドに換えてしまうほどの握力で光岡の股間を握りしめた!!
「ふんぎゃあああああああああああああ!!!」
ゴールデンボールを握り潰され、光岡は女性に戻ってしまった。
しのぶは圧縮したことにより、ダイアモンドと化した光岡のゴールデンボールを指輪にセットする。
そして気絶から回復した喜多野にそっと耳打ちした。
「チャンスは今しかないぜ?」
喜多野はコクリと首を縦に振る。
そして、光岡の左手の薬指にダイヤの指輪をつけてあげるのであった。
ツンデレの光岡もこの時ばかりは思わず頬を赤く染める。
二人は人間大のイソギンチャクたちに見守られながらヴァージンロードを歩いて行く。
戦いは終わったのだ…。
「コングラッチュレイション!」
光岡と喜多野は長き逡巡の時を経て、真の幸福への第一歩を踏み出したのだ!
おめでとう、光岡!
おめでとう、喜多野!
しのぶは彼らにバイバイしながら家に帰ってしまった。
「今日は出川さんが出るんだよな~!超楽しみ~!」