ウィング
人には向き不向きというものがある。
器用な人、不器用な人。花冠を作るのが上手い人、上手くない人。
アルは13年という己の人生のなかで初めて花冠を作った。
元来不器用な少年が一時間使ってつくりあげたそれは、花冠というにはあまりにも心許なく、まるで使い古されたボロ雑巾のようであった。
編み目はぐちゃぐちゃで、ところどころから花の茎がはみ出しているし、いくつか花弁はもげ落ちてしまっていた。
あまりにもひどい出来だった。
とてもじゃないが人にあげられる代物ではない。
休憩時間が終わるギリギリまで作っていたので当然、作り直す時間などはない。
アルはもどかしい気持ちを抑えてまた明日改めて花冠を作ることにした。
手元にあるくたびれた失敗作はもどかしい気持ちと一緒に岩の後ろに隠した。
明日こそは絶対上手く作るんだ!そして姫様を喜ばせる!
アルはそう固く決心をして訓練場へとかけ足で向かった。
午後の訓練は剣技だ。2人1組になって行う。
アルは最年少の少年兵、おまけに小柄で華奢なため誰も彼とペアを組みたがらない。
体格差が他の者とありすぎるのだ。
そのためアルはこの訓練に入る前のペア探しにいつも苦労する。
騎士昇格試験が迫っているからか、隊員達はどこかピリピリとした空気を纏っていた。
いつもの訓練ではあるものの、緊張感が漂っている。
試験は来月だ。
この試験で自分の人生が大きく変わるかもしれないのだ。
アルは改めてそのことをこのピリついた空気を通して実感した。
そうだ。本当は花冠なんて編んでいる場合ではないのだ。
死ぬ物狂いで頑張らないと落ちる。
ただでさえ騎士の採用枠は少ないのだ。それにみんな本気で騎士を目指している。それは周囲の隊員達の目を見れば分かることだった。
みんな来月の昇格試験に全てをかけているんだ。
「ようアル。俺とペアになろうぜ」
張り詰めた空気のなか、急に肩に手を置かれたことでアルはびくりと全身を強張らせた。
「ウィング!」
勢い良く振り返ればそこに立っていたのはウィングだった。
ウィングはガタイが良く、声や仕草がいちいち大きいのでアルはこの眼前に立つ大男が苦手だった。
「どうせお前まだペア決まってねぇんだろ?それともお前みてぇなやつと組みたがる頭のおかしいやつでもいたか?」
ウィングはアルの頭を乱暴にかき乱した。わしゃわしゃとかき乱す手の感触が不快だ。髪はボサボサになった。この男のこうしたガサツな振る舞いもアルは苦手だった。
「まだ決まってないけど…。」
「なら組もうぜ!ほら、腰の剣を抜きな」
アルはしぶしぶウィングと組むことになった。
腰に刺さっている訓練用の剣を握る。
「ところでよ、アル。お前は来月の試験受けるのか?」
ウィングとアルは剣を向け合う。最初は軽く、剣の型を準備運動代わりにとるのだ。
「ウィングは受けるの?」
「まぁな。だって騎士だぜ?そらだれもが憧れるし目指すべきところだろ。なんせ騎士になりゃ一人一部屋個室があてがわれるし、風呂や食い物にだってこまらねぇ。こんなむさ苦しくていつも食料が足りてないひもじい軍に誰がこの先もいたいと思うんだよ?それになんてたって騎士だぜ!騎士!栄誉誇り高き騎士になれるんだ!」
ウィングはまるで小さい子供が夢を語るように目をきらきらとさせて大袈裟に語った。
感情が剣に乗ったのか、力が強い。
アルは構えている剣でいなす。
「ウィングは騎士に憧れているんだね」
「お前は違うのか?」
「僕は…」
アルだって騎士に憧れがある。
騎士になればウィングの言う通り、軍とは違ってかなりの高待遇を得ることが出来る。
けれど、そんなことよりも。
ライザの側にいられることの方が大事だった。
彼女ともっと多くの時間を過ごしたい、そのために騎士になりたいという気持ちの方が強かった。
女の子1人のために騎士になりたい、なんて不純だろうか。
けれどアルは本気だった。
「お前の騎士になりたい答えはあの花冠にあるのか?」
「え?!」
一瞬動揺してしまったため、反応が遅れた。
構え直したが遅い。ウィングの剣は容赦なくアルの肩に衝撃を喰らわせた。
「〜〜〜っ‼︎‼︎‼︎」
軽くとはいえ、大男が振るった木刀の威力だ。かなり効いた。
アルはその痛さに悶絶する。出したい悲鳴はあまりの痛さに声にならない。
アルは地面に膝をついた。
「み、見てたの?」
痛みを我慢し、やっとの思いで出た声は情けない程か細かった。
「おうよ。お前、次からは俺を呼べよ。少しなら手伝えるからさ」